FISHING
釣りに興味のないひとに、
何を話せばいいのだろうか?

『ノンストップ・パワー・バスフィッシング』
――春の亀山湖編


予想に反してすっかり真冬に逆戻りしてしまった
前回の悪夢を振り払うべく、
今度は天気のよい日を選んで釣りに行った。
場所は房総半島の山奥にある亀山湖。
千葉で山奥は大げさかもしれないが、
館山道の木更津北インターを降りてしばらく走ると、
昔ながらの日本の田舎といった風景が広がり、
とても懐かしい気持ちになってくる。
湖ではウグイスが谷渡りをさえずり、
木立の中からカワセミが現われる。
名前がわからない野鳥もたくさんいた。
道が空いていれば東京からクルマで
1時間半もあれば到着するというのに、
いい意味で山奥という言葉が似合う場所である。

桟橋から
ボート店前の桟橋から湖を望む。
渓谷をせき止めたダム湖のため、
かなり切り立っている

亀山湖はダム湖である。
ダム湖は人造湖ともいい、川をダムでせき止めて
造られる湖で、バスフィッシングでは
自然の湖と対比して語られることが多い。
自然の湖が文字通り自然発生的にできていて、
その成り立ちが人間の想像力を超越しているのに対して、
ダム湖のストラクチャー(構造)は単純だ。
ふつうは巨大なダムそのものから上流に向って下流、
中流、上流域と明確に区別できるし、
特に日本の湖は規模が小さいため、
手漕ぎやエレクトリックモーターだけの遅いボートでも
魚を釣る手掛かりを見つけやすい。
前回の利根川はスケールが大きいのに、
小さなボートで釣りをしたせいで
あまり満足ゆく釣りができなかった。
大きな釣り場では速いボートに乗るか、
ある程度通わなければ、どうしても
見えてこないものがある。
亀山湖を選んだのはそのウップンを晴らす意味もある。

太ったバス
ブッシュの中から引きずり出した
ファーストバスは
まん丸のグッドコンディション

それからもうひとつ。少し話はそれるが、
亀山ダムにはちょっとした思い出がある。
最初に行ったのは15年以上前で、
確か夏休みの直前だった。
ほとんどバスを釣ったことがなかったぼくは、
房総半島に未開拓の湖があるという噂を耳にし、
さっそく出掛けることにした。それが亀山湖だった。

湖には前夜に到着した。素泊まり宿で仮眠を取った後、
夜が明けきらないうちに水際まで降りてみると、
聞きしに勝る湖だった。
今は伐採されてしまったが、ダムを造る以前の立ち木が
ジャングルのように残っており、
その間でバスが小魚を激しく追いまわしている。
それも1、2ヵ所ではない。
あちこちから「バシャッ、バシャッ」
とバスのはねる音が聞こえてくるのだ。
早朝の薄明かりの下で繰り広げられた光景は
まるで夢の続きのようだった。

ブッシュ
これがブッシュ。
根っこの奥のほうに
ラバージグを放り込むのだ


ぼくはボートに乗り、絶対に釣れると思いながら、
ルアーを投げ続けた。だが、釣れなかった。
バスの気配がそこらじゅうにあったにもかかわらず……。
こんな状況だったから、うまい人はかなり釣っていた。
あまりに釣れないので桟橋でエサ釣りをしてみたら、
簡単に釣れたのもかえって口惜しさを増した。

なぜ釣れないのか。さらにそれよりも、
なぜ釣れるのかはとても深い謎だった。
今となってはその疑問は解けているのだけれど、
その後、本格的に釣りと向かい合い、
サイエンスの道に進んだのも、
亀山湖での体験が大きく影響していると思う。

上流部の風景
上流部の風景。
バス人気はまだまだ健在のよう

比較的上流部にあるボート店に到着したのは、
もう早朝とは言えないころだった。
平日にもかかわらず、すでにたくさんの人がいたのには
驚いた。一瞬、その数にひるんだけれど、
これも昨今のバス人気によるのだろう。
ぼくも天気がよくていい釣りができそうだから
駆けつけたわけで、同じようなことを考える人間が
ほかにいるのも当然である。

ブッシュの裏側
春はこんなところにもバスはいる。
ブッシュの裏側で、水深は30cmあるかないか

ボートとエレクトリックモーターを借り、
釣り支度を済ませて、ボートを出すと、
ぼくは一気に湖を遡った。
この時期は浅くて水温が上昇しやすい
最上流部をねらうのが定石である。
水温が高い場所では早くから産卵が行なわれるため、
コンディションのよいバスがいるとの読みである。

渓谷のような中流域を抜けると、少し開けた場所に出た。
最上流部は浅くて広いワンド状になっている。
流れ込みもあり、水は生きていた。
バスのエサとなるベイトフィッシュが多く、
条件は揃っている。
果たせるかな、最初のバスはワンドの奥にある
ブッシュの中にいた。読み通りだった。
まん丸に太っていて、グッドコンディションのバス。
さらに倒木の付近で大きいやつを発見した。
気づいた途端にバスが離れてしまったので、
しばらく休ませてから再びねらおうと思ったが、
人が入れ替わり現われるのでさすがにここはあきらめた。

痩せたバス
岸から離れたカケアガリで釣れた。
ちょっと痩せているでしょ?

早々と1尾釣れたおかげで、
この日の状況はすんなりとつかめた。
いい魚はすべてワンドの奥の奥にあるカバーの中にいた。
残念ながら大きいやつは釣れなかったものの、
上流ほど魚がきれいで、下流に行くに従い、
小さく、痩せていった。答えは決してこれだけではない。
でも、こういうふうにはっきりパターンがわかると
気持ちがいいものだ。
風や気温といった状況の変化によって
若干の調整は必要だが、似たような場所をなぞっていけば
魚は引き続き遊んでくれる。

自然はぼくらの意識を超えている。
それでも、その正体をちょっとだけ見せてくれることが
ある。そんな時は何か大きなものと知り合えたような喜びが
ある。自分を超えたものとともにある感覚。
それこそが釣りの魅力だとぼくは思っている。

マガモ
湖上で見かけたマガモで、
白いのはたぶんメス。
エサをねだりに近寄ってくるが、
自立心が失せるため、
野生動物にエサを与えてはだめ。
野生動物は野生のままが
いちばんなのだ

まだ日が傾かないうちに、そこそこ満足した時点で、
ぼくは亀山湖を去ることにした。
さて、次はどこへ行こうか。



●問合先●
フィッシングコテージ・つばきもと
電話:0439-39-2110
住所:千葉県君津市草川原863
ボート料金:
1時間 1人乗り=1000円(30分毎に200円増し)
    2人乗り=1100円(同)
    3人乗り=1200円(同)
1日  1人乗り=2500円(遊魚料300円/人含む)
    2人乗り=3500円(同)        
    3人乗り=4500円(同)
エレクトリックモーター(電動船外機):1日2000円
バッテリー:1日1000円
釣り場: リンクへ
交通:下図参照
地図

1999-05-16-SUN

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