糸井 薫は何かと演劇論を話す、
みたいな時代はもう終わってるんでしょ?
小林 そんなに話したかな
僕の中でないんだけど。
糸井 いや、要するにさ、
状況劇場の人たちってみんな
理屈っぽい人ばっかりだったような
気がするんだけど。
小林 なんか、理屈があったのかなぁ?
糸井 言いたいだけ?
小林 なんかね、でもね、理屈って、
大したことじゃなかったんだけどなぁ。
糸井 あの、特権的肉体論とかいうとすごそうだけど、
何言ってるんだかねっていう話でもあるよね?
小林 そうそうそう。あの、まぁ、
作家の脳みその中身なんて伺いしれないから。
糸井 うーん。
小林 まぁ、唐(十郎)さんなら
唐さんの世界でしょ? っていう。
それを僕が追体験とかできるのかなって
いうのはありますよね。
糸井 今思えば(笑)?
小林 そのときもそうだろうな。
作家のもんだろうなと思ってた。
糸井 うん。人のもんですよね。本当にね。
小林 だから、役者の場合にはいつも、
人のもんなんですよね、ある意味。
糸井 うん。だから、
役者って不思議な人格になるよね。
当然ね。人に自分の体貸すみたいなこと、
ずーっとやってるわけじゃないですか。
小林 だからね、屈託の“ある”人って、
僕見てて多いですよ、役者さんって。
糸井 はぁー。
小林 役者さんって、あんまり能天気な人って、
なんかそういう人ってあまりいないですよね。
ただ明るいだけの人って。
南伸坊みたいな人はいないですよ。
糸井 ああー。うちに、ほら、
女の役者さんいるじゃないですか。
小林 うん。
糸井 あの人は本当に役者を好きじゃないのは、
その屈託がいやなんだろうね。
小林 うーん。なんかね、でも、僕、
先輩のそういう文章とか読んでも、
あ、これすごいなぁと思うね。
糸井 その屈託について?
小林 うん。
糸井 へぇ〜。誰のこと言ってる?
小林 芦田伸介さんの本だったかな、
自分がやりたいっていうだけじゃなくて、
やれたかもしれない役を
誰か他人が演じたっていうのは
もう嫉妬で見れないんだって。
糸井 ふぅーん・・・・。ふぅーん。
小林 なんか見てもムラムラきちゃうんだって。
本来はこれ、俺がやるべきもんだったんだって
見えちゃうらしいですよ。
僕ね、それはね、わからんでもないっていう
気持ちわかります。
僕はそこまでじゃないですけど、
気持ちとしてはすごくわかります。
あ、なるほどねって。
糸井 すごく個人のものだよね、そういう心ってね。
小林 うん。まぁ、個人的なもんですね。
糸井 個人的なものだよね。
考えによっては孤独なものですよね。
その通りだから俺も手伝うっていう人は
いないじゃないですか。
小林 ああ、ああ、ああ。
社会性持って生きてるからね。
糸井 うん、言っちゃいけないしね。
小林 いけないしね。
「ああ、よかったですね」って。
糸井 「確かに、あなた嫉妬してるでしょう?」
とか
「僕もその嫉妬には賛成です」
っていうわけにはいかないよね。
小林 ね。だから、そういう屈託みたいなものが、
ああ、あるんだなっていうところで。
なんかね、もう誰でもそうだと思うんだけど、
ジェラシーが入り混じって、
あいつよりか俺のほうがもう少し、
なんかまぁ、売れるとか売れないだったら、
売れておかしくないよなって思うような、
そういう心理っていうのは
ものすごくあると思うんですよ。
糸井 花魁が選ばれるのを待ってるみたいな、
選ばれる側の論理ですよね。
小林 うん。
糸井 それをずっとやっていきながら
元気で生きてるっていうのは
大した屈託だよね。
小林 ねぇ。
糸井 それはだから、違ういいものを育ててる
可能性さえあるよね?
小林 どうなんですかね、それは。
糸井 俺、そう言うしかないじゃないですか、もう。
小林 (笑)言うしかないっていうのは。
糸井 でも、選択肢ないですよね。
だって、元気で生きてるんだもん。
破滅したっていう人も聞いたことないし。
あいつは役者だったから
死んだよっていう人はいないよね。
小林 いや、でも、そういうね、
重い人はいるんですよ。
糸井 あ、そう。
小林 もう、俺見てて、
何人かいらっしゃいましたよ。
糸井 うーん。ふぅーん。
小林 だから、たぶんそれこそ
さっきの理屈みたいな話になるんだけど、
「これこれ、こうでなきゃいやだ」
って言いながら、
たぶんもうその理屈の先なんですよね、
その人のやってることっていうのは。
謎が多いというか、
掴みどころがないとかっていう人は、
昔の女優さんの名前を挙げれば、
たとえば杉村春子さんとか山田五十鈴さんとか、
ちょっと鵺のような感じが
せんこともないですよね。
糸井 はぁー。
小林 それこそ森繁さんとかでも
そういうところあったんじゃないですか。
そんな簡単に尻尾掴ませないよっていう。
糸井 かなり遠いよね。
小林 遠いですよ。
糸井 そうですよねぇ。
小林 だから、そういうなんかタイプっていうか、
抱えた人が結構いたんじゃないですか、
本来的には。
糸井 だんだんと、それはなくなるよね。
さっきのマヨネーズを入れた
隠し味ですよってわからせるみたいなことが
どんどんこう、役者の世界でも
出てくるわけですよね、当然。
(つづきます)


2010-07-02-FRI


(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN