「はだか」の作品。 アンリ・ベグランさん、福森雅武さんと、 伊賀の「土楽」で。
 
その4 もし傷がついても、     それがあなたの歴史です。
福森 (料理を手に、台所から登場)
ようこそ、ようこそいらっしゃいました。
糸井 きょうは、
似たような境遇の人たちを会わせる会です。
こちらのシモーネさんは通訳で、
日本語が完全にわかります。
福森 そうなんですか。
糸井 アンリさんは革の職人さんです。
三浦さんは、ぼくの京都の家を造ってくれた人で、
なおかつアンリさんのお店の
さまざまな内装とか、
やっていらっしゃるかたです。
福森 乾杯しましょう。
一同 かんぱーい!
糸井 イタリア語では?
アンリ cin cin!
糸井 じゃあいただきまーす。
福森さんって、やってきたことは、
全部盗んだことばっかりだと
ご本人、おっしゃるんですよ。
一同 (笑)
糸井 すっぽん屋さんに
陶器を届けるところから始まって、
しょっちゅう通って
調理方法を盗んだんですよね。
福森 生きたすっぽんをどうさばくかっていうのを
知りたいと思ったんですが、
わたしは習うのが嫌なんですよ(笑)。
それで台所から上がってね、
じっと見てたりね。
糸井 お花も習ってないんですよね。
福森 お花はね、誰からも盗んでもおりません。
これはもう家元です。
はははは。
三浦 家元ですか。
そうですか。
福森 これはそこにいっぱい生えてる
蒲の穂(ガマノホ)っていうのを、
朝摘んで、活けたんです。
糸井 これ、単色なのに色を感じますね。
アンリ またお邪魔して、
いろいろ勉強したいです。
糸井 ろくろ、回しますか。
福森 じゃあ、わたしは革を習おうかな(笑)。
ふみこ
さん
ほんとに、アンリは
ろくろにすごい興味を持ってて、
いつかは作ってみたいっていうふうに
言っているんですよ。
糸井 アンリさんは、すっごい有名な
イタリアのサッカーの選手だったんですよ。
サッカーから革にいったんです。
アンリ 昔のことですけど。
糸井 写真とか見るとすごいですよ。
福森 小林秀雄さんが言ってたんですけどね、
文章を書くのも、スポーツ神経だって。
その勘が行き渡らなかったら、文章にならない。
それの元はそういうもんだ、と。
糸井 最終的に筋肉で表現するんですからね。
福森 飲んでくださいよ。
シモーネ ありがとうございます。
ほんとはね、たくさん飲みたいんですけど、
お昼ですし。
福森 昼間だからおいしいんですよ。
お昼から夜まで、ずーっと飲むんです。
シモーネ わかりました(笑)。
糸井 事実ですよね。
福森 はははは。
このあいだ、博多、唐津、
寿司屋以外行かないという旅行をして。
おもしろかったですよ。
そういうのを、「遊行」(ゆぎょう)と
名づけたんです。
もう最後のほう、修行になりました(笑)。
糸井 なんのいわれもなく行ってるんですか。
ただ行きたくて行った?
福森 そうです。
糸井 ああ、いいなぁ。
福森 一緒に行きましょうよ。
玄界灘の魚の最高のところを知ってますから。
また東京とちょっとちがうおいしさです。
みんなで行きましょう。
糸井 いいですねぇ。
ふみこ
さん
アンリもお寿司大好きなんですよ。
糸井 アンリさん、日本にほんとに合ってるね。
ふみこ
さん
日本食が一番好きなんですよ。
だから、週に3、4回は絶対、日本食。
糸井 アンリさんは、
福森さんの土鍋を
イタリアで使われてますからね。
福森 ほう!
はははは。
ふみこ
さん
ステーキ焼くのに、
ちょっと勇気がいるんですけど。
福森 いやいや。
パエリアもやってください。
ふみこ
さん
お米は、炊いています。
お米、おいしいです。
福森 なんだっけ、チーズとこう‥‥。
ふみこ
さん
リゾットですね。
それもまだ怖くてできない。
10回ぐらい使わせていただいたんですけど。
福森 もう大丈夫ですよ。
わたしそのリゾットが好きでね、
よくやるんです。
ふみこ
さん
土鍋を直火で焚いて、
大丈夫なんですね。
福森 大丈夫。
ふみこ
さん
わたしもやってみます。
糸井 買った人からも、
使っていくうちに入る
貫入のことを心配だというメールを
いただくんですけれど、
大丈夫なんですよって。
福森 あれが歴史だからね。
貫入が入ったら、
その土鍋は、あなたの歴史ですよ。
ふみこ
さん
アンリのバッグも
傷がついたらどうするんですか、
っていうような質問をいただきます。
福森さんとおなじなんですよ。
傷がついてもそれがあなたの歴史で、
それぞれの使い方によって変わる。
色が濃くなるのも歴史で、
傷が付くのも歴史で、
手垢も歴史です。
おなじですよね、
手で作る物っていうのはね。
福森 だけどそれがね、
わかってくれる人があんまりいない。
糸井 大量生産品の時代には
わからないんですよね。
それをわかるお客をつくるのが
ぼくらの仕事なんです。
ふみこ
さん
ええ、ええ。
福森 さあ飲みましょうよ、飲みましょう(笑)。
なかったらないようにある、
あったらあるようにある(笑)。
わたしのとこはそれですから。
もうあるだけしかないんだから。
糸井 いつか福森さんに器のこと、
こういうことですよっていうの、
教わりたいなぁと思うんだけど、
こうして、いつも食って終わちゃうんです。

(つづきます)
2010-09-06-MON
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN