ほぼ日刊イトイ新聞 フランコさんのイタリア通信。アーズリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。
2008-07-16-WED
フランコのヴァカンス・リポート
モンティッキエッロの町。

さて、今年もいちばん素敵なシーズンが始まりました。
ヴァカンスのシーズン!!
これから夏の間は、去年のように、
ぼくのヴァカンス・リポートをお届けします。
今年も旅の始まりは、いざ、トスカーナへ!!

まずミラノから鉄道で、そしてキウジの駅からは車で、
連なる丘を抜けてキャンチャーノへ向かいます。
温泉で有名なちいさな町です。

キャンチャーノには、
数年前まではミラノやローマの裕福なブルジョワたちが、
肝臓の保養のためにやってきました。
ここの温泉には、
肝臓に良い効果があると言われていましたからね。
この町のスローガンも、まさに
”Chianciano, fegato sano"
「キャンチャーノ、健康な肝臓」
だったのですが、最近は“Beauty farm”と言われる
美容と健康の総合的なケア施設の流行にともない、
「健康な肝臓」のキャンチャーノは、
ほとんど忘れられてしまいました。

そのキャンチャーノを通り過ぎて、
そのまま車で進むこと約1時間。
行政区画としてはシエナ近郊に当たりますから、
進む方向としては少し北へ戻る格好です。

素晴らしいトスカーナの田舎の風景、
乾いた空気に焼けつくような太陽、
刈り入れ後の麦の黄金色、
イタリアでもまれに見る肥沃な大地が、
何キロメートルも続きます。

やがて丘の上に、まるで丘にとまっている鷲のような
小さな村が見えてきました。
今回の目的地、モンティッキエッロです。
様々な色にあふれ、良い香りに満たされて、
時が経つのを忘れるような60分のドライブでした。



ヴィットリアお婆ちゃんのピーチ。

モンティッキエッロには、
ヴィットリアお婆ちゃんがいます。
彼女は82歳で、
「pici (ピーチ)の女王」と言われています。
「ピーチ」とは、シエナ地方独特のパスタのことです。

シエナ地方はかつて、
イタリアで最も貧しい地方のひとつでした。
「え? トスカーナはワインで有名なのに貧乏だったの?」
とお思いのみなさん、
たしかにこの地は、
ワインのフェラーリとも称される
キャンティ・アル・ノービレ、モンテプルチアーノ、
ブルネッロ・ディ・モンタルチーノなど、
良質なワインの生産を軸に、
豊かに花咲きました。
でもそれは、戦後のことなのです。

ヴィットリアお婆ちゃんのつくる
素朴な「ピーチ」は、
かつては貧しい地方だったことも物語ってくれますよ。

美味しくて健康的な香り、伝統的な彩り、
そしてヴィットリアお婆ちゃんのお話は、
忘れ去られたような過去にぼくらを連れ戻してくれます。
ぼくらがいつも夢見ている「時空の旅」の素晴らしさを、
くり返し味わうような気分になります。
つまり、ヴィットリアお婆ちゃんを訪ねることは、
すべてにおいて至福のひとときなのです。

ヴィットリアお婆ちゃんは言います。
「私は11歳のころにピーチの作り方を覚えたの。
 だから、この70年のあいだには
 山ほどのピーチを作りましたよ。
 今は時代が変わったけれど、
 第二次世界大戦のころには、このあたりは惨めなもので、
 みんないつも、お腹をすかせていたの。
 ピーチは、お水と小麦粉と、
 ちょっとのオイルと塩があればできますから、
 おなかをすかせた貧乏な家庭でも作れた料理なのよ。
 今では私も、
 お肉を使ったラグー(ミートソース)も作ります。
 小麦粉をこねやすくする卵もね‥‥。
 何もかも、あのころとはすっかり変わりました。
 でも、良い方に変ったのだから‥‥幸せなことね」と。

ヴィットリアお婆ちゃんの言うことは正しいですね、
たしかに世界は変わりました。
そして、ラグーのかかった
美味しいピーチの皿を前にすれば、
色々なことは忘れて、食べることだけに没頭できます。
これは、とても幸せなことです。
ヴィットリアお婆ちゃんが知っている、
あの空腹が二度とこの地に舞い戻りませんようにと、
ぼくは祈ります。

ヴィットリアお婆ちゃんのレシピ。

まずは基本となるパスタ、
ピーチの作り方からご紹介いたしましょう。
お肉を使ったラグーの作り方も、
もちろん続けて、その下でお伝えしますね。

pici(ピーチ)のレシピ

材料

薄力粉 500g
強力粉 500g
水 100〜150cc(生地の状態で加減)
塩 小さじ2
卵 M玉2個(1個でもOK)

