おさるアイコン ほぼ日の怪談2009
怪・その8
夜の漁港で


先月、7月のある晩に
新潟の漁港に夫と釣りに行きました。

この晩は悪天候が予報されていたためか、
他の釣り人も少なく、
堤防の上で私たちのほかには
2人連れのグループがいただけです。

夜の海はそうでなくても暗いのですが、
月明かりも、灯台の明かりも
ほとんど見えない状態で、
お互いが灯りをつけずに動いてしまうと
すぐそばでも気付かないという状態でした。

そんな中でも夜釣りにはいつも行っているし、
悪天候も初めてじゃないし
いつも通りになるべく堤防の突端に近いところで
(その方が多い種類の魚が釣れる場所なのです)
黙々と釣り糸を垂らしていたのです。

そんな時に、少し離れたところから
一人の釣り人がこちらに
近づいてくるのが見えました。
釣り竿を持って、道具箱を持って、
どんどん近付いてきます。

「珍しい、人が来たわ。」
と私は夫に声をかけたのですが、
夫は「大きい声を出すと聞こえるぞ」と。

どんな人かは知りませんが、
私はいつも通りすぎる釣り人には声を掛けます。
「こんばんは。あいにくの天気ですね」

返事はなく、ぺこりと頭を下げて
ずっと向こうまで行ってしまいました。
その時、夫もこちらを見ていたのですが、
何も言いませんでした。

そのまま気にもせずに続けていたのですが、
夜明けになって、夫が言うのです。

「昨夜は一体どんな人を見たんだ」
「話をしたのか」
「お前は危ないところだったぞ」

立て続けに変なことを言う、確かに人が通ったわ。
と思って、やっと気付きました。
私たちは堤防の突端にいて、
その先には海しかなかったこと。

すぐそばの夫の姿もライトがなければ
ほとんど見えなかったのに、
その人が離れた所から近づいてくるのが
よく見えたこと。
そして顔だけが暗く見えて
どうしても思い出せないこと。

夫は霊感が強く、
私が一緒に連れていかれないように
一晩中お経を唱えていたそうです。

(M)

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2009-08-09-SUN