33の悩み、33の答え。

読者から寄せられた
数百の悩みや疑問から「33」を選びました。
そして、それらの悩みや疑問に、
33人の「はたらく人」が答えてくれました。
6月9日(火)から
毎日ひとりずつ、答えをアップしていきます。

Q028

なやみ

自分の仕事に誇りが持てません。

(37歳・薬剤師)

誰に押し付けられたわけでもなく、自ら望んで、資格まで取って就いた仕事に、誇りが持てません。理想と現実のちがいと言ってしまっては簡単なのですが、学校を卒業して、今の仕事をはじめたときの気持ちを忘れてしまいました。そういう人って、多いんでしょうか。そういうとき、どうしたらいいんでしょうか。不満たらたらなのに、仕事を変えようという気持ちも湧いてきません。

こたえ

大丈夫、誇りなんて簡単に持てませんよ。
行き詰まって悩むのは当たり前。
自問自答の数が、人を成長させると思う。

こたえた人小田豊さん(六花亭亭主)

小田
これね、行き詰まるのは当たり前です。
──
と、おっしゃいますと。
小田
薬剤師さんというのは、
患者が持ってきた処方箋のとおりに、
まちがいのないように薬を調合したり、
錠剤を小袋に詰めたりするお仕事でしょう。
──
そうですね。
小田
社会的な立場もあるし、緊張感もあるだろうし、
やりがいだってあったんだと思いますよ。

薬剤師になりたての、最初のうちはね。
──
はい、最初のうちは。
小田
37歳ということは、
仕事をはじめて10年以上は経ってますよね。
きっと、もう仕事にすっかり慣れて、
緊張感も薄らいで、
「ロボット」になっちゃってるんだと思う。

単純作業を繰り返しているだけの
「ロボット」に。
──
なるほど……。
小田
自分の仕事に行き詰まって、
こんなことでいいんだろうかと考え込むのは、
ある意味で「当たり前」なんですよ。

ぼくは、この年になって思うのはね、
人生というのは、
いかに自分と
「問答」を続けることができるかだなあと。
──
問答、ですか。
小田
そう。自問自答。考えない人には、成長はない。

「自分の仕事に対する取り組みは、
こんなことでいいんだろうか」って
「自問自答」を繰り返すことで成長していくんですよ。
うちの社員を見ててもね、そう。
──
みずからに問い、どう答えるか。
小田
たとえば、あこがれのエアラインに入社しましたと。
最初は「やった、うれしい、がんばろう!」と
目を輝かせていた人が、
すっかりルーチンに慣れちゃった。

毎日毎日、お客から航空券を受け取っては
「ピーッ、いってらっしゃいませ」
「ピーッ、いってらっしゃいませ」……で、
「あれ、思っていたのと、なんかちがうな」って。
──
きっと、よくあることですよね。
どんな仕事をしていても。
小田
じゃあ、すっかり「退屈」してるのに、
なぜ続けているのか。

それは「有名な航空会社だから」という世間体。
それだけのことだったりして。
──
ああ……。
小田
そうやってみんな、悩んじゃうんだけど、
でもそれは、ある意味で当然のことでさ。

人間、真摯に生きていこうとすれば、
何やら考えざるを得ないんですよ。
そして、自分に対する問いを立てない限り、
その状況から抜け出すことは難しい。
──
悩んでしまったら、どうしたらいいでしょうか。
小田
それは人それぞれだから、
何とも言えないんだけどさ、
薬剤師さんなら
お薬を渡すときにかける一言を、
ちょっとちがえてみるとかね。

そういう些細なところからしか、
変わっていくことはできないんじゃないですか。
──
なるほど。
小田
あるいは、目の前だけじゃなく、
まわりを見渡すこと。

となりでイキイキはたらいている同僚がいる、
自分と同じ仕事をしているのになぜだろうって
気づくことも、あるだろうし。
──
小田さんは、慶應大学を出たあとは、
たしか鶴屋吉信さんで修行されていたんですよね。
小田
そうです。3年間、お世話になりました。
──
そのとき、自分は将来、
六花亭というお菓子の会社を引き継いでいくんだという、
ある種の「意気」だとか「誇り」みたいな気持ちは……。
小田
意気でも誇りでもなく、使命感だった。

だって、まわりの仲間が
医者とか弁護士を目指すときに、
自分は正直「菓子屋の息子か」って思ってたから。
──
そうなんですか。
小田
でも、そんな思いを見透かしたように、
親父から
「医者や弁護士になりたいと思ってるかもしれないけど、
世の中にはな、
ラクな仕事なんかひとつたりともねぇからな」
って言われたんです。
──
わあ。
小田
ただね、そういう「使命感」というのは、楽なんですよ。

限られた期間に何を身につけられるかという、
具体的な目標がありますから。
──
なるほど。
小田
でも、この人もそうだと思うけど、
そういう「至近目標」をクリアしたあとの、
そこからが難しい。

人生というものは。
──
勉強をして試験に合格して、
晴れて薬剤師になって、
仕事にも慣れた「そのあと」が。
小田
そこで「自問自答」なんです。

そこからは、自分に対する問答の数だけ、
人は成長していく。
「自分の仕事は、これでいいのか」
「こんな毎日でいいのか」ってね。
──
どういう答えを出しても、いいんでしょうか。
小田
いいんじゃないの、それは。

答えそのものより
「考える」ことのほうが重要なんだから。
──
なるほど。
小田
行き詰まるんですよ、だいたい。
それは、ちゃんと生きてる証拠ですよ。

悩んで困って考えて、
誇りなんて、それからですよ。
──
誇りを持つのも、簡単じゃないんですね。
小田
誇りを持ちたいなんて言ってるうちは、
いつまでたっても無理じゃないですか。

一生懸命はたらいて、自問自答を繰り返した結果、
「あれ、俺、けっこう役に立ててるかも?」
ということに気づくわけだから。
──
はい。
小田
仕事に誇りを持つってことは、
「はたらく目的」とはちがうでしょう。
それは、あくまで「結果」にすぎない。

「5年前よりも、いい仕事ができるようになった」
「今日も一日、よくはたらいたなあ」
と思えたときに、
金平糖の粒よりもちいさな誇りらしきもの……が、
手のひらに乗っかってるんじゃないですか。
──
人生をかけて、求めていくほどのものなんですね。
誇りとは。
小田
簡単じゃないですよ。
──
小田さんが、まだ六花亭の社長でいらしたとき、
1000人以上の従業員さんのお名前を
すべて記憶していたと聞きました。
小田
パートさん含めて、1300人だったかな。
──
入社したての若い人でも、そんなふうに、
社長に自分の名前で呼ばれたら、
誇らしい気持ちになるんだろうなあと思っていました。
小田
社長の仕事は、そこからです。
──
自分は、取材で、
何度か六花亭さんをおうかがいしているのですが……。
小田
ええ、ありがとうございます。
──
じつは、そのたびごとに、
六花亭のみなさんの「誇り」のようなものを
感じていました。

自分たちの商品に対する誇り、
一緒にはたらく仲間への誇り、
帯広という土地への誇り。
小田
いえいえ。
──
自社のお菓子のことを
「おやつ」と呼んでらっしゃることも、そうです。

でもそれは、
あからさまに見せつけるようなものではない。
六花亭のみなさんが、お菓子をつくるときや、
お客さまに接するときの姿勢に、
にじみ出てくるようなものとして。
小田
そう言ってもらえるのはうれしいけど、
そんなにたいしたものではないですよ。

商品を「おやつ」って言ってるのは、
実際にそうだからだし。
──
と、おっしゃいますと?
小田
このところのコロナ騒動のおかげで、
観光客がほとんどの小樽運河店では、
売上が80パーセントもダウンしてるんです。
──
えっ、そんなに……そうなんですか。
小田
ところが、地元のみなさんが、
ひとつひとつ買ってくださるような店舗では、
逆に、売上が伸びたりしてる。
──
わあ、すごい。
小田
地元のみなさんへ向けてつくっている
「おやつ」だからこそ、
こういう時期でも売上が落ちない。

仮に
「今日は奥野さんに会うから、
六花亭のお菓子でも持ってって元気を出してもらおう」
とかね、
もしそういうことで売上が伸びているんだとしたら、
それはまさしく、
ぼくたちが目標にしてきた六花亭の姿なんです。
──
地元のみなさんによろこんでもらえる、「おやつ」。
小田
そう。だから「地元への誇り」というよりも、
地元の人たちに受け入れてもらえなければ、
六花亭は成り立たないんです。

1年間に、たった3日しかつくらないお菓子だって
あるんだから。
──
あの、ぼくが、当時まだ社長さんだった小田さんに
取材させていただいたのは、
もう10年くらい前なんです。
小田
ああ、そんなになりますか。
──
あのときは、お菓子の開発会議にも
同席させていただきました。

開発部の社員さんが、入れ代わり立ち代わり、
試作を小田社長の前に持ってきては……。
小田
ああでもない、こうでもないってね(笑)。
──
あのお役目は、今は、どなたが?
小田
ぼくがやってますよ。
それが、ぼくのいちばんの仕事だからね。
──
ああ、そうなんですね。何だか、うれしいです。
小田
そうそう、ほんの何日か前にも、
ようやくひとつ、発売にこぎつけた商品があってね。

おかげさまで、よく売れてるんです。
──
それは、どういうお菓子ですか。
小田
名前が「万作(まんさく)」っていうんだけど……。
──
あ、以前からありましたか?
小田
そうそう、昔からあるんです。

親父がつくったお菓子なんだけど、
ぼくには、どうも納得いかなくて。
──
へえ……。
小田
だから、今はなき親父に「ごめんよ」って言いながら、
まったく新しいお菓子に変えたんです。
──
そうなんですか。
小田
親父のネーミングと、
坂本直行さんの絵の描かれたパッケージは、
とてもよかったんです。

福寿草のことなんですけどね、「万作」って。
──
そうなんですか。春の花。
小田
そう、春が来たら「まず咲く」花が、福寿草。

それで「万作」と言うんだけど、
肝心の「お菓子」が、いまひとつだったんだな。
──
小田さんとしては。
小田
まあ、和菓子の「桃山」だったんだけど。

親父のお菓子を変える以上、責任があるから。
納得のいくものをとことん追求したら、
洋菓子になっちゃったんだけど。
──
え、和菓子だったものが、洋菓子に。
小田
そういうこともあります。

うまくいったので、
今はちょっと、ホッとしてるんです(笑)。
【2020月3月12日、六本木にて】

このコンテンツは、
ほんとうは‥‥‥‥。

今回の展覧会のメインの展示となる
「33の悩み、33の答え。」
は、「答え」の「エッセンス」を抽出し、
会場(PARCO MUSEUM TOKYO)の
壁や床を埋め尽くすように
展示しようと思っていました。
(画像は、途中段階のデザインです)

照明もちょっと薄暗くして、
33の悩みと答えでいっぱいの森の中を
自由に歩きまわったり、
どっちだろうって
さまよったりしていただいたあと、
最後は、
明るい光に満ちた「森の外」へ出ていく、
そんな空間をつくろうと思ってました。

そして、このページでお読みいただいた
インタビュー全文を、
展覧会の公式図録に掲載しようか‥‥と。
PARCO MUSEUM TOKYOでの開催は
中止とはなりましたが、
展覧会の公式図録は、現在、製作中です。

書籍なので一般の書店にも流通しますが、
ほぼ日ストアでは、
特別なケースに入った「特別版」を
限定受注販売いたします。
8月上旬の出荷で、
ただいま、こちらのページ
ご予約を承っております。

和田ラヂヲ先生による描きおろし
「はたらく4コマ漫画」も収録してます!
どうぞ、おたのしみに。