零下の白波に揉まれる欲望のブルース改め
久里浜でおいしいお魚を釣って食べる
(実釣編)
「考えても結果がなかなか伴わないから熱くなる」。
カワハギ釣りをそう評する人がいます。
「『?』が頭の中に渦巻くから面白い」とか。
今、カワハギがブームなんです。
それはどうやら、
食べておいしいからだけでもないようなんです。

鋭い出足を見せたdarlingさん。
次回の課題は集中力の持続か? |
バス釣って賞金稼いでるバスプロも
バスの活性が鈍る今の季節、
カワハギにはまる人がとても多いのです。
“ハギマスター”
(ほかの人が釣る分まで 釣ってしまうほどの名人)なんて
ほかの釣り師から恐れられている人もいるくらいです。
いずれ、パスプロのように賞金を稼いだり
するかもしれません。
カワハギ釣りは、
そんな可能性も秘めていそうです。
テクニックやパターンがいくつもあって、
さらにそこから枝別れしているんです。
カワハギ釣り経験の少ないボクこと、ぎむらにとっては、
まるで迷宮のようであります。
そんなカワハギを釣って食う。
今回は予告編でもお伝えしたとおり、
神奈川県三浦半島久里浜出船の
『山下丸』に向かったのです。
今回の釣行メンバーは
糸井darlingさん、齋藤海仁さん、金澤セイヒローさん、
アッキィこと秋山さん、森川幸人さん、ぎむらの6人です。
そのなかでもdarlingさん、金さんは何度か
この釣りを経験済み。
最近パパになって、釣果も戻りつつあるという齋藤さんは、
かなりの経験者であります。
アッキィさん、森川さんは初。
アッキィさんに関して言えば、釣りも船もはじめて。
ぎむらことボクは2回。
目標枚数は、おすそわけ分も含めると180枚。
途方もない数字です。
プレッシャーと緊張感は、180という数字のせいで、
ぐんぐん高まってきました。
さあ、主役(ダイニング部長)不在で始まった
今回のカワハギ釣りには誰にでも勝つチャンスが
あるようです。
しかし、この釣りの主旨はあくまでも“釣って食う”。
「食う」という目的を達成するための、
共同作業ということを忘れてはいけません。
いつもの「勝負!」ではないからたちが悪い。
セイヒローさんのように、
「シーバスのときの雪辱をします! 勝ちます!」
と顔はおだやかなのに物騒なことを言い出す人も、
なかにはいるわけです。

森川さんはなんと18尾。
トップに2尾差の猛追を
見せたのでありました |
darlingさんは
「お客さん第一。生活のための漁をします!」
あくまでも中立というか、本来の目的を唱え続けています。
が、そう言ったって、なかなかうまくいかないのが人間。
「我、となりよりも1枚でも多く・・・」。
くわえて、前回のスズキ釣りで誰がいちばん活躍したか、
誰が多く釣ったか。
そして、誰がボウズだったとか。
そんなことを、やっぱり忘れてなかったもんだから、
今回参加のメンバーも心の片隅で
ヒーローを夢見ていたんようなんです。
もちろんあっしもです。
それを寸でのところで食い止めたのが、
“パターンを見つけたら、惜しげもなく
みんなに公開すること”という出かける前に決まった
たったひとつの約束ごとだったのでした。
さて、現地に着いてまず驚いたのが釣り客の多さ。
まだ6時だっていうのに、
船宿の前が大混雑してるではないですか。
昨晩から来てミヨシ(船の一番後ろの席。
人の仕掛けにからまるオマツリが少ないとか、
ほかの場所よりも釣果が伸びるとか伸びないとか
さまざまな好条件があるとされる場所)をとり、
ご満悦のハギおやじ。
「2時に来たのにダメだったよ」
とグチるように嘆くハギおやじ。
あんたたち仕事は? 平日だろ。おおっと、自分もだっけ。
まあ、そんだけカワハギに魅力があるってことなんですね。
けっきょく、山下丸3艘のカワハギ船は満員。
サオサオサオ。竿とおやじがずらあああっと並んでいる。

