FISHING
釣りに興味のないひとに、
何を話せばいいのだろうか?

『ノンストップ・パワー・バスフィッシング
――早春の利根川の巻』


春一番が吹き、カモなどの水鳥もすっかり姿を消して、
ぐっと暖かくなってきた。たまに冷え込む日もあるけれど、
太陽光線は確実に強くなっている。
気象庁の発表によると、今年は桜の開花が早く、
もう東京は桜が咲いたとか。ということは、ブラックバスの
スポーニング(産卵)の準備も進んでいるはずである。

この時期はプリスポーンといって、
産卵前のコンディションのいい魚が釣りやすい。
まん丸に太った元気な魚が浅場で入れ食うこともあるし、
ビッグフィッシュの確率も高い。
しばらく最高気温が15℃以上になる日が続いて、
水温が上がりやすい浅い湖なら、グッドサイズのバスが
シャローで釣れるかも……
というわけで、早速行ってきました。
釣り人は魚の活性が高まるとともに元気になるものなのだ。

場所は利根川下流、印旛沼から流れ出る長門川との
合流部付近。浅くて水温が上がりやすいなら、
霞ケ浦もいい感じだけれど(実際にかなり釣れている)、
同行のセイヒローくんの意見でここに決定。

止水に比べると、川のバスは元気である。
ラージマウスはあまり流れを好むほうではないが、
利根川下流にはエサが多く、多少環境が厳しくても
たくさん食べて大きくなりたいツワモノが
集まるというわけだ。
また、フルリグのボートを貸してくれるボート店が
あるのもうれしい。


土壇場でキャッチした1尾。
ここのバスは流れのある川に住んでいるため、
通常よりもヒレが発達している。
どうです、グッドプロポーションでしょ?

さて、場所が決まったら、まず地図をチェックし、
魚がどこにいるのかを考える。
これはバスフィッシングで最も楽しい作業のひとつである。
バスはどこにでもいる魚ではない。
いろいろな条件を総合的に判断して、
自然の中に隠された暗号を解いてゆく。
数学の方程式ではないから
もちろん答えはひとつではないし、
大いなる自然が相手では
なかなか満足できる結果は得られない。
でも、だからこそ飽きないのである。

あいにく利根川には水中の地形が書かれた湖沼図が
ないので、道路地図を開いた。
バスがいる場所には
実にたくさんの条件が関係すると言われているが、
本質的なものはそれほど多くない。
本当に大事なのは、エサと外敵(含む釣り人)、水、
地形の変化、それと産卵行動くらいなもの。
これはバスに限らず、
たいがいの生き物にあてはまることだ。
概して生物は、エサと天敵の間に挟まって、
いかに子孫を増やすかに終始している。
これらの要素を中心に、
季節的なバスのステージを見極めつつ、
魚の居場所を絞り込んでゆくのだ。


ヒットルアーはダイワの
T.D.MINNOW1102SP。
なかなか入手できない
ロングビル・サスペンドミノーの
なかでも比較的手にいれやすいモデル。
リアクションで使うクランクベイトは
腹のカラーが重要。
ヒラ打ち時に目立つのである

おおまかなエリアが分かってきたら、
あとは風、水温の変化、濁りといった細かい条件のうち、
状況を大きく左右する要素に法則性を見出せれば
さらに釣果は伸びる。

ひとつ、利根川下流で特別に注意しなければならないのは、
潮の干満の影響を受けること。こういう場所は、
水が動いているほうが釣りやすく、時間帯も重要だ。
また、減水中にはブレイクやカバーのアウトサイド、
増水中はシャローと、水の動きによって
バスの付き場が変化する。

3〜4月なら、どの程度産卵の準備が進んでいるかが
カギになる。大雑把に言えば、バスが冬の終わりと
産卵の間のどのステージにいるか、だ。
冬なら水温が高めで安定し、エサ場が近く、
水の流れを避けられるような場所にいるはずだし、
産卵が近ければ水温が上がりやすいバックウォーター
(ワンド)の奥やアシ際などの浅場にいるだろう。
バスの状態はその中間である可能性が高い。

利根川で出てきそうなパターンをいくつか考えると、
ひとつはスポーニングを強く意識して長門川に入ったバス。
もうひとつはメインリバーの流れを避けられる
ワンド状になったシャローと、その周辺にあるブレイクや
杭などのストラクチャー。産卵期はアシ際もよい。
まあ、だいたいそんなところか。

まず支流の長門川をチェックしたら、メインリバーの
ワンドを探す。最初の1尾を釣るまでは、
この時期の定番であるロングビルミノーや
スピナーベイトのスローロールで広く探りたい。
フォローベイトもリアクションを意識してラバージグ、
テキサスリグ、ヘビーキャロライナ……等々、
イメージだけがどんどん先走ってしまう。
釣りに行く日が近づくとこんな感じで盛り上がるのが
釣り人の常で、いつまでたっても
ウキウキしてしまうのである。

ところが、スケジュールを固めたものの、
約束の日は天気が冬に逆戻りして、最高気温は7℃くらい。
おまけに雨も降り始めるという予報。
キャンセルしてもよかったけれど、いちど盛り上がった
欲望はそんなに急に冷めやしないのである。
厳しい状況を覚悟で朝8時集合とした。
まあ、雨も降り始めはそんなに悪くないし、
何といっても今年はじめてのバスフィッシング。
行けるときには行くのが真の釣り人というものだ。

