質問:
保坂さんにとって、
説明のつかない出来事は何ですか。
二十九歳の時に、
日本航空の御巣鷹山の墜落事故があって、
搭乗者名簿の写真を見たら
大学を卒業したっきり会っていなかった、
大阪電通に行ってたやつが映っていたんです。
やっぱりその時も、
ぼくは自分が何をどう感じているのか
わからなかった。
その友達とは
学生時代もそんなに親しくなかったの。
いいやつだから
しゃべったこともある、という程度……
彼は大阪電通でぼくは西武だから、
たぶん彼が生きていても
一生会わなかっただろうなぁと思うんだけど、
一生会わないはずのやつが
いきなり自分の前に「死んだ」と
出てきたことに「何だろう?」と思ったんです。
その時の気持ちというのは
「大学を卒業して以来、
 これからも二度と会うことはない友達が
 墜落事故の搭乗者名簿に
 載っていたことを発見した」
としか言えないんです。
こう言うと
「それで?」と聞く人もいるものなんだけど
「それだけ」なんです。
それだけでこちらの気持ちも考えも
いろいろなことが起きているはずだし、
そう伝えただけでも聞いた相手も
何かを思っているはずだから、
そこでもう一度コメントするのはおかしいんです。
「それで?」という質問は
「どういう小説だった?」
という質問に似ていて……
ほんとはいちいち
かいつまんだりしなくたっていいし、
こういうことが起きたんだという
そのままで充分なんです。

起きた出来事を整理して解釈しないで、
起きた出来事だけを
そのまま受けとめるようなクセを
作っておいたほうがいいとは思います。
そうしないとどれだけたくさん
状況やいきさつをしゃべっても、
「そこで保坂さんは何を感じましたか?」
というような質問をしてしまう。

 

明日に続きます。

 
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2005-07-20

Photo : Yasuo Yamaguchi All rights reserved by Hobo Nikkan Itoi Shinbun 2005