これからますます
肝が肥大します。
2月の後半くらいまでが旬です |
平作川を下り、
東京湾に出ると、北よりの風が少々。
そして、船はいよいよ本気モードで走り始めました。
ミヨシの森川さんは意気揚々と。
その隣のぎむらことボクも海の男の血が
少しずつ騒ぎだし、隣のアッキィさんは、
飛び散る波しぶきにやや不安げ。
齋藤さんは、 貫禄というか、 じっと沖を見据えています。
darlingさん&金さんは
体力温存のためか、船べりで就寝。
それぞれの思惑を(?)胸に、
ポイントへ着いたのでありました。
ポイントは、型のそろう1級ポイント劔崎沖を断念。
潮が速すぎるため釣りにならないとのことです。
そこで船は房総半島の竹岡沖にまで向かいます。
水深は30m。釣りやすい深さです。
サオの握りもリールの扱いも分からないアッキィさんは、
齋藤さんにレクチャーを受けております。
そんな彼を残して、いっせいに投入。
するとすぐ、
「きたゾ!」
darlingさんが朝から歓喜の声をあげました。
シーバスのときも確か初ヒットだったよな。
出だしいいですよねえ、いつも。
サオ先はブルルン、ブルルンと引き込まれ、
思わず「でかい! かも・・・」。
上がってきたのは15cmほどの手のひらサイズ。
でありながら、周囲も確認できるほどの気持ちいい引き。
あっぱれカワハギ。
そして、サイズこそ小さいものの、
肝は確実に入っています。
そういえば、腹のあたりが異常にふくらんでいるようです。
すると、隣にいた金さんが「どうやって釣りました?」
と内輪取材を始めました。
どうやら前回紹介したタタキ釣りのようであります。
せわしなくサオを振り、ある瞬間フッと止める。
それまでエサの周りでイライラしていたカワハギが
チャンスとばかりに食いつく釣り方です。
オーソドックスな聞き合わせ釣りには
まったく反応がありません。
もはや確信を得たのでしょうか。
darlingさんはタタキ釣りで次々に釣り始めたのでした。
そしてなんと、まねをする金さんにも待望の1枚が・・・。

鷹仁くんのパパになって、
みごと釣果が戻った(?)
齋藤さん |
ポーカーフェイスでアッキィさんに 釣り方をレクチャー
していた齋藤さんも釣り上げます。
「もう疑う余地はない!“タタキ”だ!」
といったムードが漂い始めたのでありました。
ところがです。
ぎむらことボクには一向にアタリがないのです。
森川さんも1尾釣りました。
「いやあ、あとは僕のノルマは29枚です」。
このパターンで釣れていないのは
ボクとアッキィさんだけです。
そのうち、あんなに釣れていたdarlingさんに
アタリが遠のいてしまいました。
「次なるパターンは?」
みな、一心不乱に模索を始めました。
金さんなんかはサオを立てたり寝かせたり、
しまいにはサオ先を海中につけたりしながら
いろいろとやっています。
齋藤さんも同じ。
いったいどのパターンなんだあ!
ボクにはさっぱり分かりません。
そうこうしているときでした。
午前9時30分。潮止まりの約1時間前、
ゆっくりとたるませ、潮にミチイトをふかせながら
スーッと張ったボクに「ゴンッ、ゴンッ、ゴンッ!」という
カワハギ特有のアタリが訪れたのです。
一定のスピードで巻き上げているはずの自分の手が
こころなしか焦っています。
「やっとみんなと同じ土俵に立てた!」
そう思って巻き上げてくると
ハリはがっちりと上唇にかかっており、
待望の1枚を手に入れたのでありました。
調子に乗ったボクは、
森川さんにアドバイスまで始める始末。
「あくまでもゆっくりで、
タルマセ釣りがいいみたいですよ」
ところが、このマユツバなアドバイスが
当たってしまったんです。
そして、しばしボクと森川さんは釣れ続け、
デッドヒートを繰り広げたのでした。
着実に釣果を伸ばし続けていたはずの金さんが
不安げに視線を送ってきました。
糸井さんにもアタリがなくなって
ノルマの達成ははるか彼方へ・・・。
齋藤さんも「???」。
1人100尾の稼ぎ頭として
みんなの期待を一身に集めているだけに
がんばっていただきたかったのですが。
さらに金さんなんかは
ぼくら二人が釣れ続けていることに、
はなはだ不満なご様子らしく
「どうやって釣ってるんだあ? 教える約束だろ」
とコワイ声でせわしなく問うてくるのでした。

