フランコさんのイタリア通信。
アズーリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

17歳の殺人者。




日本でも、すでに報道されていると思いますが、
2月2日、カターニャ対パレルモの試合中に暴動が起き、
警官のフィリッポ・ラチティが殺害されました。
この事件で殺人者となってしまったのは17歳の青年、
ひとりの未成年者でした。
この事件はイタリアサッカー界を動転させました。

直後の丸1日は、
セリエAからアマチュアに至るまでの、
サッカーの全試合が取り止めになりました。
その後に、政府による取り調べや、
果てしない論争の1週間がつづき、
ローマ、ジェノヴァ、シエナ、カリアリ、
トリノ、パレルモの6競技場だけが、
観客を入れて良いと決定されました。

すべての競技場の中でも特にクラスの高い
ミラノのサン・シーロ競技場では、
ゲームが無観客で行われ、その他、
同じ時間帯に開かれた全試合も同様です。
20年前、テレビが今日ほどの高額金を
サッカー中継のために支払っていなかった頃のような、
つまりサッカー中継の視聴率が
今日ほど高くなかった頃のような、
閑散とした様子でした。

背景には、ギャングとの関係も‥‥。


ひとりの警察官が亡くなったこの事件の
背景に潜む闇は深刻です。
暴力が若者の最悪の本能を
あやつり始めたのでしょうか。
いまや、チャンピオンを見に行って
楽しむというよりは、
あまりに多くの人びとが
自分たちの乱暴な面を吐き出すために
競技場へ行くのです。

亡くなった警察官のフィリッポ・ラチティのためは、
英雄を送るような国葬がいとなまれました。
そして、これも英雄をあつかうように、
連日の新聞第1面やテレビの重要な番組で、
この事件は取り上げられました。

政府は、サッカーの試合中にふるわれる暴力に対して、
即座に厳しい法律を発布しました。
試合中に発火物を投げる者は3年の懲役、
テレビカメラに対する規定やティフォーゾの選別、
事故の際の避難通路などが整っていない競技場は
観客を入れてはならないと、
その新しい法律に定められています。

カターニャでの警察官殺害事件の調査で、
組織化されたギャングとの関係が明らかになりました。
事実、カターニャの競技場の門番が、
自宅に興奮剤のペーパーと、
いずれ警察官を殺害することになる人物に手渡すための
棒やナイフの束を所持していたとして、
逮捕拘留されています。

ウルトラスと呼ばれる
特に熱狂的なティフォーゾたちは
無法者に成り下がってしまいました。
規制によって、もう彼らが
自分のチームのプレイを見に街へ出ることは
できなくなるでしょう。
そして、過激なティフォーゾたちを擁護するチームは、
リーグ戦の最中でも
罰金やペナルティーが課せられるでしょう。

スポーツの名に隠れた反体制の動き?!


イタリアがこの事件を通して発見したことは、
優れた若者が、
サッカーのティフォーゾという仮面の下に、
政治的動機を隠しつつ、
いつでも警察や軍隊警察(カラビニエリ)を
襲う用意があるということでした。
スポーツの名に隠れた反体制の動きです。
これは国家にとっての脅威でもあります。

政府は緊急の限りをつくして、
最大重要案件として新しい法律を発表しました。
その結果、UEFAチャンピオンズ・リーグの
ACミラン対インテル戦は、
ミラノダービーであるにもかかわらず、
ミラノのサン・シーロ競技場で開くことができない
おそれが出て来ました。
サン・シーロが「危険な競技場」と
評価されているからです。

サン・シーロでは先の日曜日に、
ACミランとリヴォルノの試合が無観客で行われましたが、
もし競技場の状態が
新しい法律に沿って整えられなければ、
このミラノをホームとするACミランとインテルは、
ヨーロッパの選手権の数々を
無観客で行うことになるでしょう。

これはイタリアサッカーの断末魔の始まりかもしれません。
やがてイタリアサッカーを本当の死に至らしめる‥‥


訳者のひとこと
日本のイタリアサッカー・ファンにとっても
衝撃的なニュースでしたね。
日本の事件でも最近見られる傾向ですが、
優秀と言われる青年が見せる心の闇は、
さらに無気味です。
ミラノはイタリアの中でも
高い教育が受けられる街です。
サン・シーロ競技場の「危険度」にも、
その辺の事情も、もしかすると
反映されているかも知れません。
翻訳/イラスト=酒井うらら

2007-02-13-TUE

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