33の悩み、33の答え。

読者から寄せられた
数百の悩みや疑問から「33」を選びました。
そして、それらの悩みや疑問に、
33人の「はたらく人」が答えてくれました。
6月9日(火)から
毎日ひとりずつ、答えをアップしていきます。

Q025

なやみ

仕事は楽しいし、子どもたちからも
「ボクも、その仕事をしたい」と言われるけど、
どんなにはたらいても、1日2300円。
認められるって、いったいどういうことだろう。

(53歳・図書館司書)

小学校の図書室ではたらいています。司書の資格も小中高の教職も持っているけれど、有償ボランティアです。正直、子どもたちに憧れられていると思います。えっへん! 「ボクもなりたい! ワタシもなりたい!」と言われます。でも、何時間はたらいても、1日2300円。これでは生活できません。専業主婦の、お気楽仕事。夫をはじめ、まわりにそう思われているのがわかります。わたしも少し、そう思う……。でも、学校図書館司書のプロとして、はたらいているつもりです。だけど「認められていない」ことに、心がザワザワしてしまいます。仕事は楽しくて、自分に向いているとも思うんだけど……。認められるって、いったい、どういうことでしょうか。

こたえ

自分を認めるのは他人じゃないです。
最後の最後、
自分を認めるのは自分だと思います。

こたえた人幡野広志さん(写真家)

──
他人から認められること、言い換えれば「評価」って何だ……
という話だと思うのですが。
幡野
ええ。
──
子どもたちからは
あこがれられているのに金銭的には報われず、
そのせいで
旦那さんからも「お気楽仕事」だと思われている。

仕事自体は好きなのに
「認められていない」ことが心に引っかかって、
モヤモヤしてしまっているようです。
幡野
評価。うーん、何なんですかねえ。

まあ、話の前提として
「金銭的なものにつながらない仕事は、
続けることができない」
ということは、あると思うんですよ。
──
そうですね、はい。
幡野
よく引き合いに出されるのは
「アニメ業界」ですけど、
給料は低いのに、
アニメが好きな若者たちの「将来の夢」で
成り立っている……みたいな構造。
──
ええ。
幡野
同じように、
子どもが大好きで保育園の先生になったのに、
仕事が忙しかったり給料が安いせいで、
自分自身の結婚や出産からは
縁遠くなっちゃっている人も、いるみたいですよね。

だから「やりたいこと」と「お金」の関係性って、
やっぱり、しっかり考えなきゃならないと思う。
まず、そのことがあった上で。
──
はい。
幡野
評価とは何か……ですよね。むずかしい問題だなあ。
──
写真家さんって、つねに「評価」というものに
さらされているイメージなんですけど。
幡野
ああ、そうですね。
そういうところは、あるかもしれない。

その意味では、
ひとつには「褒められること」じゃないですかね、
評価って。
わかりやすく、それを可視化したのものが、
SNSの「いいね!」だと思うんですけど。
──
ああ、なるほど。
幡野
ぼく、子どもとバスに乗ったり
コンビニで買い物をしたとき、
運転手さんやレジの店員さんに
「ありがとう」って言うようにしているんです。
──
そうなんですか。
幡野
そうすると、やっぱり、
運転手さんも店員さんも、うれしそうなんです。
──
そうすると、こっちもうれしくなりますよね。
うれしさの交換。
幡野
ぼくは病院に行く機会が多いんですが、
そこでも、なるべく意識して
「ありがとう」って言うようにしています。

そうすると、
看護師さんはじめ医療従事者のみなさんも、
やっぱり、うれしそうにしてくれる。
だから「評価」って、
本来「お金」とは別のところで
成立するものなんだと思います。
──
なるほど。
金銭的な価値の交換とは、必ずしも関係ないもの。
幡野
そう。誰かに感謝されたり、
誰かの役に立ったという実感だったり。
──
そうか。幡野さんご自身は
「評価」というものと、
どんなふうにつきあってきたんですか?
幡野
さっきも話に出ましたけど、
写真家とかカメラマンって
「評価」が仕事に直結してるんです。
──
ええ。
評価があれば仕事が来るし、なければ来ない。
幡野
だからぼくも「評価」がほしかった、若いころは。
喉から手が出るほど……といってもいいほど。

10年くらい前までは、
評価されたくてされたくて仕方なかったと思います。
──
それは、たとえば「何々の賞を獲りたい」とか。
幡野
そうですね。少しでも有名な賞を獲って、
できるだけ大きな個展を開いて……。

これから写真の仕事をしていく上でも、
まずは「評価」されないと
「次のチャンス」は、なかなかきません。
だから「評価」がほしかったんです。
──
今は、どうですか。
幡野
正直、気にならなくなっちゃいました。

それは、写真でも文章でも、
あるていどの「評価」を得ることが
できたからかもしれません。
そして、今になって思えば
「評価」を気にしないほうが、
圧倒的に「ラク」なんです。
──
たしかに。自由な感じがします。
自分の心の状態としては。
幡野
それに、仕事がもっと好きになった気もする。
──
あー、なるほど。
幡野
しきりに評価を気にしていたころも、
仕事は好きだった……と思うんです。

でも、今ほど「楽しんで」いたかなあと思います。
何かに追われてるような感覚があったから、つねに。
──
わかります。

自分は何かの賞を獲った経験なんかないですが、
それでも、長く仕事を続けていると、
どんどん「評価」が気にならなくなってくる。
幡野
そうですよね。
──
30代いっぱいくらいまでは、
どうしたら自分の立ち位置を確立できるか
汲々としていて、
そのぶん仕事も「窮屈」だった気がします。
幡野
うん。そういう感じ、あります。
──
昔より気持ちが「ラク」なぶん、
納得いくものができている気もしますし。
幡野
そのことは、ぼくも感じます。

