糸井 薫ちゃん、よかったねぇ、
『深夜食堂』みたいな仕事が混じってね。
いろいろある中で
「奇跡ですよ」って
言われるようなことってしてみたいよね。
小林 そうですね。
糸井 求めててもできるわけじゃないし。
小林 そう。特に役者なんかは、
声かけられてなんぼだから、
なかなかそういうふうにはならなくて。
で、さっき言ったように、
一般的なテレビドラマだと
スタジオが全明かりの書割になりますよね。
そこを、ちょっと壁をわかりやすく汚して、
お客が来てますっていうのだと、
もう味わいが違ってくるから。
糸井 うん、うん。
小林 最初はどっちかっていうと
その(テレビ的な)方向で進んでたんですよ。
そのときにいろんなことが偶然あって、
松岡さんが自分の次回作が延期になった。
あの人の身が空いてないとだめなんで。
糸井 ああ、なるほど。
小林 山下さんも次期まですごい間があったし。
糸井 ああ、ああ。
小林 「ちょっとやっといたらどうなの?」
みたいな言い方もできたし。
糸井 あぁー。
小林 で、役者も、おもしろいんですよね、
映画監督がそうやって深夜枠で
撮るっていうのはね、
役者のアンテナから言うとね、
ピピッと来るんですよ。
とりあえず出てみたいっていう。
糸井 はぁ、はぁ。
小林 なんか楽しそうとか、
なんか遊びがありそうっていう。
糸井 新鮮なんだな。
小林 そうですね。
何かこう試みがあるんだなぁと思うのか。
だから、意外な人とかっていうのもね、
結構出演してます。
たぶんそれはその人たちの
ギャラに見合ってないと思うけど、
まぁ、出てみようっていう。
糸井 逆に言うと、だから、
ピピッてアンテナに来るような企画があれば、
それは自信を持ってやれるっていうことだね。
小林 そうですね。
ただ、それを思いあがって、出すほうが、
「そう思うだろう? 俺の出ろ」
とかいうのは言えないんですよ、
いくらなんでもそれは。
糸井 うん、うん。
小林 そういうプロデューサーいますけどね(笑)。
糸井 うん。あ、そうですか。
小林 ね(笑)。まぁ、この業界的には。
糸井 いっぱいあなたも見てるね、種類を(笑)。
小林 『深夜食堂』みたいなものって
なんか引力みたいなものがひとつこう、
くっつくと、なんかそういうもんってこう、
おもしろがる人たちがふぅっと自然に
集まってくるんですよね。
その集まり具合がまたよかったんですよね。
糸井 うーん。お客さんにとっては、
みんなのまかないめし食ってる
みたいなところあるよね?
「いい材料が余ったんで、
 これ刻んで炒飯にしようよ」
っていうのがまかないめしであるじゃないですか。
それで、たまたま常連の客がいたら、
「食う?」って言われたら、
小林 もう食いたいよね。
糸井 うん。そんなようなところですよね。
へぇー。薫ちゃんって、
すごくキャンペーンに役立つタレントだねぇ。
小林 だ・か・らー。
一同 (笑)。
糸井 ものすごくよくわかったもん、全部。
小林 僕、だって、キャンペーンのためには
ちゃんと本当に進んで動く男です。
糸井 すごい!
なんていうの? はぐらかさないし、
嘘もつかないし、的確だし。
小林 キャンペーンなんか多いときは
3本、4本、1日やったりやるんですよ、
雑誌の対談とか。
糸井 あ、そう(笑)。
小林 (笑)。
糸井 こんなに役に立ってたんだ(笑)。
スタッフ側にはあんまり回らないの?
作る側には。
自分が企画してとかっていうほうには。
小林 僕がですか?
いやいや、ない、それはないです。
糸井 それはしないことに決めてるの?
小林 決めてるっていうか、
だって、任(にん)じゃないし。
糸井 ふぅ〜ん。
小林 それはもう想像しないですね、あんまり。
糸井 そうなんだ。
本当に役者なんだ。
小林 ねぇ。
糸井 ねぇ。
小林 よく、あのぅ、
「将来はどんな役者さんになりたいですか?」
っていう質問を40代ぐらいに聞かれたことあるし、
「どんな、次は作品やりたいですか?」とかも。
糸井 それもないんだね?
