飯島食堂へようこそ。おでかけ編 キッチンツール選び、ごいっしょに 重松清さんと、かっぱ橋。
かっぱ橋道具街とは
LIFE

その9 重いものが残ってるんだ@合羽橋珈琲
── 「合羽橋珈琲」に着きました。
重松さん、飯島さん、お疲れさまでした、
ありがとうございました。
一同 お疲れさまでしたー。
重松 のれんとか、看板とかってさ、
「なんちゃってもの」はよくあると思うわけ。
本物っぽいけども玩具だよっていう。
でもかっぱ橋で売ってるのって、
普通に焼き鳥屋さんにかかってる、
本物ののれんでしょ。
飯島 はい。
重松 (しみじみ)本物なんだよね。
何かね、そこがすごく新鮮だった。
── パーティグッズとは違うんですよね。
重松 そうなんだよ。ほんとに仕事で
プロの人が使ってんだなあと思うとさ、
1つひとつが、重いんだよね。
飯島 ああ、そうですね。
重松 じっさいに重量もあるし、
わりとさ、無骨で。
飯島 専門の道具の
だじゃれっぽいネーミングも
おかしかったですね。
重松 うん、だじゃれが多い。
ミジン。
飯島 ネギー。
── キンピラー。
重松 こういう町っていうのは
日本には、かっぱ橋しかないの?
飯島 そうですね、大阪にちょこっとだけ、
こじんまりした道具街があるんですけど、
こういうとこは、ほんとに
かっぱ橋だけですね。
重松 すごいねえ。
── 世界でもないんじゃないですか?
飯島 ないでしょうね。
業務用の大きなスーパーはあっても、
こういう個人商店が集まってる街は
ほかに、聞かないですね。
重松 あとね、わりとさ、職人さんというか、
板前さんみたいな人も買い物、いっぱい来てたね。
小さな子ども連れて来てる人、結構いたね。
飯島 いましたね。
重松 お父さんと同じように
角刈りにしてる子どもが。
飯島 おっきいカートに子ども乗せて、
割り箸買いに来ていましたね。
重松 半日、つぶせるよね。
飯島 つぶせますね。ほんとに。
重松 それこそお父さんが包丁を研ぎに出してる間に
ぐるっと回るとかって楽しいだろうなと思うし。
今、うちの上の娘がね、
日曜大工センターみたいなとこで
アルバイトやってるんです。
そこもいろんなものがいっぱいあるんだけれど、
その延長線上というか、それのすごくさ、
プロ仕様なのがかっぱ橋だと思うんだ。
飯島 プロ用の商品が目の前にあって
自分でも手に入るんだと思うと嬉しいですよね。
重松 直接役に立つかどうかっていうのを越えてね、
楽しいよね。で、どんどんね、
「あ、確かにお店始めるなら
 伝票って要るよねー」とか
「玄関マットも要るよなあ」とか。
それを思うと、たとえばこの灰皿1つさ、
どこで買ったんだろうってなるよね。
飯島 そうですね、絶対探したらありますよね。
何を選ぶかなんですよね、お店のセンスって。
重松 だよね。
── 今日は買わなかったけど
気になったものってありました?
重松 うん、俺はね、ミル。
ワンタッチミル。
ペッパーとかの、
── 片手で挽けるミルですね。
重松 そうそうそう。
またちょっと見てみたいな。
電動まで大袈裟にしたくないんだけど。
あと、南部鉄器。
鉄の重みっていうのを久しぶりに感じたな。
「なんちゃって」で騙せるものってさ、
軽いんだよね、物が。
飯島 はい、そうですね、軽いですね。
重松 やっぱ重かったもの。
いい鍋とか、ストウブの鍋にしても。
飯島 そうですよね、あの重さ、出せないもんですね。
重松 ヘンケルの人が言ってたけれど、
やっぱり包丁も重さが要るんだと。
重さが作るものってあるんだよね。
── 包丁って、切れ味だけだと思っていました。
重さが大事なんですね。
飯島 使っていると、ほんとに楽なんですよ、
重さがある方が。
── 釜浅商店のおじさんには
片刃のよさも教えてもらいましたね。
和食のきれいな煮物が煮崩れずにきれいにできるのは
やっぱり片刃で切っているからだって。
お刺身も片刃の柳刃じゃないと、
あの面の美しさは出ないんだよって。
重松 そう、だから絶対にさ、
残ってきたものの形とか重さとか大きさって
絶対必然性があると思うんだよね。
