おさるアイコン ほぼ日の怪談2005
怪・その20
「見知らぬ本」

友人の話です。

その子と私は「本の匂いを嗅ぐ」という
ちょっと変な共通の癖を持っています。
紙に染み込んだいろんなインクの匂いが
なんだか心地よいのです。

その日も、友人はページを開いた本に顔を寄せて
インクの匂いを吸い込みました。
その本は、どうやら昭和の頃に刷られたものらしく、
すこしすえた匂いがしたそうです。
それだけならまだいいのですが、
なんだか生臭いような鉄のような匂いも微かに感じ、
「おかしいな」と本から顔を上げた瞬間、
両目から血を流した男のひとの顔が
彼女の眼前に迫っていました。

「たのしいか? たのしいのか?」

というしわがれた男のひとの声が
いまでも耳にこびりついてはなれないと言います。
そのひとが消えるまでの数秒とも数分ともいえない時間、
彼女は生きた心地がしなかったそうです。
そのすぐあとに、彼女はその本を古新聞などと一緒に
廃棄処分しました。

ただ、不思議なのが、
その本がいったい誰のものだったのか
今でもわからないということなのです。
家族に聞いても誰も知らないと首をかしげていたそうです。
(タロウ)

2005-08-19-FRI
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