大きなパスタ台に小麦粉全量を乗せて、
中央をくぼませます。
くぼんだところに、
卵、塩、水(ここでは100cc)を入れ、
中央から全体をなじませるように、
フォーク等で混ぜていきます。

卵の量や、空気の湿度の度合いで、
さらに水を加えながらひとつにまとめ、
体重をかけるようにして、生地を練り込みます。
生地がまとまってから、
練り込みに要する時間は10分ほどです。

なめらかな生地ができあがったら、
全体を4等分し、打粉をしたパスタ台の上にのせ、
麺棒で約7mm程度の正方形に伸ばしていきます。

伸ばした生地の上面だけに薄くオリーブ油を塗り、
包丁等で約5〜6mmの幅にカットします。
(生地にオリーブ油を塗ってあるので、
 ここから先は打粉は、必要ありません)

カットした生地を、やはりパスタ台の上で、
てのひらを使ってコロコロ転がしながら、
細長く伸ばします。

太めのスパゲッティ程度まで伸ばしたら、
小麦粉(分量外)をまぶしておきます。

出来上がった生地に乾いた布巾等をかけて、
2時間ほど休ませます。

ゆで方は、スパゲッティと同じように、
たっぷりのお湯に塩を入れて茹でます。
ゆで汁の塩加減は、
お吸い物よりちょっとしょっぱいくらいです。

10分くらい経ったら、ゆで加減を確かめます。
ゆで加減は、お好みでよろしいのですが、
12〜13分程度が標準でしょう。

さて、こうしてピーチが出来上がったら、
これをラグー(ミートソース)でいただいてみましょう。
イタリアでラグーといえば、
一般的なものはボローニャ風ですが、
今回は、トスカーナ地方独特のレシピをご紹介します。

トスカーナ風ラグーのレシピ

材料
オリーブ油 大さじ5
牛挽肉 赤身 1kg
タマネギ 1/2個
にんじん 1/2本
セロリ  1/2本(あまり大きくないもの)
トマト水煮缶 150g
白ワイン 300 cc
塩 適量
黒胡椒 多めに

トラディショナルなトスカーナ風は、
トマトが入りませんが、
今回は、ピーチに合わせて、トマト少々を使用します。
また、お肉は、牛挽肉7割に
イタリアの生ソーセージ(サルチッチャ)を
使用するのが本来ですが、
日本では入手しにくいので、
牛挽肉100%としています

作り方
野菜類は、すべて小さめのみじん切りに。
厚手のお鍋でオリーブ油を温め、
野菜のみじん切りを全量入れます。
炒めるというよりは、油の中で
クツクツと煮ていく感じで火を通します。
野菜に焦げ色が付かないように、
弱火〜中火で約5〜6分です。

そこに挽肉を入れますが、ひとかたまりにして、
火が通った野菜の上で大きなハンバーグを
焼くつもりで火を通していきます。
途中で何度か上下を返します。
その状態で、自然に挽肉がばらけていきますが、
小さめの不ぞろいな肉団子状態になっていれば
火が通っていますから、OKです。

次にワインを入れ、
入れた全量が沸騰して蒸発するまで煮詰めます。
煮詰め方が足りないと美味しくなりませんので、
これでもかというほど蒸発させて、
ワイン投入前の状態になるまで、
根気よく煮詰めましょう。
最後にトマトを入れ、
トマトも水分がなくなるまで煮詰めていきます。

塩で味を調え、
火を止める直前に、たっぷりの黒胡椒を入れてください。
(子どもが食べる場合は控えめに)

ご参考までに、
日本の主婦の方に、
ミートソースをお肉2kgで調理するときに、
タマネギは何個必要でしょう? という質問をしますと、
タマネギ大3〜4個という回答が圧倒的に多いのですが、
トスカーナに限らずイタリアでは、
お肉2kgに対してタマネギ中1個が標準です。
もちろん、お好みで沢山使用していただいて結構ですが
ボローニャ風のソースのようにトマトを沢山使う場合、
タマネギが多いとシャープな酸味が
スポイルされてしまいます。
日本でおなじみのミートソース(ボローニャ風)の
レシピはまた次の機会に。


訳者のひとこと

文中のBeauty farmですが、
これはイタリアでも英語借用で、
そのまま使っているようです。
フランコさんの原文にも英語表記されていました。

さて、ピーチですが、
私も存じませんでした。
日本でも郷土料理の麺類は様々ですね。

翻訳/イラスト=酒井うらら



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