SAITO
もってけドロボー!
斉藤由多加の「頭のなか」。

第8回 デフォルトの話

友人のT氏はWindowsマシンを購入してから、
インターネットの検索エンジンに、
ずっとInfoSeekを使っていました。
そこにこれといった明確な理由はなかった。
購入したハードの初期設定にInfoSeekが
設定されていただけの話だそうです。
そして、つい最近まで、
彼はYahooなんかの存在を知らなかったのです。

選択できるものには、
必ず初期設定、というものが存在します。
テレビの場合では通常、最後に観ていたチャンネルが
選択されているが、テレビ以外の機械によっては、
そうとは限りません。
最近世の中では、この初期設定が、
大変な威力をもちはじめているのです。


カーラジオには、FM東京とかNHK-Fmを簡単に
選択できるように、プリセットボタンがついています。
最近ではJ-waveもこのボタンにえらばれたようです。
しかし、インターFMはまだついていません。
もちろん、つまみを廻せばどんな局も選択できるので、
ハードに不都合があるとはいえませんが、実際のところ、
運転者はデフォルトでプリセットされた局の中から
選ぶようになっています。
この選択基準は、
とくに明確に規定されているわけではなく、
メーカー側としはユーザーの頻度が高そうなものを
プリセットしているにちがいありません。

人間は、日々はなしに選択をしています。
強い意志をもって何かを選択する場合もあるが、
ほとんどの場合、「なんとなく」です。
そこにあるから、それを使う、それを聞く、
それがほとんどです。そして馴染んでゆく。
つまりこの初期設定がラジオ局の運命を
握ってしまっているのです。
これがデフォルトの威力です。


居酒屋での光景。
オーダーを取る店員。
「飲み物は?」
答える客。
「まずはビール」
「何本いきましょう?」
「とりあえず2本」
「かしこまりました」
伝票とともにカウンターへ戻る店員。

さて、この店員がキリンを出すか、サッポロを出すか、
あるいはアサヒを出すか、これが居酒屋のデフォルトです。
この受け答えで、各社の売上げがかなり左右するわけで、
ビール会社の営業マンは、このデフォルト獲得のために、
日夜働いているのです。


●NTTの電話代が高い、という話。
0041とか0061とか、第二電々各社は、
しきりと宣伝をやっています。
先日は、角界を引退したKonishiki(小錦)が
キャラクターになって、国際電話サービスを
宣伝していました。
巨人NTTにサービスと価格で勝つために、
各社はこれ以外にも大金をかけて、一番安い電話会社を
選択する機械を取り付けるサービスまでしています。
正直、えらいと思うわけです。

でも、えらいと思っても、
なかなか使うことはないのが実情でもあります。
なんで、使わないんだろう?
電話機の設定のデフォルトは100%
NTTに設定されているからなんですね。
ふだん、我々が店で買ってくる電話、
これは番号をそのまま廻すと、無条件にNTTに
つながってしまうのです。第二電電を使うには、
特別に番号を付け加えなければなりません。
それが最大の障壁になっています。
これでは、勝てるわけがない。

もし、すべての通話に
自動で0041を付加するようなハードが普及すれば、
第二電電は大繁昌するに違いないですが、
これは消費者団体からクレームがつくかもしれません。
ちょっとインチキくさい商品です。
しかし、まて。
NTTも第二電々もただの民間企業ではないか。
この二者に違いはない。
だったら、NTTが自動選択されることにも
クレームがついてもいいじゃないか?
そう考えると、我々が常識を「旧電々公社」に
デフォルト設定してしまっていることに気付きます。
これではいつまでたっても第二電々は
「第一電々」に対してあくまで、「第二」のままです。
だから電話代は安くならない。


アメリカのホテルから
オペレーター経由で国際電話をかけようとすると、
使う電話会社を必ず聞かれます。
AT&TとかSprintとかがあるのだが、
俺は日本にかけるのはどこが安いのかわからなので、
適当に「AT&T」といってしまいます。
これはNTTをデフォルトにしている日本人の
あらわれかもしれないな、と反省しているわけです。

もし、オペレーターが無条件で
AT&Tにつないでしまったら?
アメリカでは間違いなく裁判沙汰でしょう。
それほど、競争が激しい国ですから。
そういう環境で彼等は、デフォルトであることに
かなり貪欲かつ敏感です。
それにくらべて、私達の国は、なんと暢気なことか……。
これではいつまでたっても電話代は安くならん……。

1999-04-03-SAT

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