質問: 町田さんが700ページ近くの長編「告白」を書いた過程をうかがえますか?? あの小説の一つの柱の「自分の思いが表現できずに周囲とつながれていたい」という感覚は自分の体験でもあったと思います。2003年のある対談を本にまとめるにあたって最近その原稿を見ていると「言葉はほとんど通じないのではないか」という自分の発言があるんですね。ふだんの考えはダイレクトに小説につながっているなぁと思いました。 小説はある意味でそのすべてが 「人間は何を考えているのか」 を書くわけですけど、その本当のところは 自分自身にもわからないわけです。 プロ野球選手に ホームランを打った理由をきいても結局 「振ったら飛んだ」「打ちたかったから」 みたいな話になりますし、 まだできた理由なら 「俺がすごいから」「頑張ったから」 といえるかもしれないけど、 たとえば逆になぜ打てなかったかというのは、 たぶんなかなか、説明できないでしょう。 「なんで打てないの? 頑張ってないの?」 「イヤ、俺は三十過ぎてんのに  野原を走って鍛えてる」 プロ野球選手はヘタしたら三十八歳とかで 同年代がやらないような 過酷なトレーニングをするわけですよね。 それだけ頑張っているのに打てない。 本当の理由はわからないままなんです……。 しかも頑張るならいいほうで 「自分でもなぜ頑張らないかがわからない」 ということが日常では頻繁に起きるわけです。 大抵の人は、自分でダメだと思いながら やってしまうわけですよね。 これは自分自身に訊ねても理由はわかりません。 自制すべき時に自制できないもので……それを 「欲望のおもむくままにふるまったから」 と説明すればそれで終わりですが、 人間はふつうそういうことをしないという前提で 世の中が成り立っているわけです。 小説はつまりそういう 「わからないところ」を書くものなのですよね。
明日に続きます。
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2005-06-16 
Photo : Yasuo Yamaguchi [Hobo Nikkan Itoi Shinbun] 
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