2018年1月、
ほぼ日の学校が始動しました。

これからいったい、
どういう学校に育っていくのか。

そのプロセスの出来事や、
学校にこめる思いなどを、
学校長・河野道和が
綴っていきます。

ほぼ日の学校長

河野通和(こうの・みちかず)

1953年、岡山市生まれ。編集者。

東京大学文学部ロシア語ロシア文学科卒業。

1978年〜2008年、中央公論社および中央公論新社にて
雑誌『婦人公論』『中央公論』編集長など歴任。

2009年、日本ビジネスプレス特別編集顧問に就任。

2010年〜2017年、新潮社にて『考える人』編集長を務める。

2017年4月に株式会社ほぼ日入社。

ほぼ日の学校長だよりNo.34

「深い川は静かに流れる」

 先週土曜日の午後2時から5時まで「リコーダーワークショップ」をやりました。

 リコーダー‥‥。

 そうです。小学校や中学で音楽の時間に吹いた縦笛です。

 音孔の開け方にバロック式とジャーマン式(ドイツ式)の2種類があって、管の材質もプラスチックだけでなく、メープル、洋梨、つげといったわりに柔らかいものから、紫檀、黒檀といった堅い木材までさまざまです。

 音域によって、バス、テナー、アルト、ソプラニーノ、ソプラノなどの種類があることも今回初めて知りました。

 指導にあたってくださったリコーダー奏者の太田光子さんは、リコーダーの魅力を次のように語っています。

<リコーダーはとても歴史のある楽器です。

今から何百年も前のものをもとに作った楽器で、
当時の楽譜を掘り起こして演奏すると、
歴史の資料が本当の音楽としてたちあがってきます。

楽譜を読むだけではわからない、
当時の音がたちあがるのです。

それによって、昔の音が、
今生きている音楽として活き活きとよみがえる。

それが古楽の楽しさ、おもしろさです>

 シェイクスピアとは切っても切り離せない関係にあるリコーダーという楽器。

 ワークショップ参加者の半分(19人)は、「シェイクスピア講座」の受講生です。「笛を手に持つのは中学校以来!」、「この講座を受けなければリコーダー合奏なんて考えたこともなかった」という人がほとんどです。ほんの数名、吹奏楽部出身者もいたようですが‥‥。

 カラオケボックスで7時間一人練習してきました」という男性参加者。皆さん、気合は十分です。

 受講生のほかに一般募集もかけました。定員21人で募集しましたが、枠をはるかに上まわる応募があり、太田さんも「リコーダーって、こんなに人気があるんだぁ」と感激の面持ちです。抽選の結果、札幌や京都からの参加者もあり、さらにさらに驚きです。

 このプログラムは、新潮社笛部出身、ほぼ日ウクレレ部主宰者の「学校」スタッフ・草生(くさおい)がひときわ熱心に取り組みました。メンバーが決まってからこの間、太田さんが選曲してくださった楽譜を参加者に送り、練習用音源をメールで届けたり、準備を怠りなく進めてきました。

 不都合が生じて参加を断念した方はやむを得ませんが、演奏が不安そうな人には励ましのことばを送り、「楽しいですよぉ」と誘い水を注入。結果、土曜日は13時の開場からほどなく参加者がどんどん集まりました。草生いわく「『楽しみにして来ました!』って、キラッキラの目で話しかけられました」と。

 実は、最初に楽譜を見た瞬間、私の脳裏には「大丈夫だろうか?」という一抹の不安がよぎったのです。ワークショップはまだしも、これを練習して、5月29日の公開講座の本番「シェイクスピアの音楽会」のステージで、プログラムの1つとして披露しようという目論見(もくろみ)です。

 急造のリコーダーオーケストラがちゃんと演奏できるのだろうか。ちょっと難しいのではないか‥‥。1回の練習で間に合うのだろうか‥‥?

 ところが、これはまったくの杞憂に終わりそうな気配です。5つに分かれたパート別の最初の音を聞いた瞬間に、「おおっ」と期待がふくらみました。そこから後は、太田さんの朗らかな「オッケー」の声に導かれ、みるみる音質が変わっていきます。柔らかに、ふくよかに、表情のある音が生まれ、メンバーに連帯感がひろがります。合わさると立体的な音楽がそこにありました。

<嘘をつくように簡単だ。指でここにある穴を押さえて、口で息を吹き込めば、すばらしい音楽が聞こえる。ほら、ここを押さえるんだ>(『新訳ハムレット』河合祥一郎訳、角川文庫