当日は予想通りの雨。
しかも真冬のような寒さである。
メンバーはセイヒローくん、森川さん、天川さん、
そしてぼくの4名。
セイヒローくんと森川さん、天川さんとぼくに分かれて
ボートに乗った。ボート店の人に話を聞くと、
メインリバーのほうがいいというので、
予定を変更して本流に行くことになった。

利根川下流は北風がびゅうびゅう吹き抜けている。
真っ先に風裏のワンドに向かう。
魚探を見ると、驚くべきことに水温は14度以上ある。
ホントかなあ、と思うが信用するしかない。


吹きつける雨と寒さに
お手上げのセイヒローくん

ワンドの奥のシャローから、
ベイトフィッシュが付く周辺のブレイクなどを
チェックしたが、アタリはない。
やっぱり冷え込みの影響だろうか。
潮は下げているはずだが、低気圧と雨の影響で、
流れはほとんどないようだ。

次に、温水が流れ込むという場所まで移動したが、
ここでもノーバイト。そのすぐ下流に水中堤防があって、
セイヒローくんのボートに乗っていた森川さんが
立て続けに2尾キャッチした。
堤防の根元の上流側にあるブレイクで、
ジャンボグラブにヒットしたという。
ウィンディーサイドで水深は3mくらい。
北風はマイナスに作用していないようだ。
どうやらこのバスは冬から抜け出したばかりという
感じだったが、この時点で人間側の寒さが限界に達し、
ボートハウスに戻ることにした。
もう手がかじかんで動かない。これだけ寒いとさすがに
めげる。魚はまだ元気かもしれないが、人間のほうがねえ。

桟橋に戻ると、すでに1時を過ぎていた。
チェックした場所はまだ2ヵ所だけ。
おまけにノーフィッシュ。
ボートが遅くて移動に時間がかかったこともあり、
なかなかフラストレーションがたまる展開である。
手足の指の感覚は失せ、もう帰ろうかと思ったけれど、
ノーフィッシュはあまりにも悔しい。
せめて1尾釣れば救われるのだが、
0だとすべてが泡と消えたように感じてしまうのだ。
1尾釣れば費用対効果の計算もできるが、
0はどう考えても0。何倍しても0。
0と1の差は果てしなく大きい。

そこで、体を暖めてから、
残りの数時間に賭けることにした。
2尾釣った森川さんと、天川さんは帰ってしまったが、
セイヒローくんはまだ粘るという。
さすが、釣り雑誌「Basser」の元編集者である。
そうこなくっちゃ。
セイヒローくんのプランにしたがって、
とりあえず森川さんが釣った水中堤防パターン
(パターンといえるほどのものではないが……)
を拝借することにした。

水中堤防に到着すると、種類まではわからなかったが、
表層付近に2〜3cmほどのベイトフィッシュが
いっぱいいた。
ベイトフィッシュは水流が複雑に変化する場所に
集まりやすいものだが、
こちらの堤防周りもリッチなエリアのようだ。

上げ潮のためか、水は増えている。
ブレイクに引っかかっていたバスが
上ずってくるだろうと考えて、ロングビルミノーで
堤防とその上流に広がるシャローをねらう。

水中で静止するサスペンドロングビルミノーは
ハデな動きにもかかわらずスローな釣りができる
早春定番のリアクションベイト。
バスの活性が下がり気味のときは
迷わずリアクションの釣りである。
ネコをネコじゃらしで誘うように、
イレギュラーな動きでバスに食いつかせるのだ。
バスはある種のイレギュラーな動きに滅法弱い。
釣り人はときどきバスがルアーを何だと思っているのか
という話をするけれど、そんなことを考えるより、
魚を釣りたければバスが本能的に口を使ってしまうような
釣り方を見つければいい。
「わかっていても、逆らえない」。
リアクションはそういう釣りである。
ちなみに、ロングビルミノーにはボディが細くて
フックアップしやすいというメリットもある。


ラバージグ
通称“ラバジ”という。
比較的大ものが好むルアー

スピナーベイト
これも何に見えるんだか
分からないけれど、
よく釣れるルアー

下流から上流に向かってキャストし、ボトムに
コンタクトさせてはポーズを入れてゆく。
数キャスト目でポーズを入れたときに、
ようやく待望のヒット!
この時期は掛かりが浅いので、
慎重にファイトした末に上がってきたのは
なかなかコンディションのいいキロフィッシュである。
が、時すでに遅し。夕方に出会い頭の1尾では、
パターンを煮詰めるにはあまりにも時間がなさすぎた。

その後は、さらに下流のブレイクが寄った杭まわりを
ねらい、セイヒローくんがワームで1尾バラシたのみ。
結局、セイヒローくんはノーフィッシュに終わった。
さぞ、悔しいことだろう。
すぐリターン・マッチを組まなくちゃね。
さて、次はどこへ行こうか。

問合先 
北総マリン(レンタルボート)
千葉県印旛郡 栄町和田239-1
電話 0476-95-9898
地図

1999-04-07-WED

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