フランコさんのイタリア通信。
アズーリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

いま僕が気に入っている
イタリアのテレビ番組の話!



今週はサッカーを離れて、
この20年間で最も高い視聴率を獲得したであろう
あるショー番組の話をしましょう。
その番組はイタリア人の半数をテレビの前に集め、
大変に楽しませてくれているだけでなく、
果てしない論争まで生んでいるのです。
第1回めが放映された後で、
「自分がからかわれている」と感じた
ご存じベルルスコーニ首相が、
「あれは俗悪で見苦しい」と批判したことも、
かえって出演者や視聴者の興味をかきたてたようです。
それはRai(イタリア国営放送)の
第1チャンネルの番組で、
「Rock-politik」といいます。

政治風刺がショーになり、
それが感動を生む!


10月27日の夜、第2回の放映があったのですが、
その内容ときたらセンセーショナルで、
イタリアではかつて見たことがないものでした。
その画面に登場したのは、
過去と現在の「伝説」とも言える3人でした。

まずひとりめは、司会進行をつとめる
ロック歌手のアドリアーノ・チェレンターノです。
彼は1959年に、
フェデリコ・フェリーニの伝説の名画「甘い生活」で
自分自身の役、つまり若いロック歌手を演じました。

チェレンターノは、もう45年以上も
幅広い世代のシンボル的歌手であり、
67才になった今も、CDをリリースすれば
いつも売り上げ上位に入る人気を誇ります。

そして、この魔法の夜には、
本物の伝説的人物であるふたりの人物が
ゲストとして招かれていました。
マルチな才能で人気抜群のロベルト・ベニーニと、
スポーツ界からヴァレンティーノ・ロッシです。

ベニーニは、主演・脚本・監督した
「La vita e` bella(ライフ イズ ビューティフル)」で
オスカー賞を勝ちとっています。
彼とチェレンターノが一緒に命を吹き込んだ
魅力的なショーは、約1時間つづきました。

ふたりは歌い、踊り、演じ、
イタリア政府について風刺しまくりました。
政治的な側面が強いにもかかわらず、
イタリアの視聴者たちを波状攻撃した感動は、
とんでもなく素晴らしいものでした。

ロベルト・ベニーニは出てくるなりジャケットを脱ぎ、
シャツとズボンを脱ぎ‥‥、

そこにいた女優のドレスを借りて女装しました。

左がチェレンターノ、右がベニーニです。

そして繰り広げられたベルルスコーニに対する
風刺の数々‥‥!
これが政治家たちの気に入るはずがありません。
中には次回を廃止するように要求した政治家さえいました。
でも、そのショーの楽しかったこと!!

女装したベニーニはチェレンターノと共に踊り、
とても有名な60年代の歌のひとつ
「Siamo la coppia piu` bella del mondo」
(私たちは世界一すてきなカップル)を歌ったかと思うと、
次には真顔になってイタリア古典文学の代表作
ダンテの『神曲』から数節を語り、
それから全てのイタリア人たちに
ソクラテスを読むように薦めました。
そうすれば現在彼らが生きている政治的な瞬間が
もっと良く分かるというのです。

どっちがロック、どっちがレント?


チェレンターノが60代のアイドルであり、
ベニーニが映画好きのアイドルなら、
ホンダにせよヤマハにせよ彼が乗れば勝つと言われる
バイク・レースの世界チャンピオン、
ヴァレンティーノ・ロッシは
若者たちの情熱そのもののような存在です。

左がヴァレンティーノ・ロッシです。

ヴァレンティーノ・ロッシとチェレンターノは、
ロックとレント(lento)の区別に挑戦しました。
ここではロックは新しく生き生きとしていることを、
レントは古く時代遅れな感じを意味しています。

たとえば、
政治家たちはレントでバイクはロック、
ローマ法王はハード・ロック(!!)
ドラッグはレントでゲイはロック、
ミラノ市長はレント、
サッカー選手のアドリアーノはロックでも
ユヴェントスのお偉いさんであるモッジはレント、
野原でのセックスはロック、
ベッドでのセックスはもうレント、といった具合です。

こんなふうにして、ショーを政治に、
軽い歌を世界にあるいくつかの戦争の映像にと、
それぞれを過激にミックスしながら
番組はどんどん盛り上がっていきました。

最後にはヴァレンティーノ・ロッシが、
イタリアの政治を背負う現在のエラい政治家たちへの
アドヴァイスを求められ、
彼の答はじつに正直な大喝采をあびました。
彼はこう答えたのです
「政治家がもっと良くなるには
 バイクに乗らなきゃ。
 バイクはロックさ!!」ってね。

ヴァレンティーノ・ロッシが乗って走る
ヤマハの関係者たちは、
大感激したことでしょう。

「宣伝」はいつも「商売の命」ですからね。


訳者のひとこと
レントlentoは音楽用語としても
使われますね。
本来は「遅い、ゆっくりした」という意味です。

アドリアーノ・チェレンターノの歌で
日本でいちばん有名だったのは、
60年代に日本語でもカバーされた
「24000回のキッス」でしょう。

ロベルト・ベニーニは、80年代に
ジム・ジャームッシュ監督の映画
「ダウン・バイ・ロー」で、
ジョン・ルーリーやトム・ウェイツと並んで
重要な役で出演しました。
数年前には実写版「ピノッキオ」を、
主演・脚本・監督で作りました。

最初はスタンダップ・コメディアンとして
人気を獲得し、その後、映画界にも進出しました。
奥さんは、やはり「ダウン・バイ・ロー」に出演し、
彼が製作する映画には欠かせない女優の、
ニコレッタ・ブラスキです。

翻訳/イラスト=酒井うらら

2005-11-01-TUE

BACK
戻る