33の悩み、33の答え。

読者から寄せられた
数百の悩みや疑問から「33」を選びました。
そして、それらの悩みや疑問に、
33人の「はたらく人」が答えてくれました。
6月9日(火)から
毎日ひとりずつ、答えをアップしていきます。

Q030

なやみ

自分にしかできない仕事に就きたいと思うのは、
傲慢でしょうか。

(29歳・無職)

前職では営業の仕事をしていたのですが、「この仕事は、自分じゃなくても、他の誰でもできるな」と思ってしまってから身が入らなくなり、退職しました。ただいま、無職です。自分だけにしかできない仕事に就きたいと考えることは、傲慢なのでしょうか。

こたえ

見つけようとしたら無理です。
傲慢です。
でも「自分にしかできない仕事」は、
自分で「創っていい」んです。

こたえた人濱口秀司さん(ビジネスデザイナー)

濱口
今、ここに来るまでに考えてきました。
歩きながら。
──
ありがとうございます(笑)。
濱口
自分にしかできない仕事に就きたいと思うのは、
傲慢でしょうか……と。

この質問に答えろと。
──
はい。濱口さんは、濱口さんにしかできない、
「唯一無二」の仕事をなさっているというイメージが
あったものですから。
濱口
結論としては、傲慢ですね。
──
あ、傲慢ですか。
濱口
傲慢です。まず「自分にしかできない仕事」なんか、
見つけられないですよ。

計算してみたらいいんです。
仕事の種類ってなんぼくらいあるのかなと、
さっき歩きながら調べたらね。
──
歩きながら、そんなことまで。
濱口
えーと、
厚生労働省所管の
独立行政法人労働政策研究・研修機構の
調査によりますと、
日本における職業の数は
「17000」以上であると。

ザックリ言って。
──
そんなにあるんですか!
濱口
すごい数ですよね。

その中から「自分にしかできない仕事」を
探すんですよ。
たとえば、ZOZOTOWNで売っている
何万何千という洋服の中から
「自分にいちばん似合う一着」を
見つけようと思ったって、無理じゃないですか。
──
はい、「好きな洋服」じゃなくて
「いちばん似合う洋服」を見つけ出すことは、
ほとんど不可能ですよね。

何千何万もある洋服を、
一着一着チェックできないです。
濱口
それと同じで
「自分にしかできない仕事」を見つけようと
思ったって、まあ、無理だと。

そのうえ、
仕事は洋服と違って外から見えにくい。
そして、新しい仕事の「試着」のチャンスは
限られた人生で
多くても10回くらいなので、さらに無理。
でもね。
──
はい。でも。
濱口
仕事って「創っていい」んですよ。
──
わあ。
濱口
そういう発想なら、
つまり「自分にしかできない仕事を創る」のなら、
まったく傲慢じゃないです。

むしろ、どんどんやってください。
──
詳しく聞かせてください。
濱口
ようするに、
決まりきった仕事に「就く」んじゃなく、
既存の仕事を変えて
新しく「創る」と考えたらいいと思うんです。

それがたとえ、
自分のやりたい仕事じゃなくたって。
──
いいんですか。好きな仕事じゃなくとも。
濱口
いいです。大丈夫。この質問をくださった方、
営業の仕事を辞めて「無職」だそうですが、
いろいろ考えるより、
何でもいいから仕事をはじめちゃったほうがいい。

それが仮にトイレ掃除でも、
はじめたあとに
「自分にしかできないトイレ掃除」に
進化させたらいいじゃないですか。
──
おお。
濱口
どんなトイレ掃除にするかは、
この人次第ですけども。
──
自分は学生さんの悩みを聞く機会があるんです。

すると
「意中の企業にフラれ、
そうでもない会社からは内定が出た」
と言って悩む人の、いかに多いことか。
濱口
そうでしょうねえ。
確率で言えば、大部分の人がそうです。
──
社会に出たらわかるんですが
「まず、はたらいてみる。そしたら道は開けていく」
みたいなことって多いじゃないですか。

