フランコさんのイタリア通信。
アズーリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

バッジョが考え直したら?


もしバッジョが「そのこと」を考え直したら、
どうなるでしょう?
サッカーを引退した彼が
何を考え直したら、何がどうなるか、
今日はそんな「なぞなぞ」めいた話です。
しかも、実現してしまうかもしれない話なのです、これが。

引退試合を終えたバッジョが
もらした「一言」が
センセーションを巻き起こした!

去る5月16日、
ロベルト・バッジョは自身が予告した通り、
彼の最後の公式試合になる
ACミラン対ブレシャの試合を終えました。
その6分後にピッチを去る彼を、
サン・シーロ競技場にいた観衆の全員が
スタンディング・オベーションで見送りました。
バッジョは、だれにも真似できないほどの
サッカー選手としての人生を、
こうして賞賛の渦のなかで終えたのでした。

その時、サッカーに感動と夢を求めるすべての人々は、
イタリアサッカー界の歴史に残るチャンピオンである
彼との別れに、心を動かされていました。

いつもなら自分の応援するチームの色のもと、
まっぷたつに別れるティフォーゾたちの情熱ですが、
この時ばかりはチームの色をこえて
全員が惜しみ無く、彼に拍手をおくりました。
フィオレンティーナ、ユーベ、ACミラン、ブレシャの
シャツを着てきたロベルト・バッジョですが、
それ以上に、彼はいつもアズーリ色をまとっていた
国民的選手だったからです。
そして、イタリア代表チームの色であるアズーリ色は
空の青さであり、夢の色の象徴なのです。

こうしてロベルト・バッジョは
イタリアサッカー界の歴史にその名を刻んで
ピッチを去って行ったのでした。
めでたし、めでたし。

──とは終らないかもしれない事態がおこりつつあります。
ロベルト・バッジョが引退を考えなおすかもしれない、
という事態です。

ことは今から数日前に始まりました。
彼が、いきなりこう公言したのです。

「もう1年、プレイし続けても良いかもしれない。
 プレイしたい思いのほうが、膝の痛みより強いんだ」

フィオレンティーナの会長、
真っ先に名乗りを上げる。

彼のこの一言で、
イタリア中のティフォーゾたちの夢が、
また燃え上がりました。

バッジョの言葉を聞きつけて
真っ先に行動に出たのは
フィオレンティーナのデッラ・ヴァッレ会長でした。
彼はすぐさまテレビ局に駆け付け、
日本のNHKにあたるRAIの
「ポルタ・ア・ポルタ」という人気番組に出演して
こう表明しました。
「ロベルト・バッジョのためなら、
 フィオレンティーナの扉は
 いつでも開いている」と。

バッジョがセリエAで最初に着たシャツは、
このフィオレンティーナのものでした。
彼は1985年に、
そのころセリエC2のチームだったヴィチェンツァから、
セリエAのフィオレンティーナに移籍したのです。

他のチームも次々と、
バッジョなら喜んで迎えたいと言い出しました。
中には、バッジョをたぶん最も愛した監督である
カルロ・マッツォーネが率いるボローニャも。
みんな、とても幸せそうに、
同じような声明を公表しました。

でも、もしバッジョがプレイに戻ってくるとしたら、
やはりフィオレンティーナに行くでしょう、
とぼくは思うのです。

19年後に懐かしい古巣のフィレンツェに戻る、
それは愛情の表現にも思えますから。

しかし、それは単に愛の動作には終りません。
おとなたちは「計算」ということを忘れませんから、
そこには緻密な経済的裏付けが潜んでもいるのです。

ナカタとバッジョが同じユニフォームを?
そんなことが起こったら‥‥?!

フィオレンティーナ会長のデッラ・ヴァッレは、
シューズ・メーカーの社長でもあります。
日本にたいする彼の興味は最近増しており、
中田との契約も、
もちろん彼の選手としての価値を評価した結果とはいえ、
また別の部分では商業的な計算もなかったとは言えません。

中田の場合と同じ観点から見ると、
フィオレンティーナにとってロベルト・バッジョは、
MADE IN ITALYが大ブームの日本市場に向けて、
大きな宣伝効果を持っているというわけです。
バッジョは日本でも大変に人気のある選手ですから。



バッジョと中田が組めば、
技術の面から見ても
世界的レベルの厚みをもつコンビになるでしょうし、
宣伝面から見ても大きな価値があるのはまちがいありません。

ブレシャとの契約が6月30日に切れた
ロベルト・バッジョは、
どんなオファーも受ける自由もあります。

引退を考え直すことができるのです。

さあ、彼は決心するでしょうか?
彼が19年前に上陸したフィオレンティーナは、
特別なチームにたいする愛を頼りに
彼を説得できるでしょうか?
それとも、
日本で靴が大量に売れることを期待しつつ、
会長が彼に示した400万ユーロのほうが
バッジョを決心させるのでしょうか?
いずれにせよ、
ティフォーゾたちは、本当にまた
ロベルト・バッジョの勇姿を競技場で見られるのかどうか、
やきもきして事の次第を見守っていることでしょう。


訳者のひとこと
ほ、ほんまかいな?!?!
実現したら、凄いことだけれど。

再三申しあげるようですが、
「あの時はあの時、今は今」
これがイタリア人を理解する
キーワードのひとつです。
事を目の当たりにするまでは、
一喜一憂しない、これが
イタリア人とうまく付き合うコツです。
バッジョのファンのみなさん、
とりあえず落ち着きましょう。

── って、
私自身に言っているようなものですが‥‥。
翻訳/イラスト=酒井うらら

2004-08-09-MON

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