おさるアイコン ほぼ日の怪談2010
怪・その17
「事故の現場で」


何十年も前の話です。
国鉄(当時)の大事故で、
おおぜいの方が亡くなったことがありました。

当時まだ若く、
東京へ通勤していたわたしは、
いつも帰りに乗る電車の、
いつも乗る車両のことだったので
ほんとうに驚きました。

偶然、その日に限って、
一台早い電車に乗れたので、
命拾いをしていたのでした。

翌朝、いつものように電車に乗り、
事故現場を通りかかると、
9の字に曲がって横倒しになった電車やら、
大勢の作業員やらが見えました。

その向こうの丘は団地で、
ちょうど日曜日だったので、
大勢の人が見物している惨状の中、
私の乗った電車は徐行し、
そして何分か、
その場に停まっていました。

つり革につかまって見ているうち、
私はぶるぶる震え、
気分も悪くなり、
何もしないのに大粒の涙がぽろぽろ、
ぽろぽろこぼれ始めました。

私の前に座っていた女の人が、
どうしましたか、どなたかお身内の方が?
とたずねてくださっても、
いえ、違います。なぜだか分かりません。
としかこたえられず、
やっぱり気分が悪いまま、
涙だけが滂沱とあふれました。

少しして、やっと電車が動き出し、
その場を離れると、
私の涙はぴたりと止まり、
気分も直りました。

前の席の人に、
ありがとうございました、気分が直りました。
というとその人は、
死んだ人の‥‥といいかけ、
私を見て青い顔になりました。

(K)

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2010-08-16-MON