飯島 そうですね。
重松 ほんと生き残ってきた重さなんだよ。
で、もしかしたら重いことっていうのが、
ある時代からね、
マイナスになってきたわけじゃない。
価値観として。もっと軽い方がいいとか。
飯島 はい。
重松 でも最終的には
重いものが残ってんだなあと思うと、
ああ、何か重さが作るものってあるんだろうと。
飯島 子どもが飲むコップも、
軽いものは、こぼしちゃうんですって。
重松 そうなんだよね。
飯島 だからやっぱり
しっかりしたコップの方がいいと。
重松 そうなんです。たとえば圧力鍋もそう。
圧力だって重さだもんね、要は。
── 重さの代わりにこう、
圧力を使っているわけですね。
重松 今、ほんとにネットで大概のもの買ってるから、
実物持って選ぶこと、あんまりなくなっちゃった。
ストウブの蓋がさ、あんなに重いって、
初めて知ったよ。
飯島 重かったですね。
── 重いんです。
鉄のかたまりですから。
飯島 だから美味しくできるんですかね。
重松 美味しいんだろうね。
『クロワッサン』にストウブの特集があって、
へえ、いいなあと思ってね、
どっちがいいんだろう、
ル・クルーゼと、と思いながら見ていたんだ。
男としては、ストウブ、
いいじゃんと思ったけど、
その持ったときの重さって、
かみさんじゃ無理かもしんないなと
思ったりもしたからね。
── 両手でも、よいしょ、って持ち上げるくらい
重かったですね。
重松 だよね。
そうなると毎日使おうというのは、
無理かもしんないなと思って。
しかも棚の上に乗っけたりってね。
そういう身体性みたいなものもさ、
こうして実物を見ることで
“込み”で分かるよね。
サイズにしても、
直径18センチと16センチの差は
どこよっていったら、
きっと、あるんだよね。
飯島 はい。あとはお店で見ると
すごく小さく見えるというか、
28センチのフライパンも
これぐらいあったら便利だなあって思うんですけど、
家に持って帰るとすごく大きいんですよ。
重松 デカいよね。
飯島 そこは注意しなきゃいけないんですよ。
何か錯覚を起こしちゃいますから。
重松 旦那や彼氏に
料理やらせようと思ってる人はさ、
かっぱ橋に来たらいいよ。
「俺、やる」って言いそうな気がするんだよ。
「え、何かやってみてぇ!」って
言うような気がするんだよなあ。
重いものに対する、
男の子の征服欲っていうのが
あるのかもしんない。
「俺が使いこなしてやるぜ」みたいなね、
飯島 はい(笑)。
重松 男で料理が好きになると
燻製に行くか、包丁に行くかなんだよ(笑)。
ほんとに男の料理ってどこかさ、
贅沢な発想だからね。
「やったぜ感」って大事でね。
で、ここに来るとやっぱり
本物に触れたって感じがあるんだ。
やっぱ重かったもん、全部。
あの重さって本物だよ。
飯島 本物ですね。
重松 うん。で、今、ほんとマジにね、
たとえば宅急便の送料が
いちばん象徴してると思うけど、
重いものっていうのは損なんだよね、
いろんな意味で。
だから、じゃ何で重いのが
残るのかなって考えたら、
重さが「いい」からなんだ。
── 南部鉄の揚げ鍋もよかったですね。
飯島 はい。
あれはデザインもすごい素敵で、
わたし、10秒ぐらいで買いました。
── 10秒(笑)。
重松 そうそう、ほんとにそれこそ南部鉄だから和、
ストウブやダッチオーブンなんかは洋、
ってあんまり、区別、ないよね。
── ないですね。
だってヘンケルの包丁屋さんは
実は和の刃金を使った方を
奨めたりしましたよね。
重松 ああ、そうだったね。
飯島 そうでしたね。
── やっぱ日本に暮らして日本で台所に立つって
そういうことなんだなぁと思いました。

(喫茶店でのお話、まだまだつづきまーす!)

訪れたお店はこちら

合羽橋珈琲
東京都台東区西浅草3-25-11
http://www.kappabashi.or.jp/shops/60.html


2009-12-02-WED


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