おさるアイコン ほぼ日の怪談2008

怪・その20
祖父の刀


この話は私の姉と兄と従兄弟が
子どもの頃体験した話です。

お盆の始まりの夕暮れ、
まだ小学生だった姉と兄と、
夏休みで遊びに来ていた従兄弟3人は、
家の前で迎え火をしていたそうです。

3人で火を囲み、たわいもない話をしていた時、
家の裏の少し高台にある蔵へ通じる坂から、
誰かが降りて来るのを
従兄弟が見たのだそうです。

「誰かが降りてくるよ。」

家の裏はすぐ山で人家はなく、
こんな時間に山から訪問者が来るはずもなく、
従兄弟の言葉に姉と兄も蔵の方を見てみると、
カシャッカシャッと音を立て、
鎧姿の落ち武者が
ゆっくり3人の方へ歩いてくる姿が
はっきり見えたのだそうです。

「わーっ!」

驚いた3人は慌てて母屋に駆け込み、
大人たちに話したそうなのです。

実家の蔵には
祖父が集めた日本刀が数本ありました。
戦時中、敗戦色が濃くなった頃、
家にある鍋釜の鉄製品まで
供出しなければならなくなった時、
祖父はその刀を手放すのが忍びなく、
こっそり裏山に埋めて隠したのだそうです。
戦争が終わり、祖父は刀を掘り出し
蔵に置いていたのですが、
そのうち祖父も亡くなり、
刀のことを
家族はすっかり忘れてしまっていました。

子どもたちの話を聞き、
父がもしやと蔵の中を探し
刀を見つけて開けてみると、
長い間忘れられていた刀はすっかり錆び、
まるで泣いているようだったそうです。

それから刀は母屋に運ばれ、磨かれ、
お盆近くになると父が
大切に取り出し手入れをするようになりました。

その後、我が家で
落ち武者の姿を見た者はいなくなりました。

(DAN)

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2008-08-15-FRI