おさるアイコン ほぼ日の怪談2008
怪・その13
戸棚の向こう


5年くらい前のことですが。
当時、勤め始めたばかりの会社で
事務員は私ともう一人女性がいるだけ。
営業の人たちはほぼ毎日
「直行」「直帰」のくりかえしで
上司も私たちが帰る頃にやっと帰ってくる、
という日々でした。

そんなある夏の日の午後のこと。
パソコンに向かっていた私は
同僚の女性が席を外したことを眼の端に見つつ、
仕事をしていました。

そこへ電話が。
相手が「〇〇さんいらっしゃいますか?」
と聞いてきたので瞬間、彼女の席を見たところ、
席には不在。

でも、事務所の壁沿いに
パーテーションで仕切られた書類戸棚の向こうで
なにやらガタガタ・ゴソゴソやっている気配が。

電話を保留したまま、戸棚の向こうに向かって
「〇〇さん、電話ですよ」と声をかけましたが、
返事がなかったので、
夢中で聞こえなかったのかな? と思いつつも
相手をあまり待たせても‥‥と、
折り返し電話させる旨を伝えて、
一旦電話を切りました。

そして、改めて戸棚の向こうにいる彼女の所へ
声をかけに行こうと立ち上がった時に、
戸棚の反対側の扉から
当の彼女が入ってきたのです。

当然私は
「なんで? 戸棚のとこにいたよね?」
と言いましたが、
彼女はわけがわからないという風に逆に
「なんで? 私トイレに行ってたんだよ?」
と言ってきました。

とにかく、電話があったことを伝えて、
居場所を間違ったのは
私の「思い込み」ということで
無理やり話を終わらせましたが、
それ以来、できるだけ戸棚の向こうには
いかないようにしていました。

そして2年ほど前に部署移動があったので
今では全く近寄ることもなくなりました。

それにしてもあの日、
あの場所で書類をいじっていたのは
いったい誰だったのか。
毎年、夏になると思いだす出来事です。

(P)
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2008-08-11-MON