小林 ないですね。
だって、そんなこと念じても、
やりたいからっていってやれる
商売じゃないんですよ。
糸井 ふぅん。
小林 乗ってる人たちは放っといても来ますよ。
アイドルでも、
だんだんくっついていくもんがあるじゃないですか。
で、あれは別に、
やろうやろうと思ってやってるんじゃないんですよね。
やりたくても縁がない場合もあるし、
こういうふうに、僕、別に
『深夜食堂』企画持ち込んだわけでもないしね。
糸井 そうだよね、うん、うん。
小林 で、たまたまポッと言いがかりのように、
因縁つけられたような感じで、道歩いてたら、
「小林」って言われて「はい」って言ったら、
「これあるんだけど」って言われて。
糸井 「ちょっと来いよ」って(笑)。
小林 「ちょっとヤバそうなんだけど」って
監督に相談したら、
こっち行っちゃったっていうようなことだし。
あんまり自分が決めたそのレールとかが
その通り運ぶっていうもんじゃないな、
っていう感じがして。
糸井 昔からずっとそうだった?
小林 どうなんですかね?
うーん・・・・、うーん、まぁ、
前はいつ辞めてもいいなとか
思ってたっていうのはあったんですけど。
糸井 ああー。
小林 なんかおもしろいことがあったら、
別に役者にこだわることないんじゃないの、
みたいな言い方を
してるときはありましたけどね。
糸井 ああ〜。
小林 だけど、もう3畳間を卒業して
6畳間に住んだら
3畳間に戻れないじゃないですか。
糸井 うんうん。
小林 それと同じようなもんで、
いまさらねっていうのがあるから、
それはもうどこかで
それをずっとやっていくんだろうな、
っていうのは、気がついてたんだけども。
糸井 たとえ話がすごいよね。
6畳間だもんね。
「ずいぶん思えば遠くに来たもんだ」の
その場所は6畳間だもんね。
そういうたとえする人、
あんまりいないんじゃないかなぁ。
小林 じゃあ、何畳にたとえてるんですか、
今、糸井さんは?
一同 (笑)。
糸井 わかんないんですけど、
6畳間っていう概念がぁ。
小林 僕なら最低20畳と言うとか、
そういうことですか?
一同 (笑)。
糸井 そういう発想もないんじゃないかな?
なんだろう?
永ちゃんなんかが言うのは、
子どもができてね、
小学校上がるだなんだのときに
おもちゃの1つも買ってあげたいとかっていう、
セッティングがあるんだけど、
いま、薫ちゃんが言った、
6畳間っていうスペースが(笑)、
すごくよかったのよ。
3畳間を卒業して6畳間って、
若い人は思わないでしょう?
1Kとかっていうことだよね、たぶんね。
で、なおかつもうそれが
最低限に近いよね、今?
── そうですね、はい。
小林 ねぇ。3畳間なんてもうないもん。
糸井 ない、ない、ない、ない。
小林 だから、「6畳から3畳に戻れないよね」
っていう台詞は、
若い人は言えないんだね。
糸井 言えない、言えない。
戻る場所ないから(笑)。
小林 「2LDKぐらいのところから
 8畳ひと間の部屋には戻れないよね」
っていう台詞は言えるけど。
糸井 ああ、あえてはね。
小林 3畳間っていうね。
糸井 いや、だからすごい新鮮だったのよ。
3と6で来たか、みたいなさ。
小林 なんに感心してるのか、
本当よくわかんないよ(笑)。
糸井 いや、本当に感心したんだよ。
小林 何、何?
ちょっとそれはなんか、
相変わらず貧乏なんだっていう目線、じゃあ?
相変わらずボキャブラリー
貧乏だなぁと思った?
糸井 違う、違う。テリトリー感覚!
そういう単位ですっと出るっていうのが。
俺らが、たとえ話するときに、
「山本リンダが」って
言っちゃうみたいなおもしろさだよ。
アイドルみたいなこと言うと、
「聖子ちゃん」って言っちゃったりする、
みたいなさ。
小林 ああー。
糸井 今の子たちはそういうのを聞いたら、
ああ、きっと昔の人が喋ってるなぁって
思うんだろうなぁっていうさ。
小林 昔の人になりつつあるのを
本人、気がつかないんだよね。
かつてのおじさんたち、そうでしたよね?
糸井 「フランク永井」とか言いだしてもさ、
知らないからね、今。
飯島 グレープフルーツ100パーセントゼリーです。
糸井 ありがとうごぜぇます。
デザート付き。
飯島 これ、ミントシロップです。
糸井 ありがとうございます。
小林 あぁ〜。
糸井 きえものにこんなに
力を入れてくださって。
── きえもの(笑)。
糸井 ありがとうございます。
(つづきます)


2010-07-08-THU


(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN