その12 狼を見たんだ。
小林 あのね、僕、この話、したいなと思って。
稚内にね、犬の調教を
やってる人がいるんですよね。
『南極物語』なんか最初にやってた、
そのときは千葉かなんかで
動物プロダクションやってた人なんですけど。
稚内に敷地を借りて、
いろんなタイプの犬が3、40頭。
糸井 はぁ、はぁ、はぁ。
小林 で、僕がたまたま、犬を使うやつで、
「ちょっと1回見に行ってください」
って言われて、
稚内まで行ったことがあるんですよ。
たまたまですよ。
そこに、狼がいたんですよ。
‥‥惚れてしまいますね、狼って。
糸井 見たんだ。
いたってどういうこと?
飼ってたの?
小林 その人がね、一緒にいるんですよ。
ダーッと中に、独立した犬舎ですよ。
だから、混じることはないんだけど、
フィールドがあって、小屋があって、
後ろっ側から餌やったりとか、
出入り口を作って。
まぁ、ちょっとした運動ができる所とか
そのくらい全部付いてるんですけど。
それがまぁ、10何個ぐらい並んだ長屋が
何棟かこう、あるんですよ。
で、そこの一番端っこにいたんです。
あのぅ、なんていうんだろう?
こっちがちょっと、なんかね、
働きかけるんですよ。
で、気品といったら、ない!
「これ、飼いたい」とまず言ったんだけど、
調教師が「東京じゃあね」って言われて、
そうだろうなっていう。
糸井 (笑)「狼の散歩行ってくるわ」って。
一同 (笑)。
小林 「狼飼うと、信頼関係ってすごいから、
 ちょっとかなわないですよ、他の犬に」
って言われて。
糸井 へぇー。
小林 で、しかも僕が近づいていくと、
犬舎の中に入っちゃうんですもん。
もうそこから出てこないんですよね。
人見知りのシャイなこと。
あの狼がですよ。
で、狼なんて、逆に言うと、
威嚇するのかなと思ったら、
うなり声ひとつ出さないんですよ。
それで、ちょっとある距離、
本当にこう、ポッと離れると、
ワーッと出てくる。
糸井 はぁ、はぁ。
小林 盲導犬協会を作った人が、
初めてここの狼に会って
「僕、散歩していいかな」って言うから、
「あ、いいよ」って、
まったく1頭と1人。になったらしいんですよ。
そうしたら、もう全然違うって言ってましたね。
もうピタッと。
糸井 かっこいい(笑)。
小林 雰囲気変わるみたいですよ。
僕、それ聞いて、
あ、狼ってかっこいいなと思って。
本当にね、あのぅ、僕らも
たまに人と会ったときに赤面症というか、
ちょっとシャイすぎる人って、
逆に惹かれません、なんか?
糸井 うんうんうん。
小林 あんまりこう、ポロポロ、
あつかましく喋るやつよりかは。
糸井 うんうん。
小林 そういう惹きつけ方の極端なやつを持ってて。
なおかつ、犬の何倍かの大きさあって。
糸井 でかいんだ?
小林 でかいんです。
で、目の奥のほうがブルーというか、
翡翠のような色の目をしていて。
すっごいきれいなの。気品があって。
それで、なんていうんだろう?
人懐こさとかないんですよね、もう。
見た目はもうすっごい一瞬怖いんだけど、
もう一切もうスーッといなくなっちゃう感じで、
糸井 もう惚れてるね、言い方が(笑)。
一同 (笑)。
小林 もう本当に欲しかったんですよ。
糸井 ねぇ。
飼ってみたいよね?
小林 飼ってみたいな。
主従関係できると、
絶対に襲ったりしないですよ。
糸井 おおもとは、人間がその狼と
ジャッカルを掛け合わせて犬を作ったわけだから、
人間の力っていうのもすごいなと思うんだ。
こいつとやっていこうって思ったわけじゃない、
昔の人間がさ?
小林 うん。
糸井 そのときの、こっちも
ものすごい動物性があるわけじゃん?
小林 そうですよね。
糸井 その人間っていうのも、やっぱりすごいよね。
その対峙してるこっち側?
小林 だから、変な話、狼を見ると、
そういう遠い過去みたいなものが。
糸井 呼び起こされるんだろうね(笑)。
話してても、ワクワクするよね。
小林 なんで狼を見てワクワクするのか
わからないぐらいワクワクしちゃうんですよ。
犬にない雰囲気が。
糸井 でも、馬にもそれはあるでしょう?
やっぱり?
小林 もうそれはありますよ、またね。
また違う意味で。
糸井 ありますよね。
小林 あのね、仔馬とかのフワフワもいいんだけど、
本当にレースに行って帰ってきたぐらいの、馬って。
糸井 (調理を終えた飯島さんが着席)
いらっしゃいませ。
飲み屋みたいになってますけど。
小林 そう。
一同 (笑)。
飯島 馬の話ですか。
小林 うん。一番、その馬の削った、
余計なものを削った
原型な精神が残ってる感じで。
馬っていうのは、侮れないぐらい怖いし、
噛むし、蹴るし。
飯島 へぇ〜。
小林 獰猛です。
糸井 獰猛なんですよ。
小林 でも、そういうのって、
飼いならされたらわからないじゃないですか。
飯島 わかんないです。
小林 たとえば、仔馬と一緒にすると、
母と子みたいな景色が見えるし。
糸井 いわさきちひろの世界みたいに(笑)。
小林 なっちゃうんだけど。
糸井 違うんだよね。
小林 レースに帰ってきたりなんかすると、
もうちょっと普通手をつけられないですよ。
目が血走ってるし。
飯島 へぇ〜。
小林 そういうのを見たときに、
やっぱり狼と同じように
こう、なんか呼び起こされる。
たぶん野生の馬を手なずけて、
言うこと聞かして、会話して。
糸井 昔ね? うん。
小林 で、乗るとかの信頼関係ができる。
糸井 『アバター』だ!
小林 ふぅ〜ん。
糸井 あ、見てない?
小林 見てない。
糸井 『アバター』見るといいよ。
あれね、ちょっとおもちゃみたいに
思われるかもしれないけどね、
そのへんがね、やっぱり描けてた。
あの、俺が見たときに見返してくる、
襲い掛かってくるやつがおまえの馬だっていうわけよ。
そいつを手なずけることが
おまえの乗り物を作ることなんだっていう。
同じだよ。
小林 同じ話ですね。
糸井 だから、戦うんだよ、まずね。
で、勝って、「私は言うこと聞きます」
っていう瞬間ひっくり返るんだよね。
馬、そうなんだろうね、きっとね。
小林 そうですね。
(つづきます)


2010-07-12-MON


(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN