フランコさんのイタリア通信。
アズーリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

「あの審判」の最近の評判は?

サッカーの世界で
「有名・かつ人気者になる」というのが
なにを意味すると思いますか?
「いっぱいお金を稼げる」──これに尽きます。
 
セリエAの人気選手や監督だったら
報酬も大きくて当たり前、ですって?
いいえ、そうとは限らないんです。
優秀さと稼ぎ高は、ちょっと別の話です。
他の選手より優秀なのに
稼ぎは少ないという人もいるんですから。
 
きょうは「優秀」かどうかの話ではなく、
「有名」とはどういうことか、というお話をしましょう。

イタリアでいちばん有名な
サッカー関係者は誰でしょう?

 
ではまずみなさんに質問。
現在のイタリアサッカー界で、
いちばん「有名」で「人気者」なのは誰でしょうか?
 
アズーリのトラパットーニ監督?
 
残念。違います。
去年のW杯で韓国に負けちゃってから
彼はどうも分が悪い。
トラパットーニ監督は2002年の負けの責任を
背負っていますから、
「有名」ですが「人気者」ではありませんね。
 
(余談ですが、アズーリはなんと2回も
 W杯で朝鮮チームに蹴落とされています。
 1966年に北朝鮮チームに、
 そして2002年には韓国に‥‥。
 こんな国はほかにはありません。
 相手を甘く見過ぎていたのではありません、
 といいたいところですが
 ちょっとは「強敵じゃない」と
 思っていたかもしれません。)
 
トッティはどうでしょう?
 
彼も確かに有名ですが、「いちばん」有名とはいえません。
 
じゃあ、ヴィエリかデル・ピエロは?
 
彼らも一番ではないのです。
 
質問がすこし難しかったかな。
実はイタリアサッカー界で世界一有名なのは、
ピエール・ルイジ・コッリーナです。
え?
誰?
って、あのスキンヘッドの審判ですよ。
 
日本でのW杯で、因縁がらみの
イングランド対アルゼンチン戦を
審判しましたよね。
日本が不運にもトルコに破れた試合も、彼が審判しました。
それから世界中の人たちがテレビの前にすわって見ていた
ブラジル対ドイツの決勝戦では、
審判の彼も注目されましたね。
あれ以来、FIFAは彼を
世界一の審判と決めてしまったようです。

ユベントスがコッリーナを許さない。

W杯で審判のトップを極めた後は、
彼にはもう続けて行くモチベーションが
なくなったんじゃないかと、誰もが思いました。
現役は引退して、審判のスクールで教える側に
まわったりするんじゃないの、と。
ちょうどイタリアの、とある財団が、
フィレンツェの近郊の
コヴェルチアーノという所に
審判たち向けの学校を開こうと
しているところでしたから。
 
しかし、人々の予想とはちがう決断を
彼はしました。
 
「審判を続けるぞ!!」
 
さて、そのモチベーションです。
なにが彼に審判を続けさせるのか?
あの後、日本のエージェンシーからのものも含めて
複数のコマーシャル出演のオファーがきました。
そこで彼は思ったのです。
審判としての知名度をもっとあげれば、
金がもっと稼げる、と。
 
そして審判を続けることにした彼ですが、
イタリアでは彼はデリケートな試合には出してもらえません。
あの最有力チーム、ユベントスが彼を拒否しているのです。
 
ユベントスのでなければ、重要な試合の審判もしています。
ユーヴェと彼になにが起こったか?
 
昨年の10月20日のことでした。
インテル対ユベントスの試合を審判していた彼は、
インテルのちょっと怪しいゴールを有効と判定したのです。
結果は1−1の引き分けとなってしまい、
それ以来、ユベントスはコッリーナ審判にたいして
拒否権を使っているのです。
 
ミラン、インテル、ローマ、ラツィオなど、
すべての大きなチームの試合に立ち会いますが、
ユベントスだけは彼を許しません。
ときどきはセリエBにさえ、送りこまれることもあります。
 
それでもコッリーナは、あの頬骨の突き出た顔と、
感情を隠すかのようにニコリともしない
悲しげな雰囲気で、
(陰があるって素敵と思う人もいるでしょう)
日々これ有名街道まっしぐらにひた走り、
当然のように稼ぎを増やしています。

いまやCMで引っ張りだこ!

さいきん毎日のようにイタリアのどのテレビでも流される、
有名なスポーツウエア会社のスポットCMに、
彼がでています。
 
内容は、
彼が試合を審判している場面。
いきなり彼があの頭で見事なヘディングシュートをして、
派手にゴールをきめる。
彼がカメラ目線でシャツに書かれている
「Collina」の文字を示す。
「・・・があれば、不可能なことはなにもない」と
その会社の商品をほめたたえる声がかぶる。
と、まあそんなんです。
 
コッリーナの人気ぶりが、おわかりいただけたでしょうか。
でも、どんな有名人でもそうなように
彼のことを
「目立ちたがり屋」
「選手のことより自分を上に置いて審判する」
という人もいるのも、ほんとです。
 
彼は選手たちより目立って、
試合の主役は自分だと思っているのかもね。
審判なのに自分がゴールをヘディングで決めるという
テレビCMの設定を、本当にやってみたいのかも。
そういう意味では、CMが彼の
「ぼくが一番」という夢をかなえていると
言えなくもないですけど・・・
 

訳者の一言
イタリアの国営放送局(RAI)は、
聴視者から受信料も取りますが、
CMも流します。
でも各番組ごとに15分おきに、
なんてことはなくて、まとめて流すので
番組はあまり寸断されません。
民放も何チャンネルかありますが、
そのほとんどが先週話題になった
ベルルスコーニ首相の会社だそうです。
翻訳/イラスト=酒井うらら


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フランコさんのホームページはこちらです。(日本語もあるよ!)

2003-04-21-MON

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