サンタの国、
フィンランドから。

【第2回 アキ・カウリスマキ 47歳 鎌倉在住】

自称、鎌倉在住。
フィンランドのとある小さな街を
鎌倉とよびながら暮らすその男。
アキ・カウリスマキ、映画監督。

「おれ、鎌倉だからな」
「そろそろ鎌倉に帰るわ」
というナチュラルな響き。
立派な自称鎌倉在住です。筋金入りのようです。


自称鎌倉在住の方のお住まいはこんなところに。
自称鎌倉在住の方のお住まいはこんなところに。


鎌倉とその街の共通点って、
首都からのドライブ時間が同じってくらい?
鎌倉の人が聞いたら、勘弁してくれよって言うと思う。
でもって、鎌倉発言が本気なのか冗談なのか
全然わからないのです。

冗談とも本気ともつかない発言、
独立記念日の大統領晩餐会を断った時の
どぎついブラックユーモア、
反骨精神ばりばりの一貫した態度とか、
フィンランドの古きよき文化を残すための
惚れ惚れするくらいの行動だとか‥‥
そういう言動を淡々とやってのける。
これがフィンランドにおけるアキ・カウリスマキ。
あんまりあっさりしてるもんだから
尾ひれがついてえらい伝説がいっぱい生まれたりもね。

ここでフィンランド語の勉強をしていた時期に、
やたらとアキ・カウリスマキの映画を見せられました。
会話がほとんどなくて、
おまけに映画のフィン語って
教科書の言葉のように丁寧なんです。
表情も変わらないし唐突だったりするのに
妙に映画の内容についていけるんですね、これが。

だけどフィン語の授業で映画を見ながら思った。
こりゃあだめだな、と。
こんな男の人ばかりじゃ、
きっと私はここで結婚することはないだろうって。
どいつもこいつも冴えないし、無口だし、
冗談なんだか本気なんだか分からない
寒いジョークをボソリと言ったりするし。
北欧といえばもっとスマートなイメージが
あってもいいかと思うのですが。
そしてフィンランドで生活すればするほど、
北欧のスマートな男性のイメージではなく、
どうも巷は
カウリスマキ映画に登場するようなのだらけだと
痛感していくばかり。


プールにジャズの唐突さをものともせずに、淡々と泳ぎ続ける人々。
プールにジャズの唐突さをものともせずに、
淡々と泳ぎ続ける人々。



そのくせ私はフィンランド人と結婚してしまったわけです。
それもカウリスマキ映画をすべて観ている上に、
自分の身の上と重ねて頷いていたりしんみりしている人と。
無口じゃないけど空気読めないし、
メロディアレーベルのクラシックを
集めたりしているくせに、
突然私が口ずさむ日本の歌から
「それ教えて!」と興奮して初めて覚えた歌が
“天才バカボン”。

ある日仕事から戻ったら
いきなり丸坊主になっていたこともあったっけ。
でも「聞いて聞いて!」とか「見て見て!」じゃないの。
すべてが淡々としているんです。
俺はごくごく当たり前のことをしているに過ぎない、
みたいな。

昨日、夫ヒルトゥネンは読書をふとやめ、
皿洗いをしている私のところへやってきました。
親指を突き出して「ここつまんでみ」と。
ぎゅっと親指をつまんだら、「プー」。
「おならかよー」。
ハッとした私の顔を見た夫は小さく頷いて、
そしてまた部屋に戻って読書を続けていました。

フィンランド的には一晩寝かせてから話題をふると、
よりそれらしくなります。
朝ふたたび何も言わずに親指をつまんであげるの。
憶えてたのか! って、
その時はじめて自慢気な表情を満面に浮かべます。
でも相変わらず、夫が冗談のつもりなのか、
すっごい素敵な発明をしたと思っているかは不明。
ひょっとするとそんなことすら考えてないかもしれない。


湖の上をテラスにしちゃう。
湖の上をテラスにしちゃう。


淡々としていてよく分からない。
でもこの空間が、
立派なコミュニケーションになってるんですね。
友情も愛情も深まれば深まるほど、
淡々さと唐突さの度が濃くなっていきます。
これはもう、カウリスマキとか
彼の作品に登場する人々とか、
夫ヒルトゥネンとかっていうんじゃなくって、
フィンランドのいたるところに
モンワリと広がっている雰囲気というのでしょうかね。


凍った海の上も、天気が良ければワラワラと人が出てきて散歩します。
凍った海の上も、天気が良ければ
ワラワラと人が出てきて散歩します。
スキーやスケート、ドライブでの移動も可。
寒いのよ、フィンランドの冬はほんとうに。



一年くらい話をしていなかった知人からいきなり電話で、
散歩する黒豚の名前の話を聞かされたりね。
よく見かけるらしいんですよ。
公衆サウナで知らないおばちゃんに
ヘチマスポンジを渡されて「背中洗え」とか。
で、洗ってあげるとお返しに私の背中流してくれたり。
イントロのない状態でこういう突拍子もないことをやるの。
で、あんまり劇的にお話をしたりすることないんだけれど、
どこかで通じてる感じ。

人がどう思うかあんまり考えてないのかな。
とにかくふと思いついて、
頭に浮かんだことを語ったり行動する。
こういうの、スローライフって呼んでいいでしょうか。

自分の心の趣くままに素直に生きている感じしませんか?
個人的にはとっても楽です。
黙っていたかったら黙ってていいし、
ふと思いついたら
どんなに唐突だって口にしちゃっていいし。
万事がこんな感じですから
街を行く人々の歩くペースも行動もてんでばらばら。
でもね、基本的に約束は守って
人に迷惑になるようなことはしないっていうのも
好きなことを好きなようにやっているから
分かってるのかな。
のんびりしてるけど、時間は厳守。

こんな調子なので、私もなんの連絡もせずに
半年振りくらいで友人カップルに
ふらりと会いにいきました。
この人たち、これまた
ふらりと思い立って始めた焼き物に夢中でした。
この人、実は役者さんで監督や脚本も手がけてます。
冒頭のカウリスマキの映画では
『浮き雲』という作品で税務署の調査官になってたり。
そんな彼がドラム缶のようなものを工夫して、
自分で焼き釜を作って土の中に住む森の精を作ってました。
森の精について読み聞かせしてくれる
彼の言葉の神秘的な響きとは裏腹に、
目の前の森の精は
ヘラジカの角の被り物をしていたりおちゃらけてます。
朗読してくれる古典からの引用が
神秘的さを増せば増すほど、
目の前の森の精はふざけてるようにしか見えない。
意図しているんだか、
冗談か本気なんだかわらかないよ、もう。

でもって私はそんなところが大好きで、
日々精進しております。
話したいときだけ話し、思ったことだけを素直に語り、
唐突でも淡々としていてもいい。
自分のペースで生きてゆく、
魅惑のスローライフじゃないかな。


土中に住むといわれる森の精、だそうだ、とりあえず。
土中に住むといわれる森の精、だそうだ、とりあえず。
土中に住むといわれる森の精、だそうだ、とりあえず。
ヘラジカの角の被りものもあり。
ところでフィンランドの人って
被り物の似合う人がとっても多いと思う。



圭子 森下・ヒルトゥネン

 

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2005-01-14-FRI
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