フランコさんのイタリア通信。
アズーリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

ロミオとジュリエットのヴェローナ。


この1週間はサッカー面で
とくに目立った動きがありませんでした。
そこで、世界一有名なカップルのお話をいたしましょう。
秋は恋の季節でもありますからね。

そんなむかし、ふたりの恋人たちがいました。
かれらの恋の物語は世界中の人々を涙させ、
今も夢を見させてくれます。
死をも軽々と越えた完璧な愛のシンボルである
その二人の若者たちは、多くの世紀を過ぎた今も、
ふたりだけの世界にいます。
そう、そのふたりとは
「ロミオとジュリエット」です。
(イタリア読みでは「ジュリエッタとロメオ」です。)

この物語は、不朽の英国詩人
ウィリアム・シェイクスピアの作ですが、
舞台はイタリアのヴェローナという街です。
彼の想像力の産物が、永遠の愛のシンボルとなった
ロメオ君とジュリエッタ嬢の物語であり、
すべてはたぶん彼の創作であろうと言われます。

でも、すべてが作り話だなんて、
イタリア人に、とりわけ、
ジュリエッタ・カプレーティとロメオ・モンテッキが
5世紀以上も前に住んでいたとされる
ヴェローナの人たちに、言ってはいけません。
夢をぶちこわしてはなりません。

この作品は多くの示唆に富み、
ドラマチックで濃密なその物語の展開は、
その悲劇を絶望的なまでに洗練させることで、
あらゆる形に展開させることのできる、
いわば「おおもとの作品」となりました。

この作品はひとつの散文詩です。
時空をも超える優れた文学作品であるがゆえに、
世界中の国々で愛のシンボルとなり得ました。
そしてシェイクスピアの悲劇の中でも、
最も人気がありましょう。
彼は多くのイタリア古典小説にヒントを得たようですが、
彼だけが、この愛と死の悲しい物語を
「伝説」にまで高めたというわけですね。

ヴェローナへ行ってきました。


ヴェローナは、
ミラノからヴェネツィア方向へ150km、
鉄道で1時間半ほどの所にある古い街です。
もともとはローマ様式の街で、
野外オペラの素晴らしい公演で有名な
アレーナ(古代円形劇場)は2000年ほど前のものです。
街の中央をアディジェ川が横切っています。

ウィリアム・シェイクスピアは、
じつはヴェローナを訪れたことは無いそうです。
でも彼の濃密な詩の想像力をかき立てた場所を
見てみたいという強い好奇心もあり、
ぼくは、9月の、ある天気のよい日に
ミラノから列車に乗り、
ジュリエッタとロメオの街を訪れました。

美しい街、美しい街路、そして美しい円形劇場、
すべてが感動的に美しい街ですが、
「ジュリエッタとロメオのバルコニー」の下に立った時、
ぼくはもっと大きな感動にとらわれました。

これ以上ないほどたおやかで壊れやすく絶望的な、
過酷なまでの愛を、
ジュリエッタがロメオに投げかけたバルコニー‥‥。
そこを、世界各地から訪れた
数十組の若いカップルたちが
愛のカードを壁につるし、
ジュリエッタの銅像の胸に触り、夢見る瞳で
世界一有名なバルコニーを見上げていました。

そして不意に、
63歳のぼくも青年にもどり、
このバルコニーの下で
愛しい人に甘い甘い愛の言葉を告げるところを
想像していました。

ぼくは、イタリアを訪れるすべての人たちに、
ヴェローナを訪れなさいと、
ただただお薦めします。

ジュリエッタとロメオが
実際には存在していなかったとしても、
そんなことはどうでも良くなります。
こんなにも不思議さに満ちた
その場所の雰囲気そのものが、魔法のように
あなたたちを打つに違いありません。
もし、もう青春を過ぎてしまった年齢でも、
ほんのひとときでも、あなたたちを
青春時代のふたりに戻してくれるでしょう。

「恋人同士は、ずっと二人きりの世界にいる」と、
イタリアの古い歌にあります。
あの不運なふたりの恋人たちが、
永い時を経て、
ますますふたりっきりの世界にいるように、
これ以上ありえないほど、
あなたたちもふたりっきりの世界に‥‥。


訳者のひとこと
この物語は、ふたりの名字をとった
「カプレーティとモンテッキ」というタイトルで、
オペラにもなっています。
作曲者はヴィンチェンツォ・ベッリーニで、
初演は1830年だそうです。

映画にもなったミュージカル
「ウェスト・サイド物語」も
この物語が原案になっていますね。
近いところではディカプリオのロメオで、
現代版にアレンジした映画もありました。

ヴェローナは、ほんとうに落ち着いた、
こじんまりとした上品な街です。
ヴェネツィアにいらっしゃる機会があれば、
立ち寄りやすいので、ぜひヴェローナにも。
翻訳/イラスト=酒井うらら

2007-09-11-TUE

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