アースダイバーの経験論!
経験論について プロフィール
06 質問:
中沢新一さんの本を作るまでの
過程は、どのようなものでしたか。
やりとりをしているうち、
ある日メールが来ました。
「テーマが決まった。
 偽書の話を書きたい。
 パスカルに
 『愛の情念論』という論文があって、
 哲学者で科学者の
 パスカルらしからぬところがあるのだけど、
 そのテクストの存在により、
 パスカルの読みに新しい議論を呼ぶ
 というような力を持っている……
 本物か偽物かは議論されるけど、
 現実を動かす力があれば、
 偽物もそれはそれで
 立派なものじゃないのというものなんだけど。
 その『愛の情念論』に関する
 論文を調べておいてほしい」
(こんなメールと記憶しています。
 間違っていたら、ごめんなさい)
ぼくはたまたまフランスに
通算三年ほど住んでいましたし、
たまたまその話を聞いた数週間後に
フランスに行くことになっていたので、
調べてきますといったんですね。
確かにパスカルの論文自体は
見つかったのですが、
それを論じたものは
なかなか見つかりません。
だからパスカルのいた修道院を見にいって
「その修道院の絵葉書です」
と中沢さんに報告をしたのですが、
そのころには既に
「やっぱりそれ、興味なくなった」と……。
まぁそんなものなのかなぁ、と、
長期戦を覚悟していたのです。
そんなこんなしているうちに、
新宿の喫茶店でお目にかかりました。
二〇〇〇年になっていたでしょうか。
「園部くんは、
 どういうテーマで書いてほしい?」
「何でもいいのですが、
 せっかく中沢さんが書くからには、
 五万部の企画をおねがいします」
とっさのことに、いままでずっと
読書界をリードしてきた先生に、
私ごときが
テーマをぶつけても仕方がないと思い、
数でおねがいしてしまったわけです。
それからまた時々メールしたり、
一度天ぷらを食べに行ったりもしました。
すると突然お電話があり、
「できあがりました。まあ読んでみてください」
ものすごくおもしろい講義録でした。
とうとう原稿をもらった興奮と、
内容の面白さに感動しながら読んだそれが、
カイエ・ソバージュ・シリーズの第一巻
『人類最古の哲学』の原稿だったんです。
そして「まえがき」を
書いていただいたら、そこには
「全五冊のシリーズになります」
とあって……ものすごく
ありがたかったのですが、半信半疑でした。
しかも、夏学期と冬学期という学期ごとに
講義を一冊ずつ出して、
二年半で五冊なんて夢のような話でした。

もしかしたらそう簡単に
最後までは出ないかもしれないが、
ええ、ままよと、一冊目を出したんです。
(注:カイエ・ソバージュシリーズは、
 結局二〇〇二年一月から半年ごとに
 コンスタントに出され、二〇〇四年二月に完結。
 五巻目の『対称性人類学』は小林秀雄賞を受賞)

(次回に続きます。)
photo
Photo : 大森克己
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2005-07-22-FRI

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