おさるアイコン ほぼ日の怪談

「おかっぱの少女」

わたしの通っていた小学校では、
子供たちが、口を揃えて言う
特別な「怖い場所」がありました。

それは、児童たちの教室がある3階建てのA校舎と
給食室、美術室、音楽室がある
1階建ての旧校舎をつなぐ廊下の途中にある、
南便所。
ここでは幾度となく不思議な出来事があったせいで
ただでさえ薄暗くて変な感じがするので
子供たちは決してひとりでは
そのトイレに入りませんでした。

この話はPTA会長をしていたわたしの父が
子供たちにはずっと伏せられていたある事件を
わたしが卒業したあとに、
こっそり教えてくれたものです。

ある夜、用務員さんが校内の見回りをしていました。
その夜は校内には用務員さんと、
仕事の残っていた校長先生しかいませんでした。
体育館を見回り、職員室の前を通り、
A校舎から旧校舎へつづく
例の渡り廊下に差し掛かったときに、
用務員さんはふと廊下の向こうに
ちいさな人影が動いているのに気がつきました。
「さては悪ガキが肝試しにでもきたのか?」
と思った用務員さんは
その人影に「こら!」と一喝しました。
すると、その影は音もなく
南便所の中に入っていきました。
用務員さんは、その悪ガキを
とっ捕まえてやらないといけん、と思い
あわててトイレの中に入ると
女子トイレの方から音がしました。
用務員さんがそっと中をのぞくと、
そこには上半身だけのおかっぱの女の子が
浮かんでいました。
くるっとふりかえると血まみれの顔の大きな目が
用務員さんを睨んでいました。
あまりの恐ろしさに用務員さんは、
入り口のドアにぶつかって
気を失ってしまいました。
その衝撃でドアのガラスが割れ、
凄まじい音をたてて扉が倒れました。
その音を聞いて何事かと駆けつけた校長は
渡り廊下の入り口で
トイレから飛び出してきた影を見ました。
泥棒かと思った校長は、「待て!」と叫んで
その影を追いかけていきました。
あと少しで追いつくと思ったとき、
影は給食室の壁にぶつかり、
その壁や床には大量の血が飛び散りました。
校長は、いきなり目の前が
真っ赤になったことに驚いて
呆然とその場に立ち尽くしていたそうですが、
そのときに子供の声を聞いたそうです。
「ふたりとも、呪ってやる」
と。

その後、校長と用務員さんは
なんの前触れもなく学校をやめました。
ふたりとも病気になったとの話でしたが、
お別れ会もなにもなく、
本当に突然いなくなってしまいました。
1年後、なぜか渡り廊下と南便所だけ
改装工事が行われました。
が、事件のずっと前、その改装工事の提案をしたのが
校長と用務員さんのふたりだったそうです。
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