FISHING
釣りに興味のないひとに、
何を話せばいいのだろうか?

はじめに   

地球に未知の土地がたくさんあった時代、
楽園は確かに存在していた。
正確に言うなら、
人々はまだどこかに楽園があると信じることできた。
信じられるということは、存在することに他ならない。
違うだろうか。

ところが今はどうだろう。
人間は至るところに拡散し、頭上には人工衛星が飛び交って、
この世界はくまなく知り尽くされてしまった感がある。
たいていの場所のことは、ちょっと調べてみればかなりわかる。
コロンブスやタスマンはもう決して現れない。
アムンゼンやヘディンでさえ不可能である。
気持ちのよさそうな南の島、たとえばタヒチあたりへ行っても
そこはすでに既知の世界、すなわち楽園ではない。
メルビルやゴーギャンやスティーブンスンやが
かつて楽園を求めて遠方へ向かった時のように、
ぼくたちはもう素直に地上の楽園を期待することはできない。

しかし・・・地上がだめなら水中がある。
しかも、
異種生物とのコミュニケーションというおまけまで付いている。
そう、ぼくたちにはまだ釣りがあるのだ。

魚とやりとりする情報を伝えるのは一本の糸。
ぼくらが釣りをしているその時に、
ルアーがどこをどう泳いでいるのか、
魚がどうやってエサを食べているのかは完全にはわからない。
言葉が通じないから、魚のことは想像するしかない。
それは決して証明されることがない、永遠に未知の世界である。

もし「最近面白いことがない」、
「どこか息苦しい」、「何か楽しいことをしたい」と思っていたら、
竿を構えて水に向かおう。
お金はたいしてかからない。
水ところへ行って、ただ水面に糸を垂れれば充分。
その先にはいつも発見に満ちた
果てしない楽園が広がっているのだ。

第1回
鴨居式シャクリマダイ

秋だ。
気温は下がるし、天気は悪くて、
このところ何となく気分が落ち込みがちになる。
もしかしたら変温動物の気があるのかもしれない。
単に数字で表せば、春にだって同じような気温の時はあるのだが、
上昇するのと下降していくのとではずいぶんと違う。
寒い冬から解放される春に、去りゆく夏を惜しむ秋……。
時間の流れから逃れられないのが人間の宿命だろうか。
そういえば、どこかの誰かがが
「生命とは時間を記述する形式だ」と書いてたっけ。

気温と気分だけじゃなく、株価や円など、
どうやらこの秋はいろんなものが落ち込む季節らしい。
そしてこの時期、落ち込むといえば忘れてならないのが
「落ち鯛」である(もちろん釣りの話として)。

落ちると言っても、魚のほうは秋になると元気になるものが多く、
鯛も例外ではない。マダイは暖水性の魚で、東京湾では
ちょうど今頃から越冬に備えて荒食いをするために、
釣りには絶好のチャンスとなる。
東京湾のマダイは今や寄せエサを使うコマセ釣りが一般的だが、
おすすめはだんぜん鴨居式のシャクリダイだ。

鴨居のシャクリダイがいい理由はいくつかある。
ひとつは味。
何を隠そう、鴨居の鯛は築地の最高級ブランドである。
「西の明石、東の鴨居」というやつだ。
特に落ち鯛の時期は脂がたっぷりと乗っていて、
ふつうの鯛しか食べたことがない人が口にしたら、
これが本当に鯛かとびっくりすること間違いなし。
鴨居の鯛が家庭の食卓には乗ることはまずない。
これを食べられるのは釣り人の特権といえる。

もうひとつは釣趣。
仕掛けがとてもシンプルなため、鯛の骨太な引きが
ダイレクトに伝わり、釣り味がすごくいいのだ。
鯛に限らず、フライフィッシングや友釣りなど一部の釣りを除いて、
仕掛けはシンプルなほうが釣りは面白い。
魚との間にある道具が少ないほど、
魚と直接対決する感覚は強くなる。

強烈なファイター、真鯛。
そいつと真っ向から勝負する快感はなかなかのものだ。
最近、ぼくの周りでは鴨居式シャクリダイが
ちょっとしたブームになっている。
知る人ぞ知る写真家の津留崎健氏なんかは、
3カ月かけて竹竿を自作したほどで、9月に入ってから
大潮の度にいそいそと鴨居に通い始めた。
彼は9月21日の日曜日にはなんと7尾もの鯛を釣り上げている。
フライフィッシングの月刊誌「フライフィッシャー」、
釣りの総合誌「つり人」の編集長も
見事にハマっているし、
実は○○道場のT師範もこの釣りのファンである。

では、どうやって鴨居の鯛を釣ったらよいかという話になるが、
97年の「つり人」11月号にぼくがその記事を書いているので、
できればそのバックナンバーを見て欲しい
(扉のページで小さい鯛を持っているのがぼく)。
仕掛けの作り方や料理法も紹介している。
今発売中の「つり人」98年11月号にも2ページほど出ているし、
12月号にも掲載されるので、特に船宿の場所や
仕掛け図などについてはそれらが参考になるだろう
(12月号ではまあまあの鯛を持っている)。

確実なのは釣り船の船頭さんに教わること。
ぼくがよく行く「純丸」の船頭さんに聞けば
優しく釣り方を教えてくれる。最初は貸し道具で充分なので、
まずはとにかく釣りに行こう。
ただし、大潮以外はあまりよくないので、日並みは選ぶこと。
料金は乗合で8000円。1尾釣れば元はとれる。
それにこの金額で一日楽しめるのだから、安いものでしょう?

鴨居式シャクリマダイ釣りのテクニックを
読みたい人はココをクリック。

ごっつう長いですぜ。


問い合わせ先
「純丸」
神奈川県横須賀市鴨居港
電話:0468-41-1508
定休日:第二金曜日
貸し道具あり(有料)
交通:京浜急行「浦賀駅」下車、
かもめ団地行、観音崎行バスに乗り約10分、「鴨居」下車。
車は横浜横須賀道路「佐原I.C.」で降り、
浦賀方面に向かい、鴨居漁港へ。

1998-10-03-SAT

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