「キス・ユー・プリーズ」
アッキィさん。大活躍でした |
もちろんボクも森川さんに教えたことを
みんなに繰り返すのですが、
それを聞いていたdarlingさんも齋藤さんも、
あまり信用はしてくれなかったみたいですね。
おっと、忘れてました。
アッキィさんですがね、
この時点では齋藤さんやボクが釣る
外道のベラやトラギス、ヒメジなんかを見て、
「そんなんでいいから釣りたいなあ」なんて、
悲しい声で訴えてたんです。
齋藤さんが根気よく基本を教え続けてました。
「あとはコツをつかんでくれ」。
齋藤さんの目がやさしくそう言っているのが分かりました。
ポイントを何度変わったでしょうか。
とにかく誰もノルマを達成できるペースではないのです。
10時からは潮止まりで、さっぱり。
あれほどひんぱんに無自覚に取られていたエサが
そのまま戻ってきてしまうんです。
通常なら、1分以内にはリールを巻いて、
それでもエサはほとんど取られてしまっているはずなのに。
焦らなければいけないんです。本当は。
だって、齋藤さんなんかは、
取材で来たために写真も撮らなければならない。
darlingさんの課したノルマにまだ手も届かないんですから。
ところがです。なんて海の奥深さよ!
そう、改めて海の何たるかを認識したんですよ。
潮が動きだすと、
とたんにアタリが来るようになったのですから。
タタキよりもむしろ、
ゆっくりめの動作が有効なようであります。
それぞれコンスタントに釣れだしたのが午後1時すぎ。
それにしても、みな飽きないのが不思議です。
アサリをなるべく小さくまとめて、
(水管をとったり、半分に切ったり、ベロを切ったりする)
ハリ付けし、仕掛けを投入しては誘いながらアタリを待ち、
乗っていればそのまま巻き上げ、
何もアタリがなかったら空になったハリに
再びエサを付けて投入する。
こんな単調な作業なのに、本当に飽きないんですね。
それはきっと
「隣が釣れているのに、
なんで自分にはかからないんだろう?」
「何かが違うんではないか?」
そんな疑問が渦巻き、
次々にその疑問を晴らしていきたい衝動に
駆られるからではないんでしょうか。
想像が確信に変わったときのうれしさったら
ないんですから。
そうそう、
これをまったく無視した釣りをした人間がいたんでした。
そう、例のアッキィさんです。
金さん
「アッキィさん、底とってますかあ?」
アッキィ
「うんうん、とってない」。
カワハギは基本的に底の根付近に着いている魚です。
したがって、底を切る(底よりも上を釣る)のは
勇気がいるものなんですがね。
つまり、なまじっかカワハギを知っている人には
なかなかできないことなんです。
この初心者なりのあてずっぽうさが、功を奏したんです。
周りが釣れていないのに底をとってない
アッキィさんだけが釣る。
これ、実に不思議。
それを帰鼠後、本日の総料理長でもあり、
毎回メモを欠かさずにデータを取り続け、
カワハギ釣りに独自の理論とノウハウを持つ、
健・ツルサキ氏に解説していただきました。
事情を説明して、謎ときをしてもらったんです。
「カワハギが上ずっているときは、
最高で底から50cmも上にいることがあるんだよ。
エサを取られていないということは、
食い渋っているか、上ずっているか。
そこで思い切って底を切るか、枝スの間隔を長くして
どの層でカワハギが食っているかを確かめるんだよ」。
アッキィさんの釣りは、まさに、
ひょうたんから出た誠というか、
知らぬがゆえの大胆さというものだったのです。
たまたま底を切っていた層が、
まさにカワハギのピンポイントだったわけです。
なおも、ツルサキ氏の独演会は続いたのでありますが、
そのなかで、印象に残った話をもうひとつ。
「実はカワハギは泳ぎがうまくないんだよ。
潮が効いているときは、
潮に負けないように泳ぐのでせいいっぱい。
だからタルマセが有効なんだよ。
潮が効いているときにはイトもきちんとたるむからね。
逆に、潮が止まってたら、それこそやつらの独壇場。
ホバリング、旋回、上下、左右からエサをねらい、
ハリがかりしないんだよ」。
なるほど、タルマセばかりやっていたボクは確かに
潮が動いているときに釣果が伸びました。
とにかく、移動の合間には、うつろなロウ人形のような目で
カールスティックを頬張っていたアッキィさんを
とたんに元気にしたのは、偶然ではあっても、
ちゃんとした理論に基づいたものだったのでした。
11枚ですよ。立派です。
そうそう、肝心の食材ですか?
なんとか足りましたよ。ホッとしました。
以下、メニュー&感想です。
@肝和え&薄造り
まさに宝石とも呼べそうな肝の絶品さ。
全員にお皿が回らなかったほど奪い合いました。
肝は生臭さの微塵もなく、さっぱりこってり。
鼻の奥に抜けるうまさ。
A姿煮
カワハギの骨の髄から染み出たエキスが、
甘辛いスープと相まった絶品。
Bカラアゲ
姿煮とは逆に、カワハギのうまさを
ふんわりした衣で逃がさないように覆い隠し、
ひとくちごとに口中に広がるうまみが最高。
頭からバリバリとお行儀悪く食べるのがマナー。
外はサクサク、なかはあっさり、そしてふんわり。
Cカワハギ御飯
カワハギの身をほぐし、炊き込み御飯にしたもの。
ごはんにほんのりついた風味が食欲を誘う。
醤油、三つ葉、万能ネギをかけて、見た目もきれい。
何杯でもいける。
D鍋物
カワハギの出汁に軽く味付けした。
鼻に抜けたツユの香りが優雅で上品。
カワハギに豆腐とネギ、椎茸だけのきわめてシンプルな具。
カワハギのうまみを存分に味わえる本命料理。
で、結果ですか?
トップは、手前味噌ですが、あっしですよ。20枚。
元祖荒くれの日活=ぎむらでした。
もちろん、釣りの主役はアッキィさんに奪われ、
料理の主役の座までも
健・ツルサキ氏に奪われたんですがね。
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