フランコさんのイタリア通信。
アズーリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

アドリアーノの膝の値段
──イタリアの著名人の保険事情



クイズです。
イタリアのスポーツ、芸能界の人気者の中で、
保険会社が最も高値をつけた人物は誰でしょう?

この調査を行ったのは、
イタリアの全ての会社、保険会社、
そしてブローカーたちです。
つまり、保険会社にとって、イタリアで
最もリスクの高い人物は誰か、ということです。

はたしてその人物とは、
インテルのブラジル人アタッカーである
アドリアーノでした。
彼が膝に負傷した場合に
保険会社がインテルに支払う額は、
1500万ユーロにのぼるとのことです。

‥‥大変な高額ですね。
このアタッカー、アドリアーノは
イタリアではロナウドの後継者とみなされています。
それは彼がロナウドと同じブラジル人だからとか、
ロナウドもかつて所属していたインテルで
彼もプレイしているからというような、
お気楽な理由によるものではありません、
ロナウドがスペインの
レアル・マドリードへ行ってしまった後、
多くの人びとが、特にインテルでは、
彼が誰よりも優秀な選手だと認めているからです。
アドリアーノは、あらゆる事故から守るべき
財産そのものだと言っても良く、
その結果が、1500万ユーロという数字に
あらわれているのでしょうね。

アドリアーノの膝に
1500万ユーロの保険金をかけたのは、
もちろんインテルです。
この大切な選手に何かあったら大変だと、
大きな損害に備えをしているのです。
実際に、数カ月前のことですが、
アドリアーノがフィオレンティーナとの試合で負傷し、
彼は数ゲームを欠場しました。
もしアドリアーノが、また負傷し、
たとえば2年間プレイできなくなったりすれば、
インテルは試合力の面で
非常に大きな損害を受けますからね。

さて、この調査の結果報告は、
イタリア中を大いにびっくりさせました。
(日本では、高額納税者の名前が発表されて
 話題になったと聞きましたが、
 それに似ているかもしれませんね。)
アドリアーノの膝についてだけではなく、
他の有名人たちが保険をかけた身体の様々なパーツと、
値段についても発表されたからです。

たとえばF1の世界チャンピオンである
ミハエル・シューマッハが
腕に事故を負った場合のために、
フェラーリがかけた保険の額は
1200万ユーロです。
それも、道を歩いている時とか、
雪の上でスキーの最中に怪我をしたなどの場合も
含まれています。

そしてフェラーリは、
この大切なドライバーのことだけでなく、
自社の会長であるルーカ・ディ・モンテゼモロのことも、
ちゃんと考えていました。
ルーカ・ディ・モンテゼモロは
フェラーリだけでなくフィアットの会長でもあり、
つまり、イタリア財界の重要人物です。
でも彼は‥‥、その「髪の毛」のことでも有名なのです。
F1の観戦中も、イタリアの大企業や政府の会合に
出席している間も、彼はいつでも「髪の毛」を、
手でなでつけているのです。
癖なのでしょうね。
そしてフェラーリは会長の「髪の毛」に保険をかけました。
もし彼が禿げてしまった場合、
400万ユーロという信じられない額の賠償が
支払われることになっています。
金よりも高価で、宝石のように価値ある髪の毛?!

もうひとつの高価な宝石とみなされているのは、
ミラノ・スカラ座の音楽監督を何年も務めていたいた
音楽の巨匠、リッカルド・ムーティの「耳」です。

ムーティは世界中の有名なオーケストラを
指揮することができますが、
それは彼が他に類をみないほどの
全く桁外れな聴力の感性を持っているからです。
彼の耳は、
ストラディバリのヴァイオリンがかなでる
最も哀愁をおびた音を聞き分けます。
もしムーティの耳が聴こえなくなれば、
仕事を変えなくてはならないでしょう。
そこで、彼の場合も保険の額がはねあがります。
ムーティの耳には、と言うよりは「聴覚」にですが、
1000万ユーロの値がついています。

この他には、
女優のモニカ・ベロッチが、
彼女の大変に美しい胸に800万ユーロの
保険をかけました。
イタリア男たちの誰もが触れたくなるような、
撫でてキスしたいと思うような胸ですから、
まあ、これくらいの額は妥当なのでしょう。

偉大なテノール歌手である
ルチアーノ・パヴァロッティは、
ベル・カントの歌曲を愛する世界中の
何百万もの人びとを魅了し、今も魅了し続ける、
その「声」に700万ユーロの保険をかけました。

オートバイレース界のチャンピオンである
ヴァレンティーノ・ロッシは、
もし彼が道で転んだり、エスカレーターで滑ったり、
なんらかの事故で彼の仕事に必要不可欠な道具、
すなわち「手首」を損傷した場合には、
約1100万ユーロが支払われることになっています。
彼のヤマハを運転するためには、
完璧に整えられた全く健康な「手首」が必要だからです。

そういうわけでイタリアでは、
保険会社の経営者たちが、
毎朝、祈っているのです。
アドリアーノが膝を壊しませんように、
パヴァロッティが声を失いませんように、
マエストロ・ムーティが聴力をなくしませんように、
シューマッハが道でコケたりしませんように、
モンテゼモロ会長の髪の毛が突然すべて
抜け落ちたりしませんように、ってね。

だって、
保険会社のことは
だれが保証してくれるんでしょう???

訳者のひとこと
「保険」のルーツは、
実はイタリアだと言われています。
14世紀ごろ、船の積み荷を担保に
資金を貸し出し、事故などの保証もする
金融業者が現れたのですね。
無事に船が帰って来た場合に
海運業者が支払う金利は
高かったそうですが、
今より危険の多い時代ですから、
金融業者の背負うリスクも
大きかったと思います。
翻訳/イラスト=酒井うらら

2005-05-24-TUE

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