33の悩み、33の答え。

読者から寄せられた
数百の悩みや疑問から「33」を選びました。
そして、それらの悩みや疑問に、
33人の「はたらく人」が答えてくれました。
6月9日(火)から
毎日ひとりずつ、答えをアップしていきます。

Q010

なやみ

センスが必要な仕事なのに、
センスがありません。
センスは、どうしたら磨けますか?

(22歳・フォトグラファー)

わたしには「センスがない」と自分で思うのですが、センスを磨くにはどうすればいいでしょうか。そもそも、センスとはなんでしょうか。センスが必要不可欠な仕事なので、悩んでいます。

こたえ

センスなんてものは「ない」ですし、
「センスがない」くらいのほうが、
思いもよらないものをつくれるかも。

こたえた人祖父江慎さん(ブックデザイナー)

祖父江
お待たせして、すみませんでした。
──
こちらこそ、お忙しいところ、
お時間いただきまして。
祖父江
おならプ~。入ってないか。
──
入ってます。
祖父江
入ってますか。
──
はい。
祖父江
おならプ~。
──
また(笑)。ありがとうございます。
祖父江
おならプ~から、はじめましょう。
──
クリエイティブな職業における
「センス」についてのお悩みです。

永遠のテーマ的なものかも知れませんが……。
祖父江
センス。なるほどねぇ。
──
ようするに「センスの正体って何だ」
ということかなと思うんですが。
祖父江
そうですね、ま、センスなんていうものは
「ない」と思ったほうがいいでしょうね。

少なくとも、いいとか悪いとかで
測れるようなものではないですよ。
──
「センスというものは、ない」
祖父江
はい。ない。

センスがないよーって悩んでるなら、
まずは「言葉」を忘れたらどうですか。
──
言葉を、忘れる?
祖父江
何かを考えるとき、
つい「こうこうこうだから、こうだよね?」
って、やっちゃいがちでしょ。
──
はい、がちですね。
既存の枠に収めちゃうみたいな意味ですよね。
祖父江
そう。何かものを見るときも
「はいはい、これは本ですね」とか
「ああ、いつものコップね」とか。
──
ええ。
祖父江
そういうことを、なるべくしない。
言葉を忘れることによって。
──
そうすると、どうなりますか。
祖父江
うん、言葉を忘れると、
それまでの「慣れ」の思考パターンから
逃れられます。

ついつい
「おなじみの場所」へ戻らないためにも、
まずは「言葉」を忘れて、
何にでもビックリしてみるといいですよ。
一般に「センス」と呼ばれているものについては、
そのあたりのことが大事だと思う。
──
言葉にとらわれてしまうのが、よくない。
祖父江
もうひとつ大事なのは「呑気になること」かな~。
──
ははあ、呑気。それはいいですねえ。
祖父江
ようするに、心配しすぎないこと。

心配というものは、
その人を、
論理的に追い込んでいくようなところがあるので。
──
「こうこうこうだから、ダメなのである!」
……と。
祖父江
そう。何でも根拠づけたり体系づけたりしないと、
不安になっちゃう。

で、不安になると
「いつもの状態」に戻ろうとしてしまう。
──
なるほど。
祖父江
そういう状態は、まあ、よくないですね。

そうじゃなくて
「知らないところに連れてって~♡」
のほうがいいんです。
──
祖父江さんは「さらわれたい」と。
祖父江
うん、さらわれたい。
そのためには、フットワークを軽くする。
この身の安全を考えない。
呑気になる。

センスを磨く……みたいなことがあるとすれば、
それはいろんなことに
「鈍感になること」かもしれないね。
──
言葉だとか、
それまでの慣れ親しんだ場所などに、
とらわれずに。
祖父江
でね、
まわりの人が「すばらしい!」と称賛しているものに
ピンとこないことがあって、
だから「自分にはセンスがないんだ!」って
落ち込んでる人がいたとすれば、
そっちの人のほうが、
むしろ見込みがあると思うんですよ。
──
どういう意味ですか。
祖父江
青のとなりには黄色が合いますとか、
そういう「構造化されたセンスの良さ」に対して、
頭で知ってる人より、
身体全体で「わからない!」っていう人のほうが、
思いもよらない発想をするかもしれない。

みんながいいと思っている何かに対して、
懐疑心から入れるから。
──
はー、なるほど。
祖父江
そういう意味で
「自分にはセンスがない」と思ってる人には、
むしろ「可能性」がある。

センスがない、まわりの人と感覚がちがうことを、
不安に思う必要はないんです。
一般的に「センスがいい」とされているものが
「よくわからない」という、
そのすばらしい状態から
「じゃあ、どうしよう」って出発できるわけだから。
──
みんなの「いいね!」の呪縛から
自由だとも言えるわけですね。