 ハムレット』第3幕第2場には、こんなハムレットのセリフがあります。

もう、大丈夫! 本番に期待したいと思います。

 さて、こういう準備を進める一方で、「学校」スタッフは先々の講座の“仕込み”を、深く潜行しながら始めています。きょうはそのあたりを少しご紹介しておきます。

 いま仕込んでいるのは、シェイクスピアに続く大型講座を2つ。それと6月7日~11日に開催されるほぼ日の「第3回生活のたのしみ展」(恵比寿ガーデンプレイス)に出店する「河野書店 ほぼ日の学校長の本屋さん」の準備。

 それと並行して7、8、9月に月1回で行われる外部との連続コラボ企画や、11月末予定のスペシャルイベント、12月予定の単発講義のほか、オンライン講座の開始準備が本格化しています。

 オンライン講座の開始、2つの大型講座の仕込みが大変なのは言うまでもありませんが、ほかのものもすべて「前工程」の丁寧さが必要です。シェイクスピアをやりながら、頭は歴史の悠久のかなたに向かったり、古今東西をめまぐるしく駆け回っています。

 とりわけ「河野書店」は、開催の日が迫ってきました。昨年11月の「たのしみ展」では、「19歳の30冊」として選んだ本を並べました。今回は特にそういうテーマ設定はしていません。立ち寄った方に、是非手に取っていただきたいと思う本を選りすぐったつもりです。なので、ヒマを見つけてはいまその30冊を読み返しています。

 きょうは野見山暁治さんの『四百字のデッサン』(河出文庫)を再読しました。単行本が出たのは1978年1月30日。その年のエッセイスト・クラブ賞を受賞しています。

 出てすぐに買った理由もよく覚えています。若き画学生としてパリに留学した時代の野見山さんの話を留学生仲間の人からよく聞いていたからです。さらには義弟が作家の田中小実昌(こみまさ)さんという、何だかうれしくなるような意外な関係!

 田中さんが文芸誌「海」(中央公論社)に「ポロポロ」という傑作短編を発表したのが1977年12月号で、たまたますぐにそれを読んでいたのです。やがて短編集『ポロポロ』(中央公論社、1979年)が刊行され、その年の谷崎潤一郎賞に選ばれます。「ポロポロ」発表→『四百字のデッサン』刊行→『ポロポロ』谷崎賞は、2年の間にひとつのリズムを刻んでいたのです。

 新宿ゴールデン街のバー「まえだ」で、小実昌さんとは何度か野見山さんの話をしました。繰り返し聞いた言葉は、さいわい文章の形で残されています。

<(略)野見山暁治は、やたらに女性にモテるようなことを言いふらしているが、だまされてはいけない。ぼくは、ずっといっしょにくらしていて、よくしってるけど、モテる話ばかりで、モテる現場は見たことがないからだ。

だいたい、オンナの趣味もよくないよ。お上品で教養のある女性ばかりとつき合うなんて、これほど悪趣味なことはない>(「作家登場 野見山暁治」、『みづゑ』764号、美術出版社)

 田中小実昌さんの飄々とした人柄、独特の立ち位置を知る人も少なくなったので、ニュアンスが伝わりにくいかもしれません。ですが、この話、何度聞いてもおもしろく、これを嬉しそうに、さも可笑しそうに語る小実昌さんの表情が好きでした。「いい話だなあ」と思いながら、頷いていました。

 ノスタルジーだけではなく、そういう人たちの「記憶」をいまに呼び覚ましたい、というのも、今回の選書の目的には含まれています。私以上に、野見山さんや小実昌さんのこと、同世代の画家たち、パリの留学仲間のことなどに詳しい方々がいらっしゃることでしょう。

 話をしながら本を手に取る場所。「河野書店」は、そんな交流の場にもなってほしいと念じています。

2018年5月24日

ほぼ日の学校長

ほぼ日の学校スペシャル
「シェイクスピアの音楽会」


2018年5月29日(火)

草月ホール 18時開場 19時開演 
21時終了予定

全席指定6,480円(税込み)

★当日券販売のご案内★

5月29日 16:45〜18:45 会場の草月ホールにて当日券を販売いたします。

受付は先着順です。

予定枚数に達した時点で受付を終了させていただきます。

お問い合わせは gakkou@1101.com まで。

「ほぼ日の学校長だより」は、
ほぼ日の学校長・河野通和がお届けするメールマガジンです。

「ほぼ日の学校」のはじまりや、これからの話、夢や想いを
週に1回、お伝えしていきます。
読みつづけていただくと、
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