おさるアイコン ほぼ日の怪談2005
怪・その22
「近づく影」

小学校高学年の夏休みの話です。

お盆も終わる頃、宿題をサボっていた私は
母に怒られ近所の祖父の家に
妹と共に避難していました。
祖父の家は古い木造の一戸建てで、
裏は駐車場がありましたが、
庭には亡くなった祖母が
趣味で育てていた植木が生い茂り、
畑だった場所には子供の腰くらいの草が
密集していました。
道路の街灯の明かりも遠く、夜は真っ暗でした。
ただ、表には飼犬がいて
吠えられるのがいやだった私は、
しょっちゅう裏口から出入りしていました。

9時をまわり、
そろそろ母の怒りも静まっただろうと、
いつものように裏口から帰ろうとしたところ、
私の名前を呼ぶ低い声が
庭から聞こえてくるのです。
一緒に居た妹は後ろで靴を履いています。
家族が呼んでいるのかとも思いましたが、
なんだか気味が悪くなった私は
開けかけた扉を閉め、
節が抜けた穴から庭を覗きました。

すると庭の向こうのほうから
ゆらゆらとした影が近づいてくるのです。
しかもやっぱり名前を呼びながら。
恐怖で声も出せずに、
妹を振り返ると顔を強ばらせて私を見ています。
よく見たなと今も思うのですが、
もう一度穴から覗くと、
車が停めてあるにも関わらず影は
それを突っ切って進んでくるのです。
もう恐怖でどうしようもなくなった私と妹は
家の中に逃げ込みました。

そして叔母たちに付き添われて
家まで帰りました。
家に着いて話を聞いた母が思い出したのですが、
死んだ祖母が若い頃、
夜裏庭で男の子に遊ぼうよと
声を掛けられたそうです。
時間も遅かったため気味が悪くなった祖母は
家に戻ったそうですが、
あとで近所の人から
事故で亡くなった男の子の話を聞き、
その特徴が庭で会った男の子に
とても似ていたということがあったそうです。

もう今はその家も取り壊されてしまいましたが、
夏になるとそのことを思い出します。
(Y)

2005-08-21-SUN
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