フランコさんのイタリア通信。
アズーリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

がんばりました、アルビーノレッフェ!

イタリアの格言にいわく
「金銭は幸福を与えない」。
これはたぶん真実を言い当てています、
特にサッカーの世界では。

ミラノでは、ここ数週間のうちに、
いくつかの祝祭がありました。
ひとつはインテルのスクデット獲得のお祝いで、
彼らは屋根のないバスに乗って
街をパレードしました。
そしてここでもご紹介したように、
数日後、ACミランが同じように
UEFAチャンピオンズ・リーグ優勝のパレードをしました。
そしてこの2チームが共同でホームとする
サン・シーロ競技場でも、同じように前後して、
まずインテルの、それからACミランの催しが開かれました。
あわせて7万人ほどのティフォーゾたちが、
彼らのアイドルの花道に立ち会うために
入場料金を支払って参加しました。
この2チームは今や、
イタリア大チームの中でもライバル意識の象徴です。
ユヴェントスが審判買収スキャンダルがもとで
1年間のセリエB落ちをしたために、
イタリア3大チームの一角が脱落した格好で、
この2チームの対抗意識は今や真の対決として
イタリアサッカーの最前線にあるのです。

そういうわけで、インテルもACミランも、
勝利の祝賀のために大金を使いました。
きょうぼくが書きたいのはそのことではありません。
もっともっと規模がちいさくて、
でも、巨万の富でも買うことができないだろう
幸せなお祝いの一夜が、テーマです。

セリエBに残った幸せを祝おう!


先々週のことです。
セリエBのアルビーノレッフェという小さなチームが、
祝賀パーティーをひらきました。
ベルガモ近郊の、互いに数キロしか離れていない町、
アルビーノとレッフェのチームなので
アルビーノレッフェという名前がついています。
さて、彼らが、何を祝ったか?
セリエBに残留できた喜びと幸せを祝ったのです。

アルビーノレッフェは、がんばりました。
偉大なユヴェントスとの2回の対戦で、
なんと2回とも引き分けたのですから。
そんなシーズンの終わりに、
監督のエミリアーノ・モンドニコが、
祝賀パーティーをひらいたのでした。

招かれたのはアルビーノレッフェのティフォーゾ全員。
招いた場所は、ミラノから
バイオリンで有名なクレモーナの方へ
60キロほど行った、
リヴォルタ・ダッダにある彼の家です。

ぼくも行ってきました。
そのパーティーの喜び、楽しさ、
そして「のんきさ」といったら、
億万長者のインテルやACミランのパーティーを
うらやむことなんて何も無いくらいでした。

アルビーノレッフェがホームで試合をする時の
平均的観客数は200人ほど。
そこには選手達の親族御一同様も含まれますから、
どんなムードなのかは、
お察しいただけるのではないでしょうか。
だからモンドニコは彼らの全員、
本当に全員を、招待しようとしたのでした。
招待ですから、もちろん無料です。
そこを通りかかったあなたも、どうぞお入り下さい、
誰の許しもいりません、
お食べなさい、お飲みなさい。
そんな具合です。

そういう太っ腹なモンドニコ氏とはどういう人でしょう?
その監督としてのキャリアの中では、
トリノを率いてUEFAカップで
アヤックス相手の決勝戦を一度経験し、
その他ナポリ、アタランタ、
中田がいた時のフィオレンティーナも監督しています。
でもこの2年ほど、
彼はアルビーノレッフェの監督の座を選びました。
その理由は、自分の家の近くにいられるから、です。
そう、パーティー会場にもなったこの家です。

彼はそこでブタやニワトリや、
オウムや孔雀も飼っています。
人生から多くを得た人が
時を得て穏やかになり立ち止まり、
この世が彼に毎日プレゼントしてくれる物を
金銭や人気のことを考えずに使って人生を楽しむ‥‥。
まれに見るというよりは他にふたつとはない、
そういう人生を彼は楽しみたいのです。

てづくりの大パーティー。


先々週の水曜日の朝、
モンドニコは早起きをして、
アルビーノレッフェの200人のティフォーゾや
選手達や親しい友人達のために
「大パーティー」の準備を始めました。

彼の家ではとんでもなく美味しいハムや
サラミ‥‥それから丸焼きとなる豚がいます。

最高のワインを産む葡萄の木もあります。
チーズもふくめて全てが健康で自然な食べ物が、
彼の家で用意できるのです。

テーブルセッティングを撮影してみたのですが、
上の写真は全体の約1/3パートで、
残りの1/3は「回れ右」をして撮影すると
同じようなテーブルが並んでいます。
さらに残りの1/3は、屋根のない場所に
セッティングしてあったのですが、
あいにくパーティーが始まる直前ににわか雨が降りだし、
庭が見下ろせる2階の大きなテラスに
設置しなおしていました。
パーティーの規模やモンドニコ邸の大きさを
写真でお伝えしたかったのですが、
あまりにも広大すぎて、
みなさんにこの写真からイメージしろといっても
無理かもしれません、残念です。

モンドニコの友人の中からは
「イ・ノーマディ」という音楽バンドが、
数は少なくとも幸せいっぱいな観客のために
即興コンサートを開きました。
かれらはもう30年以上も、
イタリアで有名なバンドのひとつです。

それからブラジル出身の、
サンバのダンサーたちの踊りもあり、
イタリア最高の飲めや歌えやの大パーティーも
やがて終わりを迎えたのでした。

それはアルビーノレッフェという貧しいチームの、
セリエBに残れたことを祝うパーティーでしたが、
終ってみれば、インテルやACミランの祝賀会より、
ぼくとしては
こちらの方がよほど楽しかったと言いたいです。

そう、イタリアの格言にある通り、
「金銭は幸福を与えない」一例です。
幸せでいるためには、
お金だけではダメな時もありますものね。
そこに必要なのは健康で自然な食べ物と
質の良いワインと、
それから何にもまして沢山の情熱と友情と、
楽しもうとする気持ちなのです。


訳者のひとこと
ああ、これはまさに
「イタリアの愛すべき一面」が
とてもよく出ているお話です。
ミラノのスノッブなカッコ良さもイタリア、
そのすぐ近くにある純朴な幸せもイタリア、
どちらも魅力的ですね。

それにしても、個人邸でこの規模!!
「ていうか、お金持ちじゃないか〜!」と、
「ほぼ日」の編集担当が言っていました。
イタリアの国土は日本とあまり変わりません。
そこに人口は日本の半分ほどですから、
このくらいの広さは‥‥
って、そういう問題でもなさそうですけれど。
翻訳/イラスト=酒井うらら

2007-06-12-TUE

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