おさるアイコン ほぼ日の怪談2006

怪・その32
「真夜中の迷子」

一昨年、姉に聞いた話です。

半年ほど前のこと、用があって上京し、
とあるビジネスホテルに宿をとりました。
部屋の窓からは遊園地が見えました。

その夜のことです。

真夜中、ふと目をさますと、
枕元に女の人が立っていて、
泣いているではないですか。

寝起きだったためか、
変だという気持ちもないままに、
どうしたのと聞くと、
帰る部屋が分からなくなった、と言うんです。

姉はベッドから降りて部屋の入り口にいき、
ドアを開けると彼女に、
下のフロントへいって
部屋の番号を聞いたらいいですよ、
エレベーターはあっちにあるから、
と言いました。

彼女は廊下に出ると、
エレベータのある方へ歩いていきました。

私は見送るとはなしに彼女の後ろ姿を見てから、
ドアを閉めて部屋の中に戻りました。
その途端、一気に悪寒を覚えて動けなくなりました。

今の出来事が現実だったのか夢だったのか、
頭が混乱したままふるえが止まりません。

それでもテレビをつけて、
窓の鍵、入り口のドアの鍵が締っているかどうか
確認しました。
そしてはっきり思い出したんです。
寝る前に、
窓も入り口もロックされていることを確かめ、
部屋は密室だったことを。

その後、
姉はテレビをつけっぱなしにしたまま朝を待ち、
もう一泊の予定をキャンセルして
すぐに逃げ帰ったそうです。

姉はかなり合理的な性格ですから、
本来ならば、あの体験が何であるのか
突き詰めようとするはずです。

でも、あのことに関してだけは、
思い出したくない、考えたくないらしく、
どんな顔をしてたの?
廊下を歩いていくときに足は見えた?
という妹のバカな質問に「覚えてない!」と、
さもいやそうに答えます。

恐い体験には違いありませんが、哀切も感じます。
彼女は帰る場所を見つけられたのでしょうか。

(その後が気になる妹)


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2006-08-28-MON