おさるアイコン ほぼ日の怪談2005
怪・その2
「ノート」

だいぶ前、家族と車で近くの山に行きました。
休みによく行く山で、ふもとには赤い車が捨ててあり、
あふれる程のごみに埋もれています。
「すごい量のごみだなぁ」
父が声を上げたのをきっかけに、
私たち姉弟はいつもは気にもとめないごみを
検分しだしました。
大きなクマのぬいぐるみ、少女マンガ雑誌、汚れた毛布‥‥
雑多な品の中に、
ピンク色の小さな大学ノートがありました。
なんとなく手にとって眺めてみると、
1ページ目には若い夫婦と赤ちゃんの写真が
貼ってありました。
次からは家計簿のような使い方がされていて、
『食費 一ヶ月3,000円』の文字。
四ページあたりから真っ白になっていて、
最後のページに
写真のお母さんのものらしき文章がありました。

『結婚して○年。
 ○○ちゃんも六才になって‥‥
 ‥‥○○ちゃんも六才になって
 ‥‥○○ちゃんも六才に‥‥』

何度も書いては線で消される、
『六才』の文字。
異常な程少ない食費。
何かしら不気味になって、父にノートを渡しました。
父はしばらくノートを見た後、「捨てろ」と言いました。

もう長いこと、あの山には行っていません。
写真の家族は、今どうしているのでしょうか。
(手茉莉)

2005-08-05-FRI
「ほぼ日の怪談」にもどる もう、やめておく 次の話も読んでみる