『言いまつがい』装丁伝説!
あのへんな本をつくった人たち。
祖父江慎×しりあがり寿×糸井重里

第3回 字がたくさん書いてある指定書

糸井 製本所とかに、祖父江さんっていう人の
「悪名」みたいなものは
轟いてないんですかね?
── 「祖父江って人がデザインすると
 ひどい目に遭うぞ!」みたいな(笑)。
工場を見学したかぎりでは大丈夫でした。
祖父江 あぁ、よかったー(笑)。
糸井 それが轟くようにしたいですね。
その、注文の紙が回ってきてさ、
「祖父江慎」って
書いてある場合には断れ!
とかね(笑)。
祖父江 でも‥‥ある。
糸井 ある(笑)?
祖父江 うん。なんか、印刷所が決まってて、
見積もりも済んでたはずなのにね、
ぼくの書いた造本指定書を
出版社の人が印刷所に渡したとたんに
印刷所の人が、
「あ、これ、もしかして‥‥
 祖父江さんの仕事ですか?
 ちょっと、前に出した予算では
 できないと思いますんで、
 見積もり切り直させてください」
って言われたんだって! ひどいよね?
糸井 「祖父江」って名前見たとたんに(笑)?
祖父江 名前は書いてなかったんだけど、
その、指定書の書きっぷりで。
糸井

ああ、
「AじゃなければBにしてください」
みたいな細かいことが書いてあるやつだ。

── 細かいですよねぇ、祖父江さんの指定書。
そのときも細かく指定を?
祖父江 うん。本の形書いて、
ここの寸法はこう、ここの加工はこう、
この折の印刷はこうで、
高ければこの紙に変更して、
それでないときにはこの紙を使用、
とかいうね、
字がたくさん書いてある指定書なんです。
便利ですけど、
めんどくさそうに見えるかも。
糸井 あははははは。
しりあがり あの、ぼくが会社員のとき、
とあるビールのポスターのデザインを
お願いしたことがあるんですよ。
糸井 えっ? そんなことしてたの(笑)?
しりあがり うん(笑)。それで、そのときは、
なんかすっごい複雑な製版指定が来て、
ほんと誰もわかんなかったの。
キリンの関係者、電通と、
あと凸版印刷と、
印刷会社のデカい部屋に20〜30人くらい
集まってたんだけど、
誰もわからない(笑)。
祖父江 ああ、そうだったね(笑)。
糸井 解読できないわけだ。
祖父江

うん。それで、
営業の人から電話がかかってきて、
「これはわからないから、
 ちょっと現場に来て、
 製版の人に伝えてもらえないか」
って言われたの。
それで足を運んでいって、
現場の人に指定書を見せたら、
現場の人は、
「いや、別にわかるよ」とかあっさりと。

── あ、現場の人にはちゃんと
理解できるんだ。
しりあがり そう。だから、30人くらいいるなかで、
わかってるのが、祖父江と、
その製版担当者だけなの(笑)。
ぼくらには、なに話してるか、
ぜんぜんわかんない(笑)。
糸井 『ターヘルアナトミア』みたいな
世界になってるね(笑)。
祖父江 だから、ぼくはけっきょく、
なんの説明もしなかったんですよ。
しりあがり あ、ほんと?
祖父江 うん。見せたらわかってもらえたから。
「ほら、見たことかーっ!」
って思った(笑)。
糸井 つまり、祖父江さんは完全に、
国際言語というか、
正しいことばを使ってるわけだから、
必ず通じるっていう確信はあるんだよね?
祖父江 うん。必ずわかりや〜すく書いてるから。
糸井 途中に誰かが入ったから
わかんなくなったわけだ。
祖父江 そうなのよぉ〜。
糸井 うん。そういう気配はわかる。
祖父江 気配(笑)。
糸井 そういうことばは、どこで憶えたわけ?
祖父江 べつに‥‥いや、ことばっていうか、
説明をきちんと書くと、
ちょっと長くなっちゃうだけのことで。
── なるほど。祖父江さんとしては
きちんと説明しているだけなんですね。
祖父江 そうそう。
まあ、何版もある、ややこしい製版を
お願いしたのはたしかですけど。
しりあがり だから、みんな素直に、
書いてあることを
やりゃあいいんですけど、
「これをやったらどうなるんだろう?」
とか、考えちゃうから
いけないんでしょうね。
 
糸井 なるほど、なるほど。
しりあがり そのできあがりを想像して、
チェックを入れようとするから
いけないんで。
糸井 そうかそうか。
「こんなことしたら、
 こんなことになっちゃいますよ!」
って言いたいって人が。
しりあがり そうそう(笑)。
糸井 あ〜。ものごとって、みんなそうだよね。
みんな、なんかさ、
「それはどうかな?」
って言いたがるんだよね。
しりあがり そうしないと仕事になんない、
みたいなね。
(続きます!)

2004-02-19-THU

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