フランコさんのイタリア通信。
アズーリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

カッサーノとローマ、
ひとつの愛が終わる時。



ひとつの愛が終る時、
いちばん大きく心を占める思いは何でしょうか?
できなかった事について後悔する気持ち?
してしまった事にたいする後ろめたさ?
それとも悲しみだけが残るのでしょうか‥‥
それをはっきりと見極めるのは、
ちょっと難しいですね。

23才になってまもないアントニオ・カッサーノと、
彼の所属するチーム、ローマのティフォーゾたちとの愛が、
終ってしまったようです。
カッサーノの胸の内は、どうなのでしょうか?

だれよりも野心家なカッサーノ、
彼がローマを出ていきたい理由とは?


カッサーノはローマから去りたがっています。
彼はローマとの契約を更新しようとしませんでした。
たぶん彼はACミランかユベントスで
プレイしたいと思っているでしょう。
この2チームはUEFAチャンピオンズ・リーグに
参加しますからね。
だれよりも野心家な彼は国際的な舞台を望んでいます。
来年6月のドイツでW杯の主役になることも
願っているでしょう。
そのためにはACミランかユーべに行けば、
彼にとって有利です。

ローマのティフォーゾたちは、
もう彼を愛していません。
チームの仲間たちも、もう彼を重視していません。
彼の我が儘や気紛れに、もううんざりなのです。

そしてローマの新しい監督であるスパレッティは、
単純に彼を他のメンバーたちと同等に扱うだけです。
他の監督たちはカッサーノに関して
全てを大目にみてやるようなところがありましたが、
スパレッティは彼を特別扱いしません。

そしてカッサーノはテレビや新聞上で
「ぼくはローマから出て行きたい」と、
くり返し言いつづけました。
それを受けてACミランとユベントスのそれぞれの監督が、
彼を自分のチームで生かす用意は充分あると表明しました。

ACミランのアンチェロッティ監督はこう言っています。
「ACミランは大きなチームであるだけでなく、
 ひとつの大きなファミリーなんだ。
 カッサーノは家族の一員として大歓迎さ。
 彼ほど優秀な選手はたくさん居るものじゃないしね」

いっぽう現在ユーべを監督するカペッロは、
かつてカッサーノを監督したこともあり、
「アントニオは素晴らしい青年だ。
 注意を払っておく必要のある息子に向けた
 父親の愛のような愛情を、
 私は彼にたいして持っている」と言って、
カッサーノがユーベに来ることを望んでいます。

カッサーノ自身も出ていきたがっているローマ、
じつはそのローマのほうも、彼を売りたがっています。
しかし問題はその価格です。
少なくも2000万ユーロ‥‥とても高額です。

イタリアのサッカー・マーケットは
8月31日に終ろうとしてますが、
この価格をひっさげたカッサーノをめぐる商談は、
メルカート最後の日々を
大いに活気づけることになりそうです。

ではカッサーノを欲しがる側の論理は?


カッサーノはアタッカーですが、
ユーべはすでにヴィエイラを購入しており、
理屈の上ではもうアタッカーを必要としていません。
ACミランにしてみても、
すでにジラルディーノとヴィエリを購入済みです。
こちらも、つまりは同じ状況、
アタッカーは間に合っているはずです──が、
ここに、この2チームに戦略を変えさせるかもしれないほど
大きな意味をもつ「しかし」が、存在するのです。

実際、もうアタッカーは要らないはずの
両チームのオーナーたちも、
それぞれカッサーノ獲得への意欲を見せています。
まずユーべのオーナーであるラーポ・エルカンは、
まさに数日前にテレビでこう明言しました。
「ユーべが国際的な次元を持つためには、
 カッサーノは理想的な選手だろう」と。
ラーボ・エルカンは、
イタリアの重要な一族のひとつである
アニェッリ一族の現在の後継者です。
そしてアニェッリ一族は
FIAT、アルファ・ロメオ、フェラーリのオーナーであリ、
つねにユーべのオーナーでありつづけています。

さて、もう一方のACミランですが、オーナーは、
みなさんご存じのシルヴィオ・ベルルスコーニです。
彼もカッサーノについては同様のアピールをしています。
ベルルスコーニは彼のACミランが、
もうすぐ始まろうとしている来シーズンに
優位に立つことを望んでいます。
そこには「政治家ベルルスコーニ」としての思惑もあります。
というのも、イタリアでは来年4月に選挙があり、
自分のチームが優秀であれば、
その指導者としての評価も高まり、
首相に再選される確率も高まると、彼は考えていますから。

この2チームの名乗りを受けたアントニオ・カッサーノは、
ある日はユーべのカペッロ監督にたいする愛情を
「彼はぼくにとって父親のようなものだ」と
インタビューで公表し、
次の日にはACミランに
「だれもがACミランの赤黒シャツで
 プレイしたがっている」と
言い寄ってみたりしています。

ローマのティフォーゾは、
もうカッサーノを愛していません。
もう愛されていない彼は、
自分を口説いて来る次の相手に
愛される用意が、できているようです。
まるで浮気な恋人みたいに。

そして8月31日、
メルカートの閉じる日まで、
彼はふたりの志願者のどちらも
不愉快にさせないように気を配るのでしょう。

お相手はACミランになるのでしょうか、
それともユベントスでしょうか?
最後の最後になってからアントニオ・カッサーノは、
幸せそうに、そして感極まったふうに、
世界中に向かって
「ぼくは、ぼくの愛の夢を実現させた」と
言うのでしょう。

ぼくは彼に聞いてみたいです。
「君の愛の夢を実現させるのは、
 君への愛の強いチームですか?
 それとも、より多くの金額を
 君に贈るチームですか?」ってね。

でも答えは要りません。
あまりに明らかですからね。


訳者のひとこと
イタリア語の中に、よく使われて、
しかも日本語にしにくい言葉が、
けっこうたくさんあります。
〜ssimoも、そのひとつです。
音楽好きのかたはご存じでしょうが、
pianissimoピアニッシモとか
fortissimoフォルティッシモ
などもその例です。
形容詞比較級の最高形ですから
「最も〜」とか「これ以上ないくらいに」
と訳すのが正しいのでしょうが、
それでも「もっと」という気持ちが
pianississimoピアニッシッシモのように、
ほとんど無理矢理に現れたりもします。
男女を問わず親しい場合はメールの最後に
Un bacione. ウン バチョーネ
大きなキッス、と書いたりしますが、
Bacionissimi! バチョニッシミ
名詞を活用させたあげくに複数かい?!と、
嬉しいけど日本語にしにくいこと
この上ない言葉を受けとったこともあります。
大きなキッスを思いきりいっぱい、という
ニュアンスですね。
今回の記事にも〜ssimoが何個もありました。
例えば、カッサーノが
ambiziosissimo アンビツィオジッシモ
最も野心的な、とあった所は
「だれよりも野心家な」と訳しました。
翻訳/イラスト=酒井うらら

2005-08-16-TUE

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