33の悩み、33の答え。

読者から寄せられた
数百の悩みや疑問から「33」を選びました。
そして、それらの悩みや疑問に、
33人の「はたらく人」が答えてくれました。
6月9日(火)から
毎日ひとりずつ、答えをアップしていきます。

Q018

なやみ

中学生の息子が「はたらく=我慢」だと思っています。

(49歳・パート)

はたらくことについて中学生の息子と話したところ、「大きくなるにつれて、我慢することが多くなってきた。はたらくことについても、我慢することなんだろうな。やりたいことを仕事にできたとしても、我慢はあるよね、やっぱり」と言います。彼にとっては「はたらく=我慢」みたいです。そんな息子に、なんと声をかけたらいいでしょうか。

こたえ

もちろん「我慢」です。その連続です。
でも、その「我慢」の先にしか、
「たのしい」は待ってないと思います。

こたえた人斉藤和枝さん(気仙沼・斉吉商店専務)

和枝
あの……「もちろん、我慢だよ」って思うんです。
──
おお。ズバリ。
和枝
で、はたらくって「もちろん、我慢」の連続なんだけど、
その先にしか「楽しい」はないと思ってます。
──
なるほど。
和枝
「我慢」と「楽しい」は、いつでもワンセット。
おたがい「くっついてる」って感覚です。

たしかに
「我慢して続けていれば、かならず楽しいことがやってくる」
わけではないんだけど、
ラクして手に入れた楽しさと、
我慢の末に手にした楽しさとでは、まったく別ものですよね。
──
はい、そのとおりだと思います。
和枝
はたらいていると、
「たどりつきたい場所」が見えてきますよね。

そして、そこへ向かう道の途中には、
たいがい障害物が落ちています。
──
どんな仕事も、「スンナリ」とは、なかなかいかない。
和枝
そう。それでも我慢しながら
「何としても、たどりつきたい」と思って
がんばったときの楽しさ、うれしさって、
何物にも代えがたいです。

それに、最初は「我慢」だったものが、
だんだん「我慢じゃなくなる」こともある。
──
道を歩み続けている途中で。
和枝
まわりから見ると、
ずいぶん我慢しているように見えるかもしれないけど、
それは、ずっと先に見えている
「自分たちは、こうなりたい」
という場所へ向かっているわけですから、
いつのまにか
「我慢」とはちがうものになっているんです。
──
自分の足で、自分の意志で歩いている限り、
「我慢」ではないですよね。
和枝
まわりから「歩かされている」のなら、
我慢でしかないでしょう。

でも、本来「仕事」って「楽しいもの」じゃないですか。
──
そうなんですよね。
やらなくてもいいよと言われても……。
和枝
仕事のない人生や暮らしなんて、
自分には、ありえないです。

仕事によって、自分や仲間がイキイキしたり、
それこそ我慢したり、泣いたり、笑ったりしています。
そして、そういうこと全体が
「楽しさのもと」なんだよって、
この中学生のお子さんにはお伝えしたいですね。
──
和枝さんは、学校を出たあとは、
会社勤めをされたんですよね。
和枝
ちょっとだけ。
──
それは、いちどは外に出てみようということで?
和枝
そうですね。わたしは、
ずっと家業の「廻船問屋」を継げと言われて
育てられたんです。

そのために……今思えばですけど、
お稽古ごとなんかも途中で辞めさせられちゃって。
あんまり一生懸命になって、
そっちの道へ行かれてもと困るからって。
──
なんと。
和枝
日本舞踊を習っていて大好きだったんですけど、
それも途中で。
──
はー……そうだったんですか。

でも、そうやって家業を継いで、
イヤじゃなかったんですか。
和枝
あの、それが……イヤじゃなかったんです。

あの、うーんと……フフフ、
わたしの両親がね、
とっても楽しそうにはたらいていたんです。
そして、つねに
「この仕事ほど、楽しいものはないよ」って、
わたしに言い続けていたんです。
──
英才教育。
和枝
もちろんね、
いざはじめてみたら楽しいことばかりじゃないし、
というか、
むしろ「仕事って、何てたいへんなんだ!」
と思うことばっかりで。
──
そうですよね、実際は。
和枝
何が「楽しい」だ、うまくだまされたと思ったことも
ありますが、
35歳くらいからかなあ、
だんだん、おもしろくなってきたんです。
──
きっかけは、何だったんですか。
和枝
子どもがあるていど大きくなって、
これからは自分の責任で
会社を回していかなきゃと思うようになったんです。

自分で考えることが多くなって、
で、その自分の考えたことで、
お客さんがよろこんでくれる。
そういうことを繰り返していくうちに、
いつのまにか「仕事って、おもしろいなぁ」って。
──
よく、就職活動の学生さんの悩みで
「やりたいことがわからない」とか
「希望の会社から内定がもらえなかった」
というのがあるんです。
和枝
そうなんですか。
──
でも、今の話みたいに
「やってみたら、おもしろかった」ってこと、
たくさんあると思うんです。
和枝
うんうん。そうですよね。そう思います。
──
あの、今年で震災から9年が経ちましたけど、
直接の被害のないぼくらが想像する以上に、
東北のみなさんって
「我慢」の連続だったと思うんです。
和枝
ええ。
──
その、当時の「我慢」というのは……。
和枝
たぶん、いちばん「我慢」に近かったのは、
たとえば、気仙沼へ来てくださった方に、
おいしいお魚を出せないとか、
そういうことだと思います。

目の前の人たちに、
もっとよろこんでもらいたいのに、できない。
そういうことが、
いちばん辛かったかなと思います。
──
和枝さんは、自分が食べるのも忘れて、
炊き出しのおにぎりを握り続けた人ですものね。
和枝
自分たちの洋服とか布団とか食べるものとかは、
まあ、あればいいっていうくらいで。

ふつうの暮らしを取り戻したいという気持ちは、
もちろんありましたけど、
それは
「我慢」というほどのものではなかったです。
──
仕事にまつわる「我慢」や「楽しさ」「うれしさ」って、
人生のなかでも、
とくに大きなウエイトを占めていますよね。

こんなにも「仕事」で悩む人が多いのも、
よくわかると言いますか。
和枝
うちの会社の人たちを見ていても、
震災のときの「仕事がない」という状態が、
いかに人間を弱らせるのかと。

今、いちばん若い人だと、
高校卒業で入社してくるんです。
で、入りたてのころは、
仕事のおもしろさなんて、
本当にはわかってはいないと思うんです。
──
そうでしょうね。自分も、そうでした。
和枝
何となく、
こういう仕事がいいかなあって思って入社して、
でも、はじめてみたら「我慢」の連続。

だんだん元気がなくなっていったりするんだけど、
でも、そのうちに、
何やらすっごくうれしそうな瞬間を見るんです(笑)。
──
ああ、いいですね。
和枝
そうなると、もう「しめしめ」ってなもので(笑)、
顔つきも変わってくるし、
どんどん自分で動きはじめる。

わたしは今、若い人たちのそういう姿を見ているのが、
いちばん楽しい。
──
「楽しさ」も自分で見つけることが、重要なんですよね。
和枝
そう。自分のために、
世の中が「おもしろいこと」を用意してくれるわけじゃ
ないですからね。
──
ぜんぜんちがう話なんですけど、
先日、自分の大学の恩師が退官したんです。
最終講義をやるというので見に行ったら、
20年前とまったく同じことをおっしゃっていたんです。
和枝
ええ、ええ。
──
それは「やりたいことがあるなら、
それは、まずあなた自身が
大切にしてあげなければダメですよ」ということで。
和枝
ああ……。
──
学生時代、さんざん聞かされていたんですけど、
当時はピンとこなかったんです。

でも、その同じ言葉を、
社会に出てはたらくようになって20年、
40歳を超えてから聞いたら
「ずっしーん!」と心に響いてきまして。
和枝
わかります。経験がないと、
身にしみない言葉ってありますもんね。

ずーっと言われていたんだけど、
これほど深い意味があったのかあって、
ハッとする瞬間。
──
先生や両親という人たちが、
教え子やわが子に対して
「伝えよう、教えよう」としてくれていたことって、
こんなにもたくさんあったのかあと。
和枝
はい。若いころは
何を言われても実感が伴わなかった。

「わかりました、わかりました。
何度も聞いてるから、たくさんです」って。
──
暗唱できますくらいのこと、思ってますよね。

それでも、「わかってないなあ」と思いながらも、
先生や両親って
「言い続けてくれた」んですよね。
だからこそ今、
その言葉の重みを実感できているわけで。
和枝
本当に、ありがたいことです。

だからわたしたちも、
ぜんぶは伝わらないだろうと思いながらも、
言わなきゃならないんだと思います。
そして将来、
むずかしい壁にぶつかってしまったときに、
わたしたちの言っていたことが、
少しでも助けになったらいいなあと思います。
──
今日の
「はたらくって我慢です、
でも、その先にしか『たのしい』はない」
という言葉も、
今は、うまく伝わらない可能性は、あるんでしょうね。
和枝
そうですね。でも、言わずにはいられませんねえ(笑)。
──
この目の前の若造に、
何十年か後に気づいてもらうために、
自分は今しつこく言っている。

そんな気持ちだったんだとしたら、
先生とは、両親とは、
なんと「我慢」づよく、ありがたい人だったんだろうと。
和枝
本当に。将来、むずかしい壁にぶつかったときに、
先生や両親が
「もういない」可能性もあるじゃないですか。
──
ええ。
和枝
でも、その「言い続けてくれた言葉」が、
きっと助けになってくれると思うんです。
──
そう考えると、誰かが残してくれた言葉って、
もう、「その人そのもの」かもしれない。
和枝
そうですね。本当ですね。
【2020年3月13日、新宿にて】

このコンテンツは、
ほんとうは‥‥‥‥。

今回の展覧会のメインの展示となる
「33の悩み、33の答え。」
は、「答え」の「エッセンス」を抽出し、
会場(PARCO MUSEUM TOKYO)の
壁や床を埋め尽くすように
展示しようと思っていました。
(画像は、途中段階のデザインです)

照明もちょっと薄暗くして、
33の悩みと答えでいっぱいの森の中を
自由に歩きまわったり、
どっちだろうって
さまよったりしていただいたあと、
最後は、
明るい光に満ちた「森の外」へ出ていく、
そんな空間をつくろうと思ってました。

そして、このページでお読みいただいた
インタビュー全文を、
展覧会の公式図録に掲載しようか‥‥と。
PARCO MUSEUM TOKYOでの開催は
中止とはなりましたが、
展覧会の公式図録は、現在、製作中です。

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和田ラヂヲ先生による描きおろし
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