「センスのない人」というのは。
祖父江
と、思いますけどね。
──
これは本筋から離れるかもしれないんですが、
いま、真っ白いところに
文字がポンと載ってるデザインの本って、
すごく多いじゃないですか。
祖父江
ええ。
──
そういう本がたくさんあるのを知っていて、
なぜ、わざわざ
同じようなデザインにするのか不思議なんです。

素人としては。
祖父江
現代っていうのは、
「安心」にお金を払う時代だからですよね。
──
なるほど、
あれは「中身については、安心ですよ」
と言っていて、
ぼくらは、その「安心感」を買っている。
祖父江
これは時代によって変わるんですけど、
過去には
「まだ見ぬものにたいする期待」や
「ワクワク感」に、
お金を出していた時代もありました。

いまは、SNSの発達もあって、
社会の不安がふくらみやすくなっているし、
みんな「不安との闘い」に、
お金を使っているんでしょう。
──
その点、祖父江さんの会社の、
ものをつくるときの指針って、なんですか。
祖父江
うちは、ま、だいたいにおいて
「どっちもアリかな?」と思ったら
「危ないほう」を選んでますね。

「安全なほう」じゃなく。
──
危険と安全って、どういう……
いろんな意味があると思いますけど。
祖父江
えらい人の会議に通りやすいとか、
製造上の問題が起こらなそうだとか。
──
……を、選ばない。
祖父江
うん、どっちでもアリだったら、
そうじゃないほうを選んでます。

で、「これ、危ないかも~」ってほうを
選んでおくと、
だいたい「いいもの」になるんです。
──
それは、経験的なものですか。
祖父江
趣味かもしれない。

「はじめからうまくいかないもの」
に対して
ワクワクしちゃう感じが、
ベースとしてあるから。
──
いまのも「センス」に通じていそうな話ですね。
祖父江
やっぱり、世の中、
完全に理解しきれることなんてないのに、
みーんな「わかった気」になっているんだよね。
──
そこで競争している感じはありますよね。

こっちのほうが安全ですよとか、
じつは、誰にもわからないことなのに。
祖父江
だからやっぱり、
自分の「不安」なんか気にしないこと。

おなじみの場所に、しがみつかないこと。
──
はい。
祖父江
物語とかストーリーというものを、
盲目的にありがたがらないことも
重要だと思います。
──
物語を?
祖父江
映画でも、小説でも、テレビドラマでも……
もっといえば
「聖書」みたいなものでもいいんだけど、
コタツでおならプ~している場面とか
削ぎ落とすじゃないですか。
──
それは、そうでしょうね。はい(笑)。
祖父江
で、意味のある場面だけをつなげて、
ひとつの流れに乗せていきますよね。

それが物語というものだし、
そうすることによって、
記憶されやすくなったり、
広く伝わっていったり、
おもしろがられたりするわけですけど。
──
すべての場面に、
意味とつながりがあるような状態。
祖父江
でも、本当は、
そういう「物語」を理想と考えて、
むりやり人生を「編集」しようと焦る必要は
ないと思うんです。

ブツブツ切れ切れで、首尾一貫性のない、
過去や未来にしばられない「いま」こそ、
ときめきの連続なんだから。
──
意味やつながりがなくても、
平気な顔をしていりゃあいいと。
祖父江
そう。「人生」なんてものは、
もともと「ない」んですよ~。
──
「センス」が、もともと「ない」ように。
祖父江
そうそう。おなら、プ~。
【2020年2月21日 中目黒にて】

このコンテンツは、
ほんとうは‥‥‥‥。

今回の展覧会のメインの展示となる
「33の悩み、33の答え。」
は、「答え」の「エッセンス」を抽出し、
会場(PARCO MUSEUM TOKYO)の
壁や床を埋め尽くすように
展示しようと思っていました。
(画像は、途中段階のデザインです)

照明もちょっと薄暗くして、
33の悩みと答えでいっぱいの森の中を
自由に歩きまわったり、
どっちだろうって
さまよったりしていただいたあと、
最後は、
明るい光に満ちた「森の外」へ出ていく、
そんな空間をつくろうと思ってました。

そして、このページでお読みいただいた
インタビュー全文を、
展覧会の公式図録に掲載しようか‥‥と。
PARCO MUSEUM TOKYOでの開催は
中止とはなりましたが、
展覧会の公式図録は、現在、製作中です。

書籍なので一般の書店にも流通しますが、
ほぼ日ストアでは、
特別なケースに入った「特別版」を
限定受注販売いたします。
8月上旬の出荷で、
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「はたらく4コマ漫画」も収録してます!
どうぞ、おたのしみに。