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第28回 番外編
「大川総監督が語る、私の仕事」
“メジャーリーグ事情”その２
マック鈴木選手の移籍
前回は、私がなぜシアトルにいたのかを
ご説明しましたが、
それからが、またまた大変な事になるのです……。
シアトルでは、マリナーズ球団からの通知を待ちながらも、
マック鈴木選手、ＴＫこと高阪剛選手、私の三人で
楽しい時間を過ごし、また、練習をしたりしていました。
ただ、私も仕事の都合で、それから２日後の６月17日
深夜の飛行機で、シアトルからニューヨークに
戻ることになっていました。
シアトルに残るマックとは
「移籍先が決まらないままで長引くようだったら、
またシアトルに戻ってくるから。」と言って、
空港で別れたんです。
機中泊してニューヨークに着くと、
すぐにマックから電話がありました。
電話に出るなり、
「さっき、ＮＹメッツにトレードされました。」
って言うんですよ。
「なので、僕もこれからニューヨークに行きますんで、
大川さん、そのまま待ってて下さいね。」って。
これには、またまた、ビックリさせられました。
「よりによってＮＹメッツかぁ。」
そういうわけで、私は仕事をしながら、
マックが来るのを待ってたんです。
６月２１日は私がオフ、メッツの試合もない日でした。
なので、マックと一緒に練習したり、
軽く気分転換したりして（どうやって気分転換したかは
ご想像にお任せしますが）、
僕らなりにリラックスして過ごしました。
そして次の日、マックと私がホテルの部屋を出て
メッツのスタジアムに行こうとしたときです、
マックのエージェントから電話がかかってきました。
「・・・はい、はい。・・・、はい。・・・・・・。」
マックを見たら、電話を切ったあとも、
そのままの姿勢で固まってるんですよ。
「何の電話？」
「今、ウェーバー※にかけられたそうです。
で、ＫＣロイヤルズに獲られたから、
ロイヤルズに行けって。
詳しいことは球団に行って、直接聞いてこいって。」
（※マック選手の場合は、
在籍球団が戦力外通告をする前に他球団に対して、
必ず一回「売りに出す」ことをしなければならない。
そこで買い手がついたらトレード成立。買い手が
つかないときには、選手を自由契約に出来るというもの）
「えぇ、また！？」
これには、メジャーリーグのやり方に慣れているはずの
私も、またまたまたビックリです。
マックはたったの１週間で、メジャー３チームを
渡ることになったんですから。
そのまま私たちはタクシーで、
メッツ球団事務所に向かいました。
車中でもマックは、ちょっと納得がいっていない様子で、
「いやぁ、おれ、どうしようかなぁ」って言ってました。
まあ、現実的には「どうしよう」というほどの選択肢は
彼には与えられていなくて、受けるか受けないか、だけ
なんですけどね。
移籍についての説明を受けたのち、ロッカールームの
荷物をまとめて、翌日には
ロイヤルズのフランチャイズのあるカンザスシティに入る
ということになりました。
結局、ＮＹメッツでのマックは、
たった２試合ベンチに入っただけ、というものでした。
次の日、マックがカンザスシティに旅立つのとほぼ同時に、
マックと別れた私は日本行きの便に乗りました。
こうしてようやく、
アメリカでの慌ただしい日々から開放されたわけです。
その後、アメリカでは、野茂さんが連勝を続けていますし、
マックは新しい移籍先のＫＣロイヤルズで、
入団早々、先発登板のチャンスを与えられ、
７月１日の登板では先発６回２失点の好投を見せました。
前回でも触れましたが、
メジャーというところは、本人の実力や戦績以外の要素、
チーム間での契約やさまざまな事情から、
選手が簡単にトレードに出されたり、移籍の通告を受けて
チームを変わるということが、あり得る場なのです。
選手本人の意思など、まったくそこには存在しません。
今のところ、野茂英雄選手は、見事に復活して
ブリューワーズで活躍しています。
今になってみると、
「なぜ、メッツは野茂をクビにしたんだ」とか
「なんでカブスは野茂を獲らなかったのか？」とか
いろんなことを言われます。
野茂選手の力を球団が見誤ったのか、それとも、
トレードを受けた野茂選手が発奮したのでしょうか？
少なくとも、我々、野茂選手の身近にいる人間には、
野茂選手が活躍するであろう根拠を幾つも挙げることが
できますし、今、好調であることの説明がつくんです。
先程、私はわざと「野茂選手、復活」と書きましたが、
実は「復活」でもなんでもなくて、いわば当たり前の力を
野茂さんが出している、というだけのことなんです。
次回は、その気になるところに触れてみたいと思います。
お楽しみに。
ストロングス 大川達也
（つづく）
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