結局「評価」ばかり気にしていたときって、
「はやく評価されなきゃ!」って
「あせり」みたいなものが、
仕事に出ちゃってるような気がします。
──
この図書館司書の方は、まわりの子どもたちに
「自分も司書になりたい!」
って言われるくらいだから、
いいお仕事をなさってるんだと思うんです。

ご自身にとっても、まわりにとっても。
幡野
そうでしょうね。
──
仕事は楽しいって、言えてもいるわけですし。
幡野
だから、そうだなあ。
誰に評価されたいか……ってことなんじゃないかな。
──
ああ、なるほど。
幡野
そう考えると、他でもない「子どもたち」に
認められているんだから、
まずは、そのことが素晴らしいと思うんですよ。
──
利用者である子どもたち以上に、
小学校の図書館司書さんを「評価」できる人って、
実はいないですもんね。
幡野
そうそう。
その子どもたちに「憧れられてる」わけだから。
──
お給料が低い……
つまり経済的に「評価」されていなくても、
そのことで、
旦那さんにも「評価」されていなくても。
幡野
うん、そのこと自体「すごいことですよ」って、
言ってあげたいですね。

その上で
「誰に評価されたらいいのか」と考えたら……。
──
はい。
幡野
最終的には「自分」じゃないかな、と思いました。
──
おお。
幡野
さっき、ぼくが若いころに
「評価されたい」と思ってたって話が出ましたけど、
それって
「他人から認められる」ことだったんですよ。
──
ええ。
幡野
でも「評価」って、突き詰めて言えば
「自分でするもの」だと思うんです。
──
なるほど。
幡野
お金のことも、もちろん重要です。

その「好きな仕事」を、続けられるかどうかを
左右してしまうわけですから。
──
そうですね。はい。
幡野
でも、何て言うんだろう……
最後に「支えてくれる」のは
「自分の評価」なんです。
──
ああ……。
幡野
最終的には「自分の評価」だけが、
よりどころになると思います。
──
とってもわかります。

俳優のピエール・バルーさんが
「自分の得た喜びだけを灯りにして進んでいけば
道に迷うことはない。
君の人生の唯一の道しるべだから」
と言っているんですが、
その言葉、すごく好きなんです。
幡野
ぼくもね、写真を撮って人に見せたり、
文章を書いて人に読んでもらったりしてますけど、
よく考えたら、
それって、
けっこう「恥ずかしいこと」だと思うんですよ。
──
たしかに。
幡野
ぼくのところに写真を見てほしいってくる若者も、
どこか恥ずかしそうにしてますし。
──
はい。気持ちはわかります。
幡野
たいてい「プロの方に見せるのは……」
という言葉からはじまるんですけど、
自分のうみだした何かを見せるって、
そうとう「恥ずかしい」んです。

だから、
自分で「恥ずかしくない」と思えるものを
出していくしかない。
──
なるほど。
幡野
自分で「これなら、大丈夫だ」と評価できるものを。
──
幡野さんが、
自分で自分を認められるようになったのは、
いつくらいですか。
幡野
30歳をすぎてからでしょうね。少なくとも。
──
じゃ、10年くらいは写真家をやって、
ようやくって感じで。
幡野
はい。他人の評価を気にしていても
意味ないなと思うきっかけが、何度かあって。

それから「自分の評価」を
軸にするようになりました。
──
他人の評価はそうでもないけど、
自分では「いいな」と思えるものが
できるようになったってことですか。
幡野
いや、むしろ逆です。

自分がいいと思っていない仕事で、
高い「評価」を受けたことが何度か続いて。
そのことで、
ちょっと苦しい時期があったんです。
──
なるほど。

自分を認めてやれるのは、
他人でもないし、お金でもない。
幡野
そう。
──
自分の仕事に、納得できるかどうか。

この話は「誇り」という言葉にも
関わってきそうですね。
幡野
自分に対する、自分の評価。

最終的には、そこを「よりどころ」にできたら
いいんじゃないかなと思います。
【2020年4月27日 東京都世田谷区
←ZOOM→東京都のどこか】

このコンテンツは、
ほんとうは‥‥‥‥。

今回の展覧会のメインの展示となる
「33の悩み、33の答え。」
は、「答え」の「エッセンス」を抽出し、
会場(PARCO MUSEUM TOKYO)の
壁や床を埋め尽くすように
展示しようと思っていました。
(画像は、途中段階のデザインです)

照明もちょっと薄暗くして、
33の悩みと答えでいっぱいの森の中を
自由に歩きまわったり、
どっちだろうって
さまよったりしていただいたあと、
最後は、
明るい光に満ちた「森の外」へ出ていく、
そんな空間をつくろうと思ってました。

そして、このページでお読みいただいた
インタビュー全文を、
展覧会の公式図録に掲載しようか‥‥と。
PARCO MUSEUM TOKYOでの開催は
中止とはなりましたが、
展覧会の公式図録は、現在、製作中です。

書籍なので一般の書店にも流通しますが、
ほぼ日ストアでは、
特別なケースに入った「特別版」を
限定受注販売いたします。
8月上旬の出荷で、
ただいま、こちらのページ
ご予約を承っております。

和田ラヂヲ先生による描きおろし
「はたらく4コマ漫画」も収録してます!
どうぞ、おたのしみに。