ほぼ日刊イトイ新聞 フランコさんのイタリア通信。アーズリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

2009-07-22-WED

フランコさんのバカンス通信 その3
モンテ・アミアータとラディコーファニ。


franco

モンテ・アミアータに来ています。
ここは1950年までは水銀の鉱山として知られていた山。
その鉱山が閉じた今、さらに、有名になっているのです。

アミアータ周辺の谷のワイン、
トスカーナ地方の伝統的な食べ物、
カトリック教会や修道院などの芸術作品の再発見。
それらが観光の目玉になってくれたおかげで、
前からとても美しかったにもかかわらず
あまり知られていなかったこの柔和な雰囲気の山が、
ふたたび脚光を浴びるようになったのです。
特に芸術作品の再発見は、
イタリアではよくあることですね。

トスカーナには荒々しいものは何もありません、
ラディコーファニという、
町と呼ぶのが大げさなくらいの集落へ続く景色も、
とても甘味で優しいものです。

中世時代、ラディコーファニには
北部からローマへ続く道を通って行ったのですが、
そこにはギーノ・ディ・タッコという山賊がいて、
ラディコーファニへ向かう裕福な旅人たちから
金品を奪っていました。
しかし彼は後に、
人質にとった枢機卿が病に倒れると
献身的に面倒をみたことで、
その枢機卿の助けを得ることになります。
ラディコーファニも教皇領の特別保護下に
置かれるようになり、
地元ではギーノを英雄とみる人もいます。

その道はカーブに次ぐカーブで、
道沿いには糸杉がたちならび、
麦の収穫後の畑は金色から明るい茶色に色を変えて、
まるで広々とした平原のようになります。
これが、絵ハガキなどにもある
トスカーナの典型的な眺めですね。

franco

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ラディコーファニの教会へ。

ラディコーファニは大きな村くらいの
典型的な中世の町ですが、
その中心部には、
キリストの使徒であり
カトリック教会の初代教皇とされる、
聖ピエトロ(ペテロ)に捧げられた
小さな教会があります。

franco

他に例を見ない独特な美しさをたたえ、
まるで宝石のように、または開いた花のように
調和のとれたその教会は、
幸運にも出会うことのできた人を
ウキウキとした気分にさせます。

建設は1224年に遡り、
建築様式はロマネスク=ゴシック様式の
ひとつの例に数えられます。
中に入るとすぐの右側に、
アンドレア・デッラ・ロッビア
(ルネサンス期のイタリアの彫刻家)の作品とされる
テラコッタ・インヴェトリアータ、
つまり、ツヤを出すために
ガラスの粉を捏ね込んだテラコッタの、
素晴らしい彫像があります。

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そばにはクリスタルの棺があり、
そこにはミケランジェロ派の作品である
木の彫像が納められてます。

祭壇は、中央部と左右の3つの部分とも、
ガラスの釉薬をかけた多色の焼き物の
素晴らしい作品で構成されています。
これらはアンドレア・デッラ・ロッビアと、
やはり彫刻家である伯父
ルカ・デッラ・ロッビアとの共作で、
この種類の最高の作と言われ、
数世紀にわたって模倣されましたが、
同じレベルの物は他にはありません。

この小さな、しかしこの上なく素晴らしい
教会の内部で吸い込める雰囲気は、
まったくもって神秘的ですが、それは、
ぼくの宗教がカトリックであるからではありません。

同様の感動を、
ぼくは他の国の他の宗教からも受けています。
イスタンブールのモスク、
エルサレムのシナゴーグ、
ニュー・デリーのヒンズー寺院、
そして、鎌倉や東京の寺や神社からも。

神秘主義というものは宗教とは無関係で、
その土地土地の深いなにか神聖なものと関係していると
ぼくは考えています。
素晴らしい教会や神社、仏閣などは、
もちろん目で見る喜びである以上に、
魂を再生させてくれると思うのです。

ポルケッタで小腹を。

魂に栄養が与えられたら、
身体にも栄養を‥‥。
地元の農家で代々伝えられている料理ほど、
旅の食欲を満たしてくれるものはありません。

おなじみの「メレンダ(間食)」、
昼食と夕食をつないでくれる
小さな食事にぴったりな、
「ポルケッタ」と数枚のパンがあります。

ポルケッタとは、
ひと言でいうと「ブタの丸焼き」で、
中にセージ、ニンニク、ローズマリーなど
ハーブ類を詰め、棒に通して弱い火で
数時間かけて焼いた物です。

franco

皮はパリパリに焼け、
中は香り豊かで味わい深くなります。
2枚のパンとポルケッタを2切れ、
忘れ難い旅のしめくくりに‥‥。


訳者のひとこと

文中のピエトロ(ペテロ)ですが、
キリストの12使徒のひとりで、もとは漁師でした。

 イエスは、ガリラヤ湖のほとりを
 歩いておられたとき、
 二人の兄弟、ペテロと呼ばれるシモンと
 その兄弟アンデレが、湖で網を打っているのを
 ご覧になった。彼らは漁師だった。
 イエスは
 「わたしについて来なさい。
  人間をとる漁師にしよう」と言われた。
 二人はすぐに網を捨てて従った。

新約聖書の「マタイによる福音書」には、
そう書かれています。

ギーノ・ディ・タッコは、
ボッカッチョの「デカメロン」や
ダンテの「神曲」にも登場します。
こんな像まであるようです。

うららさんイラスト

翻訳/イラスト=酒井うらら



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