原丈人さんと初対面。 考古学から『21世紀の国富論』へ。ベンチャーキャピタリストの原丈人さんと 糸井重里が会いました。 最初、コンテンツにしようなんて 考えてなかったのですが そのときの話が、とにかくおもしろかったのでした。 考古学者のたまごから 世界が舞台のベンチャーキャピタリストへ。 一歩一歩、「現場」をたしかめながら歩んできた 原さんの「これまで」と「これから」。 そこにつらぬかれている「怒り」と「希望」。  ぜひどうぞ、というおすすめの気持ちで おとどけしたいと思います。 ぜんぶで10回、まるごと吸いこんでください。 あなたなら、どんな感想を持つでしょう。


第1回 朝から晩まで元気なパワーエリートって。
糸井 はじめまして、よろしくお願いします。
どうも、はじめまして。
糸井 さっそくなんですが、
原さんの「本業」ってなんなんでしょう?
え?
糸井 いつもは「ベンチャーキャピタリスト」と
紹介されるんでしょうけど、
なんだか、それだけで語れないような
いろんなことをやってらっしゃる印象があって。
デフタ・パートナーズっていう
ベンチャーキャピタルの会社を経営しています。
本業というなら、それかな。

でもまぁ、それだけじゃなくて、
非営利の企業や財団の運営などもやってますので、
本業はなにかと聞かれれば、
とりあえず「実業家」と答えています。
糸井 そういう肩書き以外の活動っていうのは、
原さんにとって、どういうものなんですか?
まぁ、いろんなことをやってるんですけど、
そのどれも、最終的には
「アメリカの悩みを解決するのは
 日本なんだぞ」というふうにしたいんです。
糸井 アメリカを、日本が助けると。
たとえば、日本の学者の考えかたを
アメリカで発表できるよう、
財団をつくって資金を提供したりしています。

日本のメディアにいくら出したって
ニューヨーク・タイムズは、
ぜったい、とり上げてくれないでしょうし。
糸井 それは、そういうものなんでしょうね。
残念ですが。
糸井 でも、原さんって、世間的に見たら、
「アメリカで働くエリート」に
ジャンル分けされる人でしょう?
うーん、本人には
ぜんぜんそういう意識はないですけどね。

以前、「ほぼ日」でも紹介された
岩井克人さんと初めて対談したときも、
最初はそう思われていたようですね。

岩井さんからは、わたしがアメリカで働く
ベンチャーキャピタリストだということで、
ジョージ・ソロスや
村上ファンドの村上世彰みたいな人間ではないかと
思っていたと言われました。

幸い、会ってすぐに誤解はとけたんですけど(笑)。

でもまあ、そういうふうに、見えるんでしょうか。
月に半分以上は、日本にいませんし。
糸井 そういう人が
「アメリカを助けるのは日本だ」って。
しょっちゅう、グリーンカードをつくれと
合衆国からは言われますけど、
それもずっと、拒否してるんですよね。

だって、わたし、日本人ですから。
糸井 でも、アメリカのエリートの生きかたには
ちょっと、興味があるんです。
わたしが身近でみていても、
たいして変わったとこはないですよ。
糸井 いや、あの‥‥。
ひとりの人間ができることの分量って、
あるていど、限られるじゃないですか。

それなのに、
「100メートルのスピードで
 フルマラソンを走りきる」みたいに
がんばってらっしゃいますよね、みなさん。

アメリカで働くエリートの人って、
とにかく、そう見える。
ただのイメージなのかもしれないけど。
ええ、まぁ、たしかに。
糸井 で、それが「勝ち組」みたいに
思われてるせいなのか、
エリートじゃない
ふつうのわれわれ日本人までもが、
自民党政権のことから、朝青龍の事件から
ご近所づきあいの悩みから‥‥
すべてにコミットしなければならないと
思っちゃってる気がするんです、現代って。
本が出たら、読まなきゃならない、とか。
糸井 ええ、古典の知識だって必要だ、とか。

つまり、強迫観念みたいに
情報やら知識やらを求められていますよね。
そんなにたくさん、こなしきれなくて
あせってる人たちのほうが、多いでしょう。
糸井 はい。そうなんです。
で、その「あせってる」人たちというのは、
エリートの側から見たら、
自分たちの仕事の売り先の、
「たんなる消費者」にしか過ぎないのか‥‥。
それは、アメリカが解決できていない
問題のひとつですね。
糸井 だから、そういう人たちの仕事論というか、
生きかた観については、興味あるんですよ。

なにしろ元気じゃないですか、朝から晩まで。
アメリカで働くエリートの人たちって(笑)。
まぁ、ヘンに元気なのが多いけどね。
わたしから見りゃあ。
糸井 いちばん最初にそれを感じたのは、
アメリカの企業の
カンファレンスに参加したときなんです。

壇上に上がってくるエリートたちは、
みんな明るくて、体格がよくて、
朝から夜中まで元気で、酒もよく飲んで‥‥。

で、翌朝も誰よりニコニコしながら
「おはようーっ!」なんて言って出社してくる。
体つきも、シャープだったりしてね。
そういうイメージって、たしかにありますね。
糸井 その一方で、典型的な言いかたをしちゃうと
遊園地かなんかに、
太ったお父さんを中心にした家族づれが
脂っこいファーストフードを食べながら、入ってく。

人数として多いのは、
明らかにそういうお父さんたちじゃないですか。

でも、世間で信じられてる「基準」からすると、
そっちの人たちのほうが「負け組」というか、
「ダメ」だとされちゃってますよね。
ああ、それで、さっきの‥‥。
たんなる「消費者」なのか、と。
糸井 そういう基準って、いったいなんなんだろう。

どうしても、やるせないんですよ。
みんなオッケーでしょ、って言いたいんです。

アフリカから
奴隷として連れてこられた人たちの子孫が
それこそ、大統領になってもおかしくない
時代になったわけですから。
たしかにね。
糸井 エリートだなんだという基準とは別のところで
みんなが肯定されるような考えかたが
見えてくるといいなぁって、思ってるんです。

2007-11-20-TUE

(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN