おさるアイコン ほぼ日の怪談2005

怪・その37
「空席」

怖い、というよりは不思議な話かもしれません。
以前務めていた会社に通っていたときの話です。

そのころは電車での通勤で
片道40分ぐらいかかっていました。
帰りはそうでもないのですが、朝のラッシュがすごくて、
大変苦労していました。
ですが、ちょっとコツというか
運がよければシートに座れることもあったので、
毎朝が運試しといった感じでした。

その日の朝はたまたま運良くシートに座れ、
これでちょっと眠れるわ、と安心しつつ
早々に目を閉じてうつらうつらし始めました。
ちょうどお盆前の夏の盛りでしたので、
あまり夜よく眠れず、この季節は座れたらまず睡眠!
という感じでした。

シートは二人がけの、
進行方向にだけ向かってる型のもので、
割合に狭いです。
その日、ものすごく珍しいことに、
その二人がけのシートが丸々ひとつ空いていて、
わたしはそこに座ったのです。
当然わたしの隣は空いています。

なのに、誰も座ってこないのです。

車内は駅につくにつれ、
どんどん混み合ってきて、
通路や入り口付近も混雑がひどくなり、
まさに立錐の余地もない、といった感じでした。

ですが、わたしは一人だけで
シートの窓際に座っています。

(わたしの座り方が悪くて
 独り占めみたいなことになってるのかな)
そう思って座っている位置を詰めたり
いろいろしたのですが、誰も座ろうとしない。

こうなると眠るどころではなく、
なんだか周りが気になって仕方がなくなってきてしまい、
一種びくびくした気持ちでずっと座っていました。

電車は進み、混雑もだいぶ緩和されて来て、
わたしの目的地から一つ手前の駅につこうとしていました。

そのとき、急にゾッと悪寒がしました。

夏なので半袖のブラウスだったんですが、
その剥き出しになってる腕に、
ふわっと動く空気の気配が。

ちょうど、隣に人がずっといて、
その人が立ち上がった瞬間のような‥‥。
駅に着き、何人か乗り降りがあり、
わたしの隣にはやっと人が座りました。

ですが、一駅ではありましたが
わたしはずーっと鳥肌が治まらなかったです。

わたしの隣には、一体なにが座ってたんでしょう?
そしてそれが見えなかったのは、
わたしだけだったんでしょうか?

(midori)


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2006-09-01-FRI