SAITO
もってけドロボー!
斉藤由多加の「頭のなか」。

Making Of Odama
第5回 ゲームの回転構造


数回にわけてご紹介してきた
「大玉」というゲームですが、
無事発売の運びとなりました。
それでは、できあがった「大玉」というのは
果たしてどんなゲームなのか、それを例にしながら、
ゲームだけが持つ特殊な構造について、お話しします。

大玉ってどんなゲーム!?

まず、ゲームをひとつの絵で表現するならば、
こんな絵になります。(制作協力 ファミ通編集部)
以前にもたとえましたが、
ピンボールとラグビー(orアメフト)の
融合みたいなゲームです。
この合成イラスト、なぜだがとても
奇妙な絵になっています‥‥モデルのせいかな!? (笑)、


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ゲームの軸とループ

わたしはよく、ゲームの企画をするときに
「軸」という言葉をつかいます。
「軸」というとまっすぐな
直線をしているように思えますが、
ゲームでは、なんとなく回転運動をしている気がする。
じっさいに形があるわけではないので
感覚的なものですが‥‥。
何もしなければぐるぐると
回り続けていて(アイドリング)、
なにか入力すると、形がすこし変化して、
そのまままたぐるぐると回転しながら入力を待つ‥‥。
この構造を文字で書くことができないので、
ゲームの企画はともするとややこしく思われがちです。
でも、実はとても簡単なんです。
(これを企画のループ構造と以降よびます。)
テトリスに代表されるように
基本のループ構造は簡単なほどゲームはいいと思います。
(これを明確にするために釣鐘という
 「中心」をつくったのですが
 くわしくはこちらの回をご覧ください)

大玉の企画の軸

大玉を例にその構造を説明します。
スタートと同時に出陣しゴールを目指す
「釣鐘衆」(画面中央にいる釣鐘を担いだ人。
ラグビーで言えば、ボールをもった選手にあたります)を
上の図の左手奥のゴールまで導いてやれば、クリアです。
とはいうものの、そうはさせまい、
という敵が左手から現れては
彼らを押し戻そうとしてきます。

このままですと、釣鐘衆は敵に押し戻され、
やがて自陣まで至るとゲームオーバーと
なってしまいますから
なんとか彼らを押し返さなければなりません。

そこで、味方の兵を出陣させるわけです。

出陣した兵は釣鐘衆を守ろうとしますから、
敵味方との間で前線がつくられ、
スクラムのように勢の多いほうが
この前線を押し上げてゆきます。

残念ながら味方の兵数は限られていますから、
このままですとそれでもどんどんと
押し戻されてしまうことになります。
そこで、「声の指示」と「大玉」の出番です。
声で「みぎ」と指示を出すと、
フォーメーションが下の図のようになり、
前線突破を試みます。

敵陣が瞬間的に押し上げられたところに
大玉をうまく撃つと、
敵兵を拿捕し味方にすることができるわけです。

これを繰り返しながら、
つまり敵を撃ちつつ味方兵を増やし、
ゴールを目指してゆくというゲームです。
この「繰り返し」というのが大玉という企画の
基本ループです。簡単でしょ?
ここに肉付けをしてゆく要素が多々ありますが、
それらが「コマンド」とか「イベント」
「バラメーター」と呼ばれるもので
企画の軸を際だたせるものですが
軸そのものではありません。

回転を見つけよう

すでにおわかりのとおり、
ここに「物語」とか「シナリオ」はありません。
主人公がどうする、という
直線的な記述はあまり意味がない。
ここにあるのは、構造です。
構造で何かを表現する、というのは、
文字の発想をしていると難解に見えます。
でも一度身に着けてしまうと、
いろいろなものが表現できるようになる。
世の中には、一歩引いてみると
回転や循環しているものがたくさんあります。
一番簡単なものは、「すうじ」でしょうか。
0から9までの10の数字で、
すべての分量を表現してしまう。
これはすごいことです。
ループする構造にすることで
人間は無限を手に入れたのです。
日本の昔の単位だと、「億」とか「兆」とか
「京」とか、さらにその上のものまで、
桁が上がるにつれて
単位をいちいち命名しなければなりませんでした。
西暦に対する元号もしかり。
あるいは、水と雨と地球環境、
山手線のダイア、虫の一生と産卵、など、
すべてのものは「回転構造」
「循環構造」として捉えることができます。

ゲームを企画するとなると、
物語を考えようとする人も多いようですが、
それだとたったひとつの物語を
追いかけることになるので映画性が濃くなるぶん
ループ性が薄れることになります。
それに対してテトリスのシナリオに終わりはありません。
数字の桁上がりのように、
クリアするとすこしづつスピードが上がりながら、
ただ同じ構造を繰り替えすだけです。
落ちてくるピースの形が
0から9の数字にあたるわけです。
たった数種類のピースで、
このゲームは無限に続くのです。
これはすごいことですよね。
道を歩いていて、このループ構造を
発見することが趣味です。
物事を『循環』『回転』としてとらえると、
社会がもっともっとゲーム的に見えてくるからです。

「大玉」のサイトがオープンしました、
どうぞ見てください。

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2006-04-21-FRI

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