SAITO
もってけドロボー!
斉藤由多加の「頭のなか」。

おでんとゲームと人生のターン

ゲームには、ターン、というものがあります。
耳慣れないかもしれませんが、プレイヤーが何かをして、
相手に順番を渡す、そのプレイの最小単位です。
将棋ならば、こまを一つ動かして相手に順番をわたす、
というのがその最小単位ですし、
RPGの戦闘モードでは、攻撃コマンドを実行して、
「会心の一撃で5ポイントのダメージ」
というメッセージが返ってくるまでがそうです。
つまりプレイヤーが何か決定をしてから、
その結果が返ってくるまでの時間、とでもいいますか・・。
したがって野球のように裏と表があります。
この間隔が長いとどうしてもプレイが間延びするので、
ゲーム業界はこれをひたすら短くすることに努め、
ゲームはリアルタイムに近くなりました。
(そのぶん、プログラムは複雑さを極めますが)
ですから、言い方を変えれば
どんなゲームにもターンがあります。
リアルタイムに見えるアクションゲームであっても、
実際は、この小さなターンの集積なのです。
いっぽう企画者はというと、
その単位を拠り所として仕様を積み上げていきます。
コンピューターゲームといえども、
考えるのは人間の脳ですから、
物事を把握する上での「単位」なるものが
かならず必要になってくるのです。

私は、このターンというものがないと、
ものごとがなかなか理解できない人間になっていることに
気づきました。
現実社会においても、気づかないうちに
いつしかこのターンを探しているのです。
メールでの会話、原稿の入稿とチェック、
ジャズの掛け合い、恋愛、セックス・・・、
どれも、次の返しがないと、
どう先に進んだらいいか考えが練れない。
人間というのは、なにか小さな単位を繰り返すことで
自分の位置を確認しているような気がするのです。


たとえばレストランでは開店から閉店、
というターンがあって、
経営者はそのサイクルにのっとって戦略を練ります。
そのためには、「営業時間午前7時から午後11時まで」
と一日を定義する必要が出てきます。
お店の決算をゲームスコアだとするならば、
一日がこのターンにあたります。
一日を単位として、仕入れや売り上げの計画を立案します。


しかしずっと疑問だったのが、
24時間営業のコンビニエンスが登場したときでした。
古い話ですが
(7時から11時の営業だった)セブンイレブンが
24時間営業になったと聞いたとき、
ちょっとピンとこなかったのです。
「閉店がなくなったわけか」
「レジ閉めや掃除などの単位はどうなるのか」
「最新型のPOSでリアルタイムに
 データが処理されるのだろうか?」
「だとしても二日にまたがって、複数週にまたがって、
 しいては年度をまたがって、
 仕事をしているバイトが数多くいるはずだ、
 彼らのタイムカードはいつ締めるのか」
「店の在庫はどう処理されるのか」
などなど。
漠としたこの疑問はその後もずっと尾をひいていました。

その象徴だったのが、レジ横にある「おでん」です。
セブンイレブンのおでんが美味しいのは、
何日間もの間ずっと煮込まれているからだ、
という噂をまことしやかに信じていたので、
このおでんの具は、どうやって取り替えられているのだろう、
と疑問に思ったまま10数年が経過していました。

「ターン」がないものというのは、
私にとって、桁上がりできない数字のようなもの。
繰り返しのない音楽のようなもの。
暦のない時代の、とらえどこのない毎日のようなもの。
いつおわるとも知れない漠然とした直線をひた走るような
不安感がそこにはあるのです・・。

そしてある朝、その答えを見つけました。
その早朝のセブンイレブンでは、
おでんの鍋はきれいされ、汁は真水から作り直され、
店員は真新しい具を袋から出し次々となべに移していました。
写真は、感動して撮ったそのときの模様です。



「おでんは、どれくらいの周期で入れ替えられるのですか?」
そうたずねると店員は
「毎日ですよ。ご心配なく」
と半笑顔でこたえてくれました。
「なぁんだ」
長年の疑問が解決し、気分が晴れやかになったある朝でした。

2001-08-13-MON

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