フランコさんのイタリア通信。
アズーリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

何をやってるんだ、トラパットーニ?!

先日発表されたサッカーに関するあるニュースで、
イタリアじゅうが拍子抜けしております。
もちろん僕も、がっかりです。

それは、
今年のUEFAヨーロッパ選手権ポルトガル大会に
関する大事な発表でした。

ロベルト・バッジョと
アルベルト・ジラルディーノのふたりが、
アズーリのメンバーに入っていなかったのです。
バッジョは、なんども言いますが
最近30年間で最も優れた選手です。
アルベルト・ジラルディーノは、
イタリア国内リーグ戦カンピオナートの、
先ごろ終了した今シーズン中に23ゴールを記録した
21才のアタッカーです。

アズーリの現監督は
ご存じジョヴァンニ・トラパットーニです。
彼は、イタリア国民や評論家、それに
ジャーナリストたちからもこよなく愛され、
高い評価を受け、敬われ、賞賛され、
最近のW杯では韓国にまさかの敗北でしたが、
その失敗さえ許されるほどの
信頼をよせられている人物です。
でもねえ、
今回のこれはちょっとやり過ぎでしょう。

彼のもっとも忠実な信奉者や、
彼を常に誉め言葉でつつんでいた
ジャーナリストたちさえも、
今回は「何をやってるんだ?!」という感じでいます。

ジラルディーノが外れたって?


ポルトガル行きに召集された選手のリストを
トラパットーニが公表した直後の5月19日朝、
イタリアの日刊スポーツ新聞のなかで一番売れていて
影響力も強いガゼッタ・デッロ・スポルト紙は
"Trap, rob de matt"という
大きな見出しを第1面に載せました。



これはミラノの方言で
「トラップ君、きみはお馬鹿(baka)にしか
 出来ないような事をやったね」
という意味です。

彼はイタリアで一番愛された
(あえて過去形です)
監督だったんですがねえ、
今は一番憎まれているかもしれません。

若いアルベルト・ジラルディーノが、
ポルトガル行きのアズーリのメンバーに
入っていなかったのには、
みんなが仰天しました。

なぜって、最初に書いたように、
パルマのアタッカーの彼はシーズン中に23ゴール、
それも重要なゴールを決め、
カンピオナートでは偉大な主役だったんですよ。
パオロ・ロッシを彷佛させる、
とまで言われています。
パオロ・ロッシは1978年に、
弱冠21才でW杯に連れて行かれ、
あっという間に主役クラスにかけ登った選手です。
当時ロッシが属していたヴィチェンツァというチームは、
重要とは言えませんでしたから、
同じくあまりぱっとしないパルマで
23ゴールを決めたジラルディーノの
UEFAヨーロッパ選手権での健闘も、
みんなが自然に期待していたのです。



若かったロッシの場合は、
1978年にアルゼンチンで
「パブリート」という愛称をもらうほどに有名になり、
その4年後のスペイン大会では
イタリアを3回目の世界チャンピオンに
導いたのでした。

トラパットーニは、
ジラルディーノはパオロ・ロッシとはちがうと
説明していますが、
誰もこの説明では満足していません。

トラパットーニは、
ヨーロッパ選手権ポルトガル大会での
センター・フォワードの役を
ヴィエリに当てるでしょう。
予備としてコッラーディというところですか。

カンピオナートでは、
ヴィエリが13ゴール、
コッラーディが10ゴール、
足すと23ゴールですが、
これはちょうどジラルディーノが
ひとりで決めたゴール数です。
トラパットーニは
計算ができないんでしょうか???

バッジョまで外れたって?


でも、
もっとショックだったのは、
ロベルト・バッジョがはずされていたことです。
彼はその数日前にミラノのサン・シーロ競技場で
対ACミラン戦でプレイしました。
彼の、セリエAでの最後の試合でした。

ロベルト・バッジョは、
もう出来ない、高いレベルの選手であることを
膝の痛みが許さないと言っていましたが、
ヨーロッパ選手権に参加する為なら
最後の力をふりしぼる用意があるとも、
付け足したのです。

バッジョは、
アズーリとしてなら
ずっとベンチにいても満足だったことでしょう。
たった30分か15分だけプレイしたとしても、
チームの役に立てたでしょう。
アズーリの一員として
呼ばれてさえいれば‥‥

ああ、でも、
イタリア・サッカーの愛を
ありったけ集めても、
もういちどバッジョにアズーリのシャツを
着てもらうには足りなかったのです。

愛が足りなかった?
いえいえ、本当のところは、
トラパットーニに勇気が足りなかったのです。
ロベルト・バッジョという存在に対して、
彼の人気と自分をひきくらべて、
自分が彼の陰に置かれることを恐れる選手たち
(たとえばトッティ)に逆らう勇気が、
トラパットーニにはなかったのです。
良いゲームをするには、
多くの選手たちのチームワークが重要ですから。

トラパットーニはジラルディーノの、
その若さにひるみました。
バッジョについては、
彼へのイタリアすべてからの愛を
必要以上にねたむ数人の選手の気持ちに、
ひるみました。
トラップ君、きみは年をとって
気弱になってしまったのか?!


訳者のひとこと

rob de matt は
ミラノではしょっちゅう聞かれます。
そうとうあきれている感じです。,
写真の新聞の見出し下は
「ジラルディーノを家にのこし、
 ディ・ヴァイオを呼ぶ」

本文中の(baka)は、
フランコさんの原文に
こう書いてありました。
このごろ日本語を勉強しているらしい!

翻訳/イラスト=酒井うらら

フランコさんへの感想などは、
メールの表題に「フランコさんへ」と書いて、
postman@1101.comに送ろう。

2004-05-24-MON

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