フランコさんのイタリア通信。
アズーリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

がんばれ、マルコ!!
Forza Marco!!
〜ある自転車選手の話〜

「愛すること」は素晴らしいことですが、
時として愛は苦しみもを連れてきます。
愛する人が窮地に立たされた時、
僕たちは心を傷め、
苦しみをともにしたいと思いますしね。

人間があまりにつらい状況に陥った時、
自暴自棄になったり、
人生というものを呪う人もいます。
人生を見失ってしまう、と言ったら良いでしょうか。
1時間や1日で自分を取り戻せる程度の試練ならまだしも、
再起不能になってしまうほどの、
想像を絶する苦しみに出会う人が
世の中にはたくさんいるのです。

往年のチャンピオンが、
もはやかつてのようではない自分に気付く時、
自身の人間性さえ失って
出口の見つからない迷宮に入り込んでしまう、
ということが実際に起こります。

終わりの季節を
受け入れられずに。

スポーツの世界にはピーター・パン伝説が存在します。
ピーター・パン、永遠の若さの象徴ですね。
でも、実際には誰も時の神を止めることはできず、
勝利を謳歌した後の
「終わりの季節」を受け入れられないまま、
危険な混乱状態に陥る人がいるのです。

いまイタリアは、自分自身を失った
ひとりのチャンピオンのために、
同情と悲しみに包まれています。

苦しみと、生きる辛さの悪夢が、
ひとりのチャンピオンを襲ったのです。
それも、スポーツの中でも辛くハードなことが
まるで勲章のような、自転車競技の、
つまり、あらゆる苦しさを乗り越えてきたはずの、
この40年のうちで一番の人気だったチャンピオン、
マルコ・パンターニを・・・

5年前のこと、彼はジーロ・ディタリアという
イタリア一番のレースと、
おなじみトゥール・ド・フランスの両方に優勝し、
この快挙は自転車競技界を夢中にさせただけでなく、
数々の英雄と並んで、あっという間に伝説にさえなりました。

ところがその翌年の血液検査で、
スポーツの順位をひっくり返す物質、
つまり禁止薬物を
マルコ・パンターニが使っていたと分かり、
彼は順位を剥奪されます。
(彼のせいではないと言った人もいます)

しばらくの時を経て、自転車にもどって来た時、
あの「ペダルに羽が生えているかのような」漕ぎっぷりで
山々を飛ぶように超えていくレースを見せたい、
それが彼の願いでした。

そして、この5月終りから6月初めにかけての
ジーロ・ディタリアに、
彼は参加しました。
でも彼の筋肉はかつての弾力性を失っていました。
頭脳も閃きを欠いていました。
勝利への熱い願いだけでは、
彼は、勝つことはできませんでした。

過去の偉大なチャンピオンの中にも、
「負けた」という切迫感を受け止め切れないまま、
時間に置き去りにされた人たちがいます。

マルコの名前を忘れないで。

サッカー選手のなかにも
苦しさのあまりアルコールに逃げた者、
ドラッグに頼ってしまった者、
最悪の場合は、自殺ということも起こっているのです。

生きる事に病むということは、
よりよい明日をイメージできなくなることです。
その病がマルコ・パンターニを押し倒し、
彼をパニックに陥れました。

イタリアで誰よりも愛された、
この自転車のチャンピオンは完璧に落ち込み、
何か気持ちを高揚させてくれるものに頼って、
事を解決しようとしたのでしょう。

先日のこと、彼の友人が彼を病院に入れました。
彼の状態は、そうせざるをえないほどに悪化していました。
彼が、取り返しのつかないことをしてしまう前に
入院させた、とのことでした。
精神的なケアのできる病院です。

マルコ・パンターニは、
イタリアの東北部にあるヴェネト地方の、
アルコール依存症治療病棟に入れられました。

彼が勝利の栄光や名声や富を賭けて自転車を漕ぐ日は、
二度と戻ってはこないでしょう。

でも、生きる喜びは勝利や名声や富だけではありません。
彼がそれらから解放されて、「生きる喜び」を
本当に味わえる日が早く戻ってくることを、
僕は祈っています。

がんばれ、マルコ!!
Forza Marco!!

訳者の一言

このジーロ・ディタリアのこと、
マルコ・パンターニのことは、
UEFAチャンピオンズ・リーグの
華々しいニュースと並んで、
イタリアの放送局で報道していました。
フランコさんは、やっぱりこのことを取り上げましたね。
痛ましい限りですが、彼の回復と第二の人生の幸せを
祈りたいです。
自転車については、製造もウエアのメーカーも
イタリアが世界のトップクラスです。

翻訳/イラスト=酒井うらら


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2003-06-30-MON

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