おさるアイコン ほぼ日の怪談2005
怪・その14
「エレベーター」

20年ほど前の古い話で申し訳ありません。
私どもの事務所はビルの4階にありました。
このビルはその頃すでに築20年ほど経っていましたが、
私たちの街では一番大きな建物のひとつです。

昔からこのビルには
「出る」といううわさがあったのですが、
残業の多いオフィスでは、
そんなことを気にしているわけにはいきませんでした。
その日も残業で午後10時頃となり、
同僚2人と事務所のドアに鍵を掛け、
エレベーターに向かいながら
「夜食」はどこで食べようかなどと言って、
ビルディングの中心にある
エレベーターホールに向かいました。
ボタンを押して待っていると、
やがて「ピンポーン」といって、
エレベーターが来たという
「知らせ」のチャイムが鳴りました。

3人がエレベーターに乗り込んだとき、
私どもの事務所とは反対側のほうから
廊下を急いでこちらに向かっている足音が聞こえました。
私は廊下を駆け足で来る人を待つことにしました。
同僚たちにもこんな遅くまで、
一人どこかのオフィスの片隅で働いていたなんて
心細かっただろうなという気持ちがあったからでしょう、
同時に眼でうなずきました。
私もエレベーターに乗ってきたら
「ご苦労さん」と声ぐらい掛けようという気持ちで
「開」のボタンを押し続けて待ちました。

私たちがドアを開けて待っているのが
明かりの具合かなんかで分かって、
その足音が「タッタッタ」と
足早になっているのが分かりました。
足音はやっとエレベーターホールまでたどり着いて、
私たちが開けて待っているエレベーターの前で
ピタッと止まりました。
よっぽど急いだのでしょう、肩で息をついている
「ハアハア」という息遣いまで聞こえます。

でも、私たちの前には誰も居ないのでした。
私は急いで「開」のボタンを押していた指を離し、
「閉」のボタンを何回も押し続けました。
ドアがゆっくりと閉まります。
エレベーターはちょっとゴトンと揺れて降り始めました。
私たちは3人とも無言です。
でも眼だけはきょろきょろと
エレベーターの箱の中を見回しました。
だって「それ」はココに一緒に「いる」のですから。

1階にたどり着き、
私達はまたもゆっくりと開き始めたドアを
無理やりこじ開けるように外に飛び出しました。
そして「それ」は3人のうちの誰かと一緒に
家までいったのだろうと思いました。

私は独り者でした。
それ以来、友人が私の留守中に私のアパートを訪ねると、
見知らぬ中国服を着た背の低い男が出て、
「私は居ない」と答えてくれるということでした。
私は引越しするお金も無いので、
「それ」が私に危害を加えないのなら、
それはそれで便利だなと思うことにしました。
それからは誰も私の部屋に来なくなってしまったので、
私は今も同じ部屋に一人で暮らしています。
(Aki)

2005-08-16-TUE
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