フランコさんのイタリア通信。
アズーリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

ステファノ・ベッタリーニの離婚スキャンダル。


僕の国、イタリアでは信仰の理由から、
多くのひとの離婚は簡単ではありません。
それでも人間どうしのことですから、
そういう問題は当然あります。
そして、ある有名なカップルが
今、離婚の危機に瀕しています。

出場停止処分中のサッカー選手と
テレビスターの妻との泥じあい。

このカップルの「彼」のほうは、
アズーリの青いシャツでプレイしたことのある、
じゅうぶんに優秀なサッカー選手です。
ところが彼は今、出場停止処分を受けています。
セリエAの昨シーズン中に、
サンプドリアの何試合かについて
賭博をしたという酷い行いが原因です。
彼は、ギリシャ彫刻のように美しい身体の青年です。
じっさい、彼を半年の出場停止処分にするために行われた
電話の会話の中では、
(これは盗聴されていたことで、イタリアのマスコミに
 知られるところとなったのですが)
ずばりと彼の名前を出さず、
「イル・ベッロ(美しいもの)」という暗号で
彼を特定していたそうです。



「彼女」はといえば、
主役の番組が国営放送のRAIでどんどん増えているという、
イタリアでは文句無しのテレビスターです。
そして彼女は現代のイタリアにおいて
もっとも魅惑的な女性とみなされています。
彼女は数年前のミス・ユニバースにも参加しています。

彼の名前はステファノ・ベッタリーニ。
彼女はシモーナ・ヴェントゥーラです。
そして彼らは先週まで、スポーツ界とショーの世界の中で、
最強のおしどり夫婦として人もうらやむカップルでした。

5年間の結婚生活、子どもがふたり。
おとぎ話のような永遠の幸せの中に生きているようでした。



シモーナはステファノより何歳か年下で、
たいへんなやきもちやきです。
それというのも、「イル・ベッロ」である彼には
言い寄る女性たちが山ほどおり、
彼のほうも、そういうことに鈍感だったことがないのです。
現代のカサノヴァとして、
あまりに多くのチャンスに
いつでも「ノー」と言うことは難しいのでしょう。

シンデレラや白馬の王子の
愛と裏切りの話をみつけてはそれを食いものにしている
お馴染みのスキャンダル新聞各紙が、
この夏、彼が新しいガールフレンドといっしょに
海にいる写真を載せました。
その女は女優で──といっても、
仕事を探しているくらいの、たいしたことのない、
でも彼の家のすぐ近所に住んでいる女優でした。

おしどり夫婦の仮面のうらのステファノ・ベッタリーニは、
あらゆる海岸、あらゆる流行りのディスコには必ず現れる、
イタリアの夏のプレイボーイだったのです。

現在、シモーナは仕事にはげみ、
ショーに出演しては、おおくのファンの心をつかむのに
一所懸命です。



ところがステファノは出場停止でできた時間まで利用して、
人生を貪欲に楽しもうとしています。
ピッチに戻る努力よりも楽しむ事のほうを考える
ステファノを前に、シモーナはやきもきし、
ついに彼女は
アンナマリーア・ベルナルディーニ・デ・パーチェという
離婚の専門家の弁護士をたずね、
彼に正式な離婚を要求する、
実にきびしい書状を作りました。

妻の訴状を前に、マスコミを巻き込んで
猛反撃に出たステファノ・ベッタリーニ。

しかし彼、ステファノは要求に答えません。
それどころか要求を突き返して宣戦布告をしました。
彼は記者たちを集めて記者会見を行ない、
反撃にでたのです。

彼は自分を、シモーナとのふたりの子どものために、
今まで数々の困難を乗り越えてきた父親として描き、
「テレビの女王」からのこの要求を前に、
“もうたくさんだ”と吐き捨てました。

「彼女が、ぼくを蓋として利用しないことを願います。
 なぜなら蓋をとったら最後、
 どうして良いか分からないほどの爆弾が出てきて
 火傷をしてしまいますからね」

ステファノは、記者を前に、
ほとんど演説のようにつづけました。

「この状況を耐えているのは、ぼくのほうなのです。
 別れを要求しているのは彼女であって
 ぼくではありません。
 そして、ぼくは陰謀をかぎつけました。
 これは僕を悪いオオカミにして、
 彼女を赤頭巾ちゃんとする陰謀です。
 彼女は多くの新聞記者を知っていますから、
 彼らを利用して、ぼくを悪い裏切り者に
 したてあげようとしているんです」



ステファノは離婚を受け入れようとせず、
シモーナ・ヴェントゥーリは
彼の顔も見たくないと言います。
ふたりが別居しながら争っているので、
今は彼女と暮らしている子どもたちふたりは、
自分達が見捨てられたように感じて苦しんでいるようです。
親たちの離婚にいちばん苦しむのは、子どもたちなのです。

ベッタリーニは、
「ぼくは彼女の離婚要求を受け入れません。
 そしてもし法廷に出る事になれば、
 ぼくはすべての真実を語る事になるでしょう。
 子どもたちの母親は嘘つきであるということをね。
 そして、彼女を天使のように思っているイタリア人たちが
 この真実を知るのも良いことだと、ぼくは思います」
と言いました。

いっぽうイタリアのテレビスターである彼女は、
離婚を要求する書状を出したあと、
インタビューに応じていません。

シモーナ・ヴェントゥーリは美しく魅惑的なうえに知的で、
イタリアでもっとも愛されている女性だと
多くのイタリア人たちが言います。

でも、ショー・ビジネスのメカニズムの何かが、
うまく作動しなくなり始めているようですね。

立て直しはステファノ・ベッタリーニだけでなく、
「なぜパパとママは、もう一緒にいないのだろう?」
という疑問を持ちはじめた子どもたちにも必要です。

子どもたちは、今はまだその疑問への答を
みつけることは、できないでしょう。
彼らが大人になって、ハッピー・エンドの童話は
少ないのだと知るようになったら、
本当の答をみつけられるでしょうか‥‥。


訳者のひとこと
イタリアの、離婚についての法律は
かつては本当にむずかしく、時間もかかり、
事実上別れたそれぞれに、
それぞれの新しい家庭や子どもまでもができている、
というくらい、長くかかることも
稀ではありませんでした。
いまや国際結婚もふえたでしょうし、
戸籍上だれがどうなっているのか
分からないのは問題だというので、
ずいぶんとゆるくなって来てはいるようですが、
それでも簡単に離婚、とはいかないようです。
翻訳/イラスト=酒井うらら

2004-11-01-MON

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