フランコさんのイタリア通信。
アズーリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

パブ「4-4-2」そしてベガルタ仙台。


イタリアには美味しいワインがたくさんあり、
イタリア人たちはワインが大好きですが、
昨今のミラノでは「ビールを1杯」というのが
お洒落な流行になりつつあります。

「パブ」と名乗る店はミラノに10軒ほどあり、
ぼくの家の近くのセンピオーネ界隈の
プロカッチーニ通りにも1軒あります。
9月の蒸し暑い夕方に、そこへ出かけてみました。

その店の名前が、
ぼくのサッカーに対する情熱を刺激したのです。
じつは「4-4-2」という名前なのですが、
看板にはご丁寧にも英語で「four four two」と
書いてありました。

「4-4-2」
そう、サッカーのフォーメンションのひとつですね。
中に入ると、数台のテレビが点いていて、
イギリスのカンピオナートの試合を放送しています。
気分はイギリス本国のパブというところです。
壁にはびっしりとサッカーチームのマフラーや
旗が飾ってありますが、
でもちょっと待ってください、
イタリアのチームのものはひとつもありません。

ぼくは、まずビールを注文してから、
この興味深い発見について尋ねてみました。
ここ「4-4-2」では、こうして
世界の半分にも届こうかというくらいの
各国のサッカーチームを紹介しているのに、
イタリアチームがないのは、なぜか、と。

そして、ぼくに渡されたビールを見ると、
これは何とニッポンの某有名メーカーのビールです。
それで、ぼくは続けて質問しました。
なんでまたそんな遠い国のビールを売るのか、と。

店の経営者のひとりであるらしい
アンドレアという人が、ぼくに答えてくれました。

「ぼくらはサッカーの神々がいないサッカーの味方なんだ、
 スーパースターがいないサッカー‥‥
 たとえばカカやイブラヒモヴィッチやロナウジーニョには、
 ぼくらは興味がない。
 そして、なぜ日本のビールを提供しているかというと、
 日本のJ2のあるチームのファンだからさ。
 ちょっと上を見て‥‥」と言いながら、
彼は自分の肩の上の壁を指さしました。

そこには、ベガルタ仙台の
黄色とブルーのマフラーがありました。

そして彼は、驚いたことに
日本のサッカーについて話しはじめたのです。

ミラノから、日本を愛す。


「ぼくらは2002年のW杯のときに仙台へ行って、
 ベガルタ仙台のファンになったんだ。
 ぼくらは、ベガルタという名前の由来を
 日本人たちに聞いたのだけど、
 その説明ときたら、詩のようだった。
 ほんとうかどうか確かめていないけど、
 その説明には詩情があふれていて、
 ぼくらはすっかりファンになってしまった。
 だって、その名前はヴェーガとアルタイルという
 ふたつの星の結びつきからつけたって言うじゃないか。
 恋し合うふたつの星の名前をつなげてあげて
 サッカーチームの名前にするなんて、
 日本でなければ、ありえないよ」

日本のビールをゆっくりとすすりながら、
イタリア人たちは日本を愛する、
またはともかく賞賛する手がかりを、
どこにでも見つけだすものだなと、
ぼく自身のことや、
ミラノにある10軒ばかりのスシ・バーのことを
ぼくは思いめぐらせました。
もっともスシ・バーについては、
韓国人や中国人の経営する店も多く、
ぼくのように日本通(えっへん!)ではない
ミラネーゼたちは、無邪気に「日本の寿司」と信じて
よろこんで食べているようでもあります。
それはともかく、
このパブにいたっては日本のJ2の
小さなチームのマフラーさえ置いてあるというわけです。

ぼくにビールをくれながら、アンドレアは、
テーブルにおいてあるTシャツの話も始めました。
日本の模様がついています。
かれは声をひそめて
「僕らはこれを30枚、買ったんだ。
 もしベガルタがJ1に昇格したら、
 熱心な常連さんたちにプレゼントする」と、
ぼくにささやきました。

ぼくが「4-4-2」を後にしたのは、
もう夜もふけるころでした。

空を見上げると星が輝いていました。
さて、どれがヴェーガやらアルタイルやら、
ぼくには一向に分かりませんので、
目で確かめることはできませんでした。
でも、ぼくは知っています。
「4-4-2」の常連さんたちの心の中には、
このふたつの星が輝いていることを。

なんて素敵なんでしょう、
まるで奇跡のようです。
サッカーというものがつないだ奇跡です。


訳者のひとこと
tanabata
はい、七夕の街ですね、仙台は。
ベガルタ仙台は「べ」で通っているようなので、
そのままに表記し、
星の名前は「ヴェーガ」で定着しているようなので、
「ヴェ」と表記しました。
翻訳/イラスト=酒井うらら

2007-10-02-TUE

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