でも、学生のうちは、
その部分が気になるのかなあと思うんです。
濱口
なるほど。でも、それも
「仕事は変えられる、変えていいんだ」
と思っていれば、ちがうと思います。

スタート時点は、何だっていいんですよ。
意中の会社に入れなくたって、
できる仕事からはじめて、
それを「自分にしかできない仕事」にチューンしていく。
動いていれば、道は開けてくるもんです。
何にもしないまま、
じっと動かないでいたって、何にも起こらない。
──
「自分にしかできない仕事」は「創ればいい」。
濱口
はい。
──
濱口さんがやってらっしゃるのは、
まさにそういう仕事なんでしょうね。
濱口
あのね、昔、ぼくがいた会社に
「メール室」ってあったんですよ。
──
郵便物を届けるお仕事、ですか?
濱口
そう、社外からの郵便物および
社内の部署間のメールサービスなんですが、
何か仕事上の失敗をやらかしちゃったときに
「おまえ、メール室送りだな」とかね、
メール室の人からしたら、
ずいぶん失礼なことを言う輩もいたんです。
──
ええ。
濱口
でも、そこで、ちょっと考えてみてください。
「もし、自分がメール室に配属になったら」と。
──
はい。もし、自分が……。
濱口
ぼくならたぶん、
がんばってメール仕分けの仕事を学びながら、
メモを取って、
計算して、マトリックスをつくると思う。
──
何のマトリックスを、ですか。
濱口
たとえば
「こっちの部署とあっちの部署の間には、
1日に何本のメールが行き交っているか」
ということを、
すべてを調べ上げて統計を取るんです。

そしたら、
それまで誰も知らなかった会社の姿が、
あぶり出されてくると思う。
──
そうか、部署間の連絡が密か疎かで、
つながり度合いがわかってくる。
濱口
で、そのマトリックスをもとに
「研究部門と商品開発部をもっと密につなげたら、
新しいものがたくさん生まれそうだ」とかね。

そういう視点から会社を見たとき、
まったく新しい可能性が開けてくる。
ぼくは、メール室のオッサンでありながら、
かつ、社内コミュニケーションの全体像を
俯瞰してる人になるんです。
──
まさに創ってしまってますね、新しい仕事を。
濱口
目の前の仕事を
自分なりに変えようという意志を持ってはじめて、
それまでの視点が変化して、
自分にしかできない仕事を創ることが
できるんじゃないですかね。
──
どこか「イノベイティブな仕事」と言うと
「ゼロから生み出す」みたいな感じが
してしまいますけど。
濱口
ええ。
──
既存の仕事を、
どうおもしろくするかという方向性もあると。
濱口
いや、ぜんぜんそれですよ。
そこからですね、ぼくなんか、いつも。

イメージとしては、
自分の職業の名前が「一般名詞」から
はみだしていくような感じです。
──
つまり「メール担当」とか「エンジニア」とか
「新聞記者」とかじゃなく?
濱口
一般的な職業名でくくられた時点で、
その人は「コモディティ化」……つまり
「他の人と大差のない状態」になってるんです。

その場合には、どうしたって
「自分にしかできない仕事」にはならないし、
結果として、高いお給料ももらえません。
──
まわりの人と大差がなかったら。そうですね。
濱口
逆に「お仕事、何されてるんですか?」
と聞かれたときに
「えーっと、エンジニアっぽいことが5割で、
月イチで雑誌にビジネスポエムの連載していて、
週イチでお寺に通って仕事してます」
みたいな。
──
どういう人なんだろう(笑)。
濱口
そう、まさしく、そういう人がいい。

やっていることを一発で説明できない人のほうが、
これからの時代に求められていくと思う。
一発で説明できないってことは、
つまり「独特である」ということですから。
──
たしかに。
濱口
やっぱりね、
狙った「マト」にコントロールよく当てていく人生と、
いきあたりばったりゴロゴロ転がっていく人生と、
どっちがおもしろいと言ったらねえ。
──
ゴロゴロ人生ですか。濱口さんは。
濱口
断然そうやね。

だってぼく、新卒で入った会社では
セメントこねてたんですよ。
──
あ、松下電工さんでは、その部門。
濱口
そう、パナソニックの松下電器産業とはちがって、
ぼくのいた松下電工という会社は、
床つくったり壁つくったりキッチンつくったり、
電気配線や照明つくったり、モミモミ器つくったり。

まるで雑貨商みたいな会社だったんです。
──
テレビやビデオをつくっていたのは、
電器産業さんのほうで。
濱口
ぼくは「企画」をやりたかった。

テレビだったら、電器産業なんです。
でも、なぜ松下電工に決めたかと言うと、
当時、商品が「22万品番」にあったんですよ。
松下電工には。
──
商品の種類が、22万点も。
濱口
次に、従業員は何人いるやろと思って調べたら
「1万人」でした。
つまり、割り算をすると
「ひとり当たり22品番」でしょ。

これ、重役も営業も管理部門も
受付の女の子もお掃除のおばちゃんも含めた平均で
「ひとり22品番」扱ってる会社だったんです。
──
重役や営業や管理部門や
受付の女の子やお掃除のおばちゃんは
企画を担当しないでしょうから、
ひとりあたりの担当商品は、
実際にははるかに多いんでしょうね。
濱口
だから、そこで思ったのは、
それなら自分にだって
企画のチャンスは回ってくるはずだと。

そして、あるていど自分の判断で
仕事を進められるだろうと思ったんです。
──
それこそ「自分で仕事を創る」ことができると。
濱口
そう思ったら
「自分だけにしかできない仕事が見つかりません」
とか、
「望みどおりの会社から内定をもらえませんでした」
とか、何の問題もないことがわかりますよ。

何でもいいから仕事をはじめて、
自分の居場所をつくっていけばいいんです。
──
そこで、既存の仕事を新しい仕事につくり変えたり、
自分自身が思いも寄らないところへ
ゴロゴロ転がって行ったり。
濱口
そうそう。それが楽しい。
──
自分が予想だにしなかったボールが
飛んできたりすることも、あるでしょうし。
濱口
ぼくね、大学時代に量子力学やってたんですよ。
ニュートン力学じゃなく。
──
えーっと、はい。
すみません、どういう意味ですか?
濱口
つまり
「ある角度でボールを投げたら、
放物線を描いたその先で、
計算通りうまくマトに当たりました」
じゃなくて
「どこへスッ飛んでいくか、ようわかりません」
という学問をやってたんですよ。
──
つまり、昔から「量子力学的な人生観」を
お持ちだったと。
濱口
はい。そうです。そっちのほうが、
人生おもしろいと思います。

仕事は「就く」んじゃなくて
「創って」いきましょう。
仕事にはさっさと就いて、
そこから創っていきましょう。
【2020年3月28日 外苑前にて】

このコンテンツは、
ほんとうは‥‥‥‥。

今回の展覧会のメインの展示となる
「33の悩み、33の答え。」
は、「答え」の「エッセンス」を抽出し、
会場(PARCO MUSEUM TOKYO)の
壁や床を埋め尽くすように
展示しようと思っていました。
(画像は、途中段階のデザインです)

照明もちょっと薄暗くして、
33の悩みと答えでいっぱいの森の中を
自由に歩きまわったり、
どっちだろうって
さまよったりしていただいたあと、
最後は、
明るい光に満ちた「森の外」へ出ていく、
そんな空間をつくろうと思ってました。

そして、このページでお読みいただいた
インタビュー全文を、
展覧会の公式図録に掲載しようか‥‥と。
PARCO MUSEUM TOKYOでの開催は
中止とはなりましたが、
展覧会の公式図録は、現在、製作中です。

書籍なので一般の書店にも流通しますが、
ほぼ日ストアでは、
特別なケースに入った「特別版」を
限定受注販売いたします。
8月上旬の出荷で、
ただいま、こちらのページ
ご予約を承っております。

和田ラヂヲ先生による描きおろし
「はたらく4コマ漫画」も収録してます!
どうぞ